地震保険は入るべき? 持ち家シニアが考えるべき被災リスクと生活再建資金

「能登半島地震のニュースを見て、慌てて証券を確認した」 「年金生活で保険料の支払いはきついが、古い家だから地震が怖い」

地震大国・日本において、持ち家に住むシニア世代にとって「地震保険」は、避けて通れない悩みの種です。

火災保険には入っていても、地震保険は「保険料が高い」「どうせ全額は補償されないんでしょ?」という理由で、加入を迷っている、あるいは外してしまったという方も少なくありません。

しかし、シニア世代だからこそ、地震保険の役割は「家の建て替え」ではなく、「老後破綻の防波堤」へと大きく変わります。

現役時代のように、ローンを組んで再出発することが難しい今、被災した瞬間に「住む場所」と「老後資金」の両方を失うリスクは計り知れません。

この記事では、持ち家シニアが直面する被災リスクの現実と、地震保険が果たす「生活再建」のための本当の役割について、損得勘定を超えた視点から解説します。

1. 最大の誤解:「地震保険は家を元通りにするためのもの」

多くの人が加入をためらう最大の理由が、「補償額の低さ」です。

地震保険には、法律で定められた以下の鉄則があります。

  • 契約できる金額は、火災保険金額の30%〜50%まで。

  • 建物は5,000万円、家財は1,000万円が上限。

例えば、建物の評価額が2,000万円の家の場合、地震保険は最大でも「1,000万円」までしかかけられません。 もし地震で家が全壊しても、1,000万円しか下りないのです。これでは、同じ家を再建することは不可能です。

「元通りにできないなら、高い保険料を払う意味がないのでは?」 そう思うのは当然です。

しかし、そもそも地震保険の目的は「家の再建」ではありません。 国(財務省)は、地震保険の目的を「被災者の生活の安定(生活再建資金の確保)」と定めています。

つまり、「とりあえず当面の生活に困らないための、まとまった一時金」を受け取るための制度なのです。この認識のズレを修正することが、検討の第一歩です。


2. シニアを襲う「二重の喪失」リスク

現役世代なら、被災しても働いて収入を得たり、長期ローンを組んで家を建て直したりすることができます。 しかし、年金生活のシニアにはその選択肢がありません。被災すると、以下の「二重の苦しみ」に直面します。

リスク①:老後資金(貯金)の枯渇

家が半壊し、住み続けるために500万円の修繕費がかかるとします。 保険に入っていなければ、虎の子の老後資金から500万円を取り崩さなければなりません。

「人生100年時代」に残しておいた大切なお金が、一瞬で消える。 その後の生活は、医療費や介護費用の心配におびえながらの、ギリギリの暮らしになってしまいます。

リスク②:住居の喪失と「家賃」の発生

もし家が全壊し、住めなくなったらどうなるでしょうか。 避難所生活の後、仮設住宅や賃貸アパート(みなし仮設)に移ることになります。 公的な支援が終われば、そこからは「家賃」が発生します。

持ち家ならかからなかった毎月数万円〜十数万円の固定費が、年金収入に重くのしかかります。 この時、手元にまとまった現金がなければ、生活保護水準まで生活レベルを落とさざるを得なくなります。


3. 地震保険金は「次の生活へのパスポート」

では、地震保険に入っていればどうなるのでしょうか。 先ほどの例(評価額2,000万円の家で、1,000万円の保険金)で考えてみましょう。

全壊判定で「1,000万円」が振り込まれたとします。 このお金の使い道は自由です。必ずしも家を建て直す必要はありません。

シニアならではの「賢い使い道」

  1. 賃貸への引っ越し資金にする: 被災した土地や家屋の処分費用に使い、残りを「一生分の家賃の前払い」として確保し、安全な鉄筋コンクリートのマンションや、子供の家の近くのアパートへ引っ越す。

  2. 中古マンションの購入資金にする: 郊外の戸建てにこだわらず、保険金+手持ち資金で、駅近の小さな中古マンション(現金一括払い)に移り住む。

  3. 修繕して住み続ける: 全壊ではなく半壊なら、保険金でリフォームを行い、慣れ親しんだ我が家を守る。

このように、保険金は「次の住処(すみか)を確保するための切符」になります。 これがあるだけで、「住む場所がない」「お金がない」という絶望から救われ、選択肢を持つことができるのです。


4. 「保険料」vs「貯金」 どちらが得か?

「保険料が高いから、その分を貯金した方がいいのでは?」 という意見もあります。確かに、地震保険料は地域や建物の構造によって高額になります。

しかし、シニア世代にとって「貯金で備える」のは現実的ではありません。

時間の壁

例えば、年間3万円の保険料を「高い」と言って解約し、自分で積立貯金をしたとします。 10年で30万円、20年で60万円です。 もし明日、巨大地震が起きたら? 60万円では瓦礫の撤去費用にもなりません。

地震保険なら、加入した翌日に被災しても、満額の1,000万円が下りる可能性があります。 「時間を買える」のが保険の最大のメリットです。いつ起こるかわからない災害に対しては、貯金よりも保険の方が圧倒的に効率が良いのです。

所得控除(節税)のメリット

地震保険料は、年末調整や確定申告で「地震保険料控除」の対象になります(所得税で最大5万円、住民税で最大2万5,000円)。 年金などの所得税・住民税を払っている方なら、実質的な保険料負担はもう少し軽くなります。


5. 入るべき人、入らなくていい人の境界線

とはいえ、全員に必須かと言えばそうではありません。 ご自身の資産状況に合わせて判断しましょう。

【加入すべき人】(リスクが高い人)

  • 住宅ローンがまだ残っている人: 被災すると「ローンの残り」+「新しい家賃」の二重苦になります。絶対に加入すべきです。

  • 老後資金(貯蓄)に余裕がない人: 数百万円の修繕費を出したら生活が破綻する人は、保険でカバーする必要があります。

  • 昭和56年(1981年)5月以前の「旧耐震基準」の家の人: 倒壊リスクが高いため、保険料が高くても命綱として必要です。

【加入を検討してもいい人】(リスクが低い人)

  • 潤沢な資産がある人: 家が潰れても、すぐに現金で別のマンションを買えるだけの金融資産(数千万円以上)があるなら、保険は不要です。

  • 土地の価値が非常に高い人: 建物が全壊しても、更地にして土地を売れば十分な資金が得られ、すぐに買い手がつくような好立地であれば、保険の優先度は下がります。


6. 「家財」の地震保険を見落とすな!

最後に、多くの人が見落としがちな重要ポイントをお伝えします。 それは、建物だけでなく「家財(家具・家電)」の地震保険です。

実は、建物が「一部損壊」という判定で保険金が少ししか出なくても、家財は「全損」扱いになり、満額下りるというケースが多々あります。

  • テレビや冷蔵庫が倒れた。

  • 食器棚が倒れて、中の高級食器が全部割れた。

これだけで、数十万円〜100万円の一時金が受け取れる可能性があります。 家財の保険料は比較的安いため、「建物は最低限にして、家財保険を厚くかけておく」というのは、生活再建資金を確保するための非常に有効なテクニックです。

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