投資信託の「出口戦略」。資産寿命を延ばす「定率取り崩し」と「定額取り崩し」の違い

「つみたてNISA」や「iDeCo」で、現役時代に一生懸命資産を増やしてきたあなた。 いよいよリタイア時期が近づき、こんな不安を抱えていませんか?

「貯めたお金、どうやって使えばいいの?」 「毎月少しずつ解約したいけれど、死ぬ前にお金が尽きたらどうしよう……」

実は、投資の世界では「資産を増やす(山登り)」よりも「資産を取り崩す(下山)」の方が圧倒的に難しいと言われています。

何も考えずに「毎月10万円必要だから」と解約を続けていると、暴落相場が来たときに資産が一気に溶け、想定よりはるかに早く底をつく恐れがあるからです。

そこで重要になるのが、「定額取り崩し」「定率取り崩し」という2つの出口戦略の使い分けです。

結論から言うと、あなたの資産寿命(お金が尽きるまでの期間)を延ばしたいなら、「定率取り崩し」が正解です。

この記事では、多くの人が陥る「取り崩しの罠」と、死ぬまでお金に困らないための賢い「出口戦略」について、シミュレーションを交えて解説します。

1. 多くの人が選んでしまう「定額取り崩し」の落とし穴

まずは、誰もが直感的に選んでしまう方法から見ていきましょう。

定額取り崩しとは?

「毎月5万円ずつ」や「毎月10万円ずつ」というように、「決まった金額」を指定して投資信託を解約する方法です。

  • メリット: 家計管理がしやすい。「年金+5万円」で生活する、といった計画が立てやすい。

  • デメリット: 暴落時に資産寿命を一気に縮める(これが最大の欠点)。

なぜ「定額」だと資産が早く尽きるのか?

投資信託の基準価額(値段)は日々変動しています。 「毎月10万円」を引き出すということは、以下のような売却を行うことになります。

  • 相場が良い時(高い時): 「少ない口数」を売って、10万円を作る。

  • 相場が悪い時(暴落時): 「大量の口数」を売らないと、10万円作れない。

これ、何かに似ていませんか? そう、積立投資の王道「ドル・コスト平均法」の真逆をやっているのです。

ドル・コスト平均法は「安い時にたくさん買う」から資産が増えました。 定額取り崩しは、「安い時に(安値で)たくさん売る」ことになります。これは投資効率として最悪の行為です。

暴落時に多くの口数を失ってしまうと、その後相場が回復しても、資産を増やすための「種(口数)」が残っていないため、資産残高が戻らなくなります。 これが、定額取り崩しが「資産寿命を縮める」と言われる理由です。


2. 資産寿命を延ばす最適解「定率取り崩し」

一方、ファイナンシャルプランナーや投資のプロが推奨するのがこちらです。

定率取り崩しとは?

「毎月、資産残高の0.3%ずつ」や「毎年、残高の4%ずつ」というように、「決まった比率(%)」を指定して解約する方法です。

  • メリット: 資産が長持ちする(理論上、ゼロにならない)。

  • デメリット: 受け取れる金額が毎月変動するため、生活費の計算がしにくい。

なぜ「定率」だと長生きできるのか?

定率取り崩しは、相場の変動に合わせて、売却する金額を自動調整する仕組みです。

  • 相場が良い時(高い時): 資産が増えているので、受け取る金額も増える(=利益確定)。

  • 相場が悪い時(暴落時): 資産が減っているので、受け取る金額も減る(=売りすぎを防ぐ)。

暴落時に「今月は受け取り額が減ったな」と我慢することで、大切な「投資信託の口数(種)」を温存できます。 種さえ残っていれば、相場が回復した時に、再び資産は大きく育ちます。

また、常に「残高の〇%」を取り崩すため、計算上、資産は永遠にゼロにはなりません(限りなく少なくなっていきますが、枯渇はしません)。


3. 【シミュレーション】暴落が起きたらこれだけ違う!

2,000万円の資産を、「年5%で運用」しながら取り崩すケースを考えてみましょう。 しかし、現実は毎年きれいに5%増えるわけではありません。「暴落(-20%)」や「急騰(+20%)」を繰り返します。

もし、取り崩し開始直後に「大暴落」が起きたらどうなるでしょうか。

ケースA:【定額】月10万円(年120万円)引き出す

暴落して資産が目減りしているのに、無理やり120万円分を売却し続けます。 資産は急激に痩せ細り、約15年〜20年程度で底をつく可能性があります。90歳、100歳まで生きる時代に、これは恐怖です。

ケースB:【定率】年4%(月換算で約6.6万円〜)引き出す

暴落時、2,000万円が1,600万円に下がったとします。 4%取り崩しなら、受取額は「64万円(月5.3万円)」に自動的に減ります。 「今月は苦しいな」となりますが、資産の減少カーブは緩やかになり、相場回復の恩恵を受けられます。結果、30年以上資産を持たせることが可能になります。


4. 米国の常識「4%ルール」を日本でどう使う?

投資の出口戦略として世界的に有名なのが、米国のトリニティ大学の研究から生まれた「4%ルール」です。

これは、「米国株と債券に半々で投資し、毎年、資産の4%を定率で取り崩せば、30年後に資産が残っている確率は98%以上である」という研究結果です。

つまり、「4%以内の定率取り崩しなら、死ぬまでお金は尽きない」というのが、一つの黄金ルールなのです。

ただし、これは米国の高い経済成長を前提としたデータです。 将来の不確実性を考慮するなら、日本で私たちが実践する場合は、もう少し保守的に「3%ルール」くらいで設定するのが安全かもしれません。

  • 資産2,000万円なら: 年3% = 年間60万円(月5万円)

  • 資産3,000万円なら: 年3% = 年間90万円(月7.5万円)

これくらいを「投資からの給料」として受け取る設定にしておけば、資産を減らさずに(あわよくば増やしながら)老後を過ごせる可能性が高まります。


5. 最強の折衷案:「ハイブリッド取り崩し」

ここまで読んで、「定率が良いのはわかったけど、受取額が減るのは生活に困る」と思われた方も多いでしょう。 そこで提案したいのが、定額と定率を組み合わせた「ハイブリッド戦略」です。

ステップ①:最低限の生活費は「現金・定額」で確保

家賃や光熱費、食費などの「息をするだけでかかるお金」は、年金で足りない分を「現金預金」または「iDeCoなどの定額取り崩し」で補填します。 ここは予測可能性を重視し、リスク資産に依存させないことが鉄則です。

ステップ②:ゆとり費は「定率」で楽しむ

旅行、外食、孫へのお小遣いなどの「なくても死なないけれど、あると嬉しいお金」は、新NISAなどの投資信託から「定率取り崩し」で賄います。

  • 「今年は株価が上がったから、豪華にハワイ旅行に行こう!」(受取額増)

  • 「今年は暴落したから、近場の温泉で我慢しよう」(受取額減)

このように、相場の波に合わせて生活レベルを微調整することで、資産寿命を延ばしつつ、心の平穏も保つことができます。


まとめ:下山の技術を身につけよう

現役時代の資産形成は「気合と根性(節約と入金力)」でなんとかなりました。 しかし、老後の資産活用は「技術と知識」が必要です。

何も考えずに「定額」で取り崩すと、暴落時に資産寿命を縮める「逆・ドルコスト平均法」の罠にはまります。

【出口戦略の結論】

  1. 資産を長持ちさせたいなら、「定率取り崩し」一択。

  2. 目安は「年3%〜4%」の設定。

  3. 生活費の不足分は「定額」、お楽しみ代は「定率」と使い分けるのが現実的。

「死ぬ時に一番お金持ちでも仕方がない」と言われます。 適切に取り崩し、適切に使い、豊かな人生の後半戦を楽しんでください。 あなたの資産は、使うためにあるのですから。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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