遺産を独占されたらどうする?取り戻す方法や注意点とは

もしも相続の開始後に、被相続人の遺産が特定の相続人に独占されていたら、どのように対応すればよいでしょうか。遺産の独占にはさまざまなケースがあり、遺産分割協議時や遺言書がある場合など、ご状況に合わせた対応が必要です。

そこで、本記事では特定の相続人が遺産を独占していることを想定し、遺産を取り戻す方法や注意点を詳しく解説します。

相続争いのイメージ

遺産を独占されたらどうする?対応すべき4つのケースとは

被相続人の遺産を相続する際には、予期せぬトラブルが起きることが少なくありません。特に遺産を特定の相続人が独占している、あるいは独占が疑われる場合、他の相続人の方々はどのように対応すべきでしょうか。

この章では、遺産が独占される代表的な4つのケースと、それぞれの基本的な考え方について解説します。(取り戻す方法は次の章で解説します)

1.遺産分割協議でもめているケース

被相続人が生前に遺言書を残していない場合、相続人全員で遺産をどのように分けるか「遺産分割協議」にて話し合います。しかし、特定の相続人が遺産の独占を主張する場合、協議がまとまらないおそれがあります。

このようなケースでは、遺産分割協議・調停・審判の中で解決を模索します。詳しくは後述します。

2.遺言書で特定の相続人・団体が財産を独占したケース

被相続人が生前に遺言書を残している場合、遺言書の内容に沿って遺産の分配を行います。しかし、特定の相続人に遺産を集中させる・遺贈で団体などにすべて遺贈するなど、遺産を特定の相続人・団体へ集中させるような記載のケースは少なくありません。

例・遺言者 山田 太郎は、次のとおり遺言する。 遺言者が所有するすべての財産を、遺言者の妻 山田 花子(○年○月○日生)に相続させる。 

上記のようなケースでは、山田花子さん以外の相続人が遺留分を侵害されているため、遺留分侵害額請求で解決を模索することが考えられます。また、遺言書の無効が疑われるケースでは、遺言無効確認請求訴訟という方法で解決を求めることも検討できます。

3.特定の相続人が財産を隠しているおそれがあるケース

被相続人の遺産(相続財産)とは、預貯金や不動産、有価証券など多岐にわたります。被相続人の財産を生前に管理をしていた相続人がいる場合、その相続人が他の相続人に対して、財産の一部を隠したり、全容を明らかにしないまま遺産分割を進めようとしたりするケースもあります。

  • 被相続人の預貯金通帳の開示を拒否する
  • 特定の不動産や有価証券の存在を知らせない
  • 「被相続人の財産はこれだけしかない」と言われたが明らかに少ない

このような状況では、隠された財産は実質的に隠した相続人に独占されていることになります。他の相続人としては、まずは正確な財産調査を行い、隠された財産を特定することが重要です。

4.特定の相続人が生前に財産を使い込んでいるケース

被相続人が特定の相続人に財産管理を任せていた、あるいは同居の家族が管理・扶養していた場合などでは、その相続人が被相続人の財産を自身の目的のために使い込んでしまうことがあります。このようなケースでは、本来他の相続人がもらえたはずの遺産が不当に減少している可能性があります。

  • 被相続人の口座から多額の使途不明金が引き出されている
  • 被相続人の名義のカードで、被相続人以外の物が多く購入されている

これらのケースでは使い込みが証明できれば、その金額を遺産に加算して計算したり、使い込んだ相続人に返還を求めたりできる可能性があります。

1~4のケース別の対処法とは

上記で挙げた4つのケースは、それぞれ遺産の独占を解決するための対処法が異なります。

  1. 遺産分割協議でもめているケース: 遺産分割協議・調停・審判
  2. 遺言書で特定の相続人が財産を独占したケース: 遺留分侵害額請求、遺言無効確認請求訴訟
  3. 特定の相続人が財産を隠しているおそれがあるケース: 財産調査後に対応を検討
  4. 特定の相続人が生前に財産を使い込んでいるケース: 不当利得返還請求、損害賠償請求

次に、それぞれの詳しい手続き方法を解説します。

遺産を取り戻す方法を個別に紹介

遺産を取り戻すための手続きについて、この章では上記の4つのケースに合わせてそれぞれ解説します。

1.遺産分割を争う場合

遺産分割でもめている場合は、まずは相続人全員による遺産分割協議を行います。しかし遺産分割協議は相続人当事者での話し合いのため、平行線のままとなるケースもあります。次に、以下の方法を検討しましょう。

・遺産分割調停 (家庭裁判所で調停による話し合い)
調停委員が間に入り各相続人の意見を聞きながら合意を目指しますが、不成立の場合もあります。

・遺産分割審判(調停が決裂した場合)
審判では、裁判官が証拠に基づいて遺産分割の方法を決定します。

遺言書に納得できない場合

遺言書の内容に納得がいかない場合、以下の方法で解決を模索できます。

①遺留分侵害額請求

兄弟姉妹以外の法定相続人には、法律で保障された最低限の遺産の取り分「遺留分」があります。遺言書によってこの遺留分が侵害された場合、遺留分を侵害した相続人や受遺者に対し、侵害された金額に相当する金銭の支払いを請求できます。

まずは内容証明郵便などで請求し、話し合いで解決しない場合は家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申立てします。それでも解決しない場合は遺留分侵害額請求訴訟を提起します。

②遺言無効確認調停・訴訟

遺言書が法律で定められた要件を満たしていない場合(例えば、自筆証書遺言に日付がないなど)や、被相続人に遺言能力がなかった場合(認知症などで判断能力が著しく低下していた場合)に、その遺言書の無効を主張する調停が可能です。

調停は家庭裁判所に調停を申立てします。調停が不成立などの場合は、地方裁判所へ遺言無効確認訴訟を提起します。(調停をせずに訴訟も可能です)

財産が隠されている場合

特定の相続人が遺産の一部を隠している疑いがある場合、まずはその事実を明らかにするために財産調査から始めます。相続人が財産調査に非協力的であれば、弁護士に依頼して弁護士会照会(弁護士法23条の2)を利用することで、金融機関などから情報開示を求めることもできます。

不当利得返還請求・損害賠償請求

隠された財産が判明し、それが特定の相続人によって不当に取得されたものであることが証明できれば、その相続人に対して不当に得た利益の返還(不当利得返還請求)や、財産を隠したことによる損害の賠償(損害賠償請求)を求めることができます。悪意があったと認められる場合は、年3%の利息も付けて返還する義務があります。

財産が使い込まれている場合

被相続人の生前に、特定の相続人が財産を使い込んでいたケースでは、その使い込みを立証し、返還を求める必要があります。まずは使い込みの証拠収集するために、不審な高額な引き出しや送金、使途不明な支出がないか詳しく調べます。

使い込みが証明できれば使い込んだ相続人に対して、その金額を返還するよう請求できます。財産が隠されている時と同様に、不当利得返還請求や損害賠償請求で解決を求めます。

遺産トラブル時の2つの注意点

遺産を独占されるなどの遺産トラブルに巻き込まれた際、特に注意すべき点が2つあります。以下2点をご確認ください。

相続税申告がある場合は期限に注意

相続が発生すると相続税がかかる場合があります。相続税の申告・納税には期限が設けられており、これを過ぎると延滞税などのペナルティが課される可能性があります。期限は原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。

仮に遺産分割が終わっていなくても、相続税の申告と納税は期限内に行う必要があるため遅れないようにしましょう。法定相続分で分割したとして申告・納税を行い、後に遺産分割が確定してから更正の請求や修正申告を行うことになります。

請求手続きにも期限がある

前述した遺留分侵害額請求や不当利得返還請求などにも期限が設けられています。この期限を過ぎてしまうと、自身の権利が侵害されていても権利を行使できなくなってしまいます。

■遺留分侵害額請求

・遺留分侵害の事実を知った時(侵害があったことを認識した時)から1年以内
・もしくは相続開始の時(被相続人が死亡した時)から10年以内

■不当利得返還請求

・遺産の使い込みを知った時から5年以内
・もしくは遺産が使い込まれた時(権利を行使できるとき)から10年以内

例として遺言書の内容を知り、ご自身の遺留分が侵害されていると知った時から1年以内に請求しなければなりません。ただし、遺留分侵害額請求の意思を内容証明郵便などで相手に伝えることで、時効の完成を6か月間延長させることができます。

この他にも損害賠償請求にも損害および加害者を知ったときから3年、または不法行為のときから20年のいずれか早いほうという期限があります。請求にはさまざまな証拠や手続きの書類なども作成する必要があるため、早めに弁護士へ相談することがおすすめです。

まとめ

大切な被相続人の財産が使い込まれていた場合、一人で抱え込まずに信頼できる専門家、特に弁護士への相談がおすすめです。このような問題は精神的な負担も大きく、解決までに時間も労力もかかることが少なくありません。

調停や訴訟といった法的手続きを要する場合も多く、専門知識が不可欠です。さらに、相続税申告には厳格な期限があり、遺留分侵害額請求など各種手続きにも時効があるため、対応が遅れるとご自身の権利を失う可能性もあります。早めに専門家と連携し、適切な対策を講じましょう。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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