独身・おひとり様の「終活」。自分の財産を確実に希望通りに使ってもらうための信託活用術
「一生独身で過ごしてきた。稼いだお金は自分のために使い切りたい」 「子供がいない夫婦。どちらかが先に逝った後、遺された方はどうなるのか」 「親族とは疎遠。死んだ後に、見ず知らずの遠い親戚に財産が渡るのは納得がいかない」
生涯未婚率の上昇や核家族化に伴い、「おひとり様」の老後は、もはや特別なことではありません。 自由気ままなシングルライフですが、終活の局面では、家族がいる人とは全く異なる「切実なリスク」が立ちはだかります。
それは、「頼れる家族がそばにいないため、自分の意思を代行してくれる人がいない」というリスクです。
もし認知症になったら、誰が銀行からお金を下ろして入院費を払ってくれるのでしょうか? もし亡くなったら、誰が葬儀をあげ、誰が残った財産を受け取るのでしょうか?
ただの「遺言書」だけでは、これらの不安を全てカバーすることはできません。 そこで今、おひとり様の強力な武器として注目されているのが「信託」という仕組みです。
この記事では、独身・お子様なし世帯の方が、最後まで自分らしく生き、自分の財産を希望通りに使い切るための「信託活用術」を解説します。
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1. おひとり様を襲う「2つの空白期間」
なぜ、遺言書だけではダメなのでしょうか。 遺言書は「死んだ瞬間」に効力を発揮しますが、おひとり様にはケアしなければならない「2つの魔の時間」があるからです。
空白①:認知症になってから死ぬまで
判断能力を失うと、銀行口座は凍結されます。自分のお金があるのに、介護施設の入居金が払えない、生活費が引き出せないという事態に陥ります。遺言書はこの期間、何の役にも立ちません。
空白②:死んだ直後から納骨まで
死後、銀行口座は再び凍結されます。葬儀費用や未払いの入院費、部屋の片付け費用など、すぐに現金が必要な場面で、誰がどうやって支払うかが問題になります。
この2つの空白を埋めるのが、「信託(信じて託す)」の力です。
2. 銀行にお任せ! 手軽な「商事信託」の活用
まず、最も手軽に始められるのが、信託銀行などが提供している「商事信託(商品としての信託)」です。 「管理してくれる親族が誰もいない」という方でも利用しやすいのが特徴です。
① 遺言代用信託(いごんだいようしんたく)
「自分が死んだら、すぐにこのお金を〇〇さんに渡して」と銀行に予約しておく機能です。 通常の相続手続きは、戸籍を集めたり遺産分割協議をしたりと数ヶ月かかりますが、これを使えば最短数日で、指定した受取人(甥や姪、あるいは葬儀を頼む知人など)が簡易な手続きで現金を受け取れます。 「自分の葬式代」を確実に確保したい場合に有効です。
② 金銭管理信託(セキュリティ型信託)
「自分が認知症になったら、代わりに払ってね」という契約です。 あらかじめ銀行にお金を預けておき、認知症の診断が出た後は、銀行が本人に代わって「老人ホームの入居金」や「医療費」「生活費」を払い出してくれます。 代理人(親族や弁護士など)の指名が必要な場合が多いですが、詐欺被害防止にもなり、老後資金を守る金庫番として機能します。
3. 信頼できる人がいるなら「民事信託(家族信託)」
もし、あなたに「甥・姪」や「信頼できる友人」がいるなら、銀行の商品ではなく、個人間で契約を結ぶ「民事信託」の方が、より柔軟に希望を叶えられます。
ケーススタディ:甥に託す「おひとり様信託」
独身のAさん(75歳)は、兄の息子である「甥のBさん」と仲が良く、老後の面倒を見てもらいたいと考えています。
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契約: AさんとBさんの間で信託契約を結ぶ。
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財産移動: Aさんの預金と自宅の名義を、形式上Bさんに移す。
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運用: Bさんは、Aさんのためにそのお金を管理し、必要な時にAさんの生活費として給付する。もしAさんが認知症になっても、Bさんの権限で実家を売却し、施設費用を作ることができる。
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承継: Aさんが亡くなったら、残った財産はBさんにあげる(または、お世話になったCさんにあげる)と決めておく。
メリット: 成年後見制度のような裁判所の監督(厳しい報告義務や専門家報酬)がなく、家族の絆ベースで柔軟に財産管理ができます。
4. 「財産」だけでは足りない。「身上監護」の壁
ここで一つ、非常に重要な注意点があります。 信託ができるのは、あくまで「お金と不動産の管理」だけです。
しかし、おひとり様の老後には「お金以外の困りごと」がたくさん発生します。
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入院時の身元保証人は?
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手術の同意書へのサインは?
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介護施設の入居契約は?
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死後の遺品整理は?
これら「身上監護(しんじょうかんご)」や「死後事務」と呼ばれる行為は、信託契約ではカバーできません。 そこで、信託とセットで検討すべきなのが「任意後見(にんいこうけん)契約」です。
最強の組み合わせ:「信託」+「任意後見」
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信託: 財産管理を任せる。
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任意後見: 身上監護(契約行為や同意)を任せる。
おひとり様の場合、信頼できる第三者(司法書士や弁護士、一般社団法人など)と、この2つをセットで契約することで、「お金のことも、体のことも、死後のことも」全てワンストップで任せられるようになります。
5. 財産を「社会」に還すという選択(遺贈寄付)
「あげる親戚もいないし、国庫に取られるのも癪(しゃく)だ」 「最後は、自分の好きな保護猫活動や、母校に寄付したい」
おひとり様ならではの美しい終わり方が、「遺贈寄付(いぞうきふ)」です。 自分の死後、残った財産を公益団体やNPO、大学などに寄付することです。
どうやって実現する?
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遺言書で指定する: 遺言書に「全財産を〇〇団体に寄付する」と書くのが一般的です。ただし、不動産などが含まれると団体側が困るケースがあるため、事前の調整が必要です。
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信託銀行の遺贈寄付サービス: 銀行と契約し、金銭に変えてから確実に寄付してもらう方法です。
「私の人生の証が、次の世代の役に立つ」。 この充足感は、おひとり様の終活を、不安なものから「希望あるプロジェクト」へと変えてくれます。
まとめ:自分の人生の「総監督」になろう
家族がいる人は、ある意味で「家族任せ」にできる部分があります。 しかし、おひとり様は、自分の最後を自分でデザインしなければなりません。
それは大変なことのように思えますが、裏を返せば「誰にも気兼ねなく、100%自分の好きにお金と人生を使い切れる」ということです。
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手軽に済ませたいなら、銀行の信託商品。
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特定の支援者がいるなら、民事信託。
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身寄りが全くないなら、専門家との任意後見+信託。
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最後に社会貢献したいなら、遺贈寄付。
「何もしない」のが一番のリスクです。 元気なうちに仕組みを作ってしまえば、あとは安心して、趣味や旅行に没頭する最高のシングルライフが待っています。
