75歳を超えたら「投資をやめる」決断も必要? 認知機能低下と資産整理のタイミング
【75歳を超えたら「投資をやめる」決断も必要? 認知機能低下と資産整理のタイミング】
「人生100年時代、資産運用は死ぬまで続けるべきだ」 新NISAのブームもあり、世の中にはそんな「生涯投資」を推奨する声が溢れています。
確かに、長生きリスクに備えて資産寿命を延ばすことは大切です。 しかし、私たちは一つだけ、決して避けて通れない残酷な現実を直視しなければなりません。
それは、「体と同じように、脳も老化する」という事実です。
足腰が弱くなれば車の運転免許を返納するように、判断能力が低下し始めたら、複雑な投資の世界から身を引く、あるいはハンドルを家族に渡す「投資の免許返納」を検討すべき時期が必ずやってきます。
その分水嶺となるのが、後期高齢者となる「75歳」です。
この記事では、加齢による認知機能の低下が資産運用に与えるリスクと、晩節を汚さないための「きれいな投資の辞め方・減らし方」について解説します。
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1. 金融老年学が示す「75歳の壁」
「自分はまだしっかりしているから大丈夫」 多くの方がそう思っています。しかし、お金に関する判断能力(ファイナンシャル・リテラシー)は、本人の自覚よりも早くピークアウトすることが研究でわかっています。
「金融老年学」という分野の研究によると、金融リテラシーのピークは50代〜60代前半。その後は緩やかに低下し、特に75歳を過ぎると判断能力の低下が顕著になると言われています。
75歳を過ぎて「投資」を続ける3つのリスク
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管理不全リスク: パスワードを忘れる、証券会社からの書類の意味が理解できない、ネット証券の操作ができなくなる。これにより、資産が「放置」され、塩漬けになります。
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詐欺被害リスク: 判断力が低下すると、「元本保証で高配当」といった詐欺的な勧誘や、銀行窓口での不要な高手数料商品のセールスに抵抗できなくなります。
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相続トラブルのリスク: 「どの証券会社に何を持っているか」が本人にもわからなくなると、遺された家族は資産を探し出すだけで膨大な労力を強いられます。
2. 投資をやめるべき? 「シグナル」を見逃すな
では、具体的にいつ決断すべきなのでしょうか。 以下のような兆候(シグナル)が一つでも現れたら、それは「投資の店じまい」を始めるサインです。
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PCやスマホの操作が億劫になった: ログインパスワードを何度も間違えるようになった。
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ニュースに関心がなくなった: 以前は毎日チェックしていた株価や経済ニュースを見ても、頭に入ってこなくなった。
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「新しいこと」が理解できない: 新NISAの制度変更や、新しい金融商品の仕組みを聞いても理解するのが難しい。
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通帳や印鑑の場所を忘れる: 「あれ、どこに置いたっけ?」が増えた。
これらは単なる「物忘れ」ではありません。複雑な金融取引を行う能力が低下している危険信号です。
3. 「やめる」=「全額現金化」ではない
ここで誤解してはいけないのが、「投資をやめる=今すぐ全ての株を売って現金にする」ことが必ずしも正解ではないということです。
インフレが続く現代において、全額を現金(預金)にしてしまうと、資産価値が目減りするリスクがあります。 75歳からの戦略は、「運用をやめる」のではなく、「運用を限りなくシンプルにする(自動運転に切り替える)」ことです。
目指すべき「シンプル運用」の形
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複雑なもの: 個別株、毎月分配型投信、FX、仕組み債
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→ すべて売却・解約する。
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シンプルなもの: 全世界株式インデックス投信、個人向け国債
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→ これだけを残す。
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個別株は「企業の業績チェック」や「売り時の判断」が必要です。これは75歳以上の脳には高負荷な作業です。 一方、インデックス投信なら「持っているだけ」で済みます。 「判断が必要な資産」を手放し、「持っているだけでいい資産」に集約する。 これが正しい「やめ方」です。
4. 実行! 資産の「断捨離」3ステップ
では、具体的にどのように資産整理を進めればよいのでしょうか。 元気なうちに実行すべき3つのステップを紹介します。
ステップ①:口座の「一本化」
「A証券に株、B銀行に投資信託、C銀行に定期預金……」 このように資産が散らばっているのが最悪です。
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証券会社は1社にする: 複数の口座があるなら、メインの1社に株を移管(または売却して資金移動)し、他は解約します。
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銀行口座は2つにする: 「年金受取・生活費用の口座」と「貯蓄用の口座」の2つに絞ります。
これだけで、本人も家族も管理が劇的に楽になります。
ステップ②:個別株の「卒業」
長年応援してきた企業の株や、株主優待を楽しみにしている株があるかもしれません。 しかし、個別株は企業の不祥事などで紙屑になるリスクがあります。
75歳を節目に、「個別株は全て売却して、インデックス投信(または現金)に乗り換える」ことを強くお勧めします。 「優待がなくなるのは寂しい」と思うかもしれませんが、売却した現金で好きなものを買ったほうが、結果的に自由度は高まります。
ステップ③:家族への「権限委譲」
口座と商品を整理したら、最後の仕上げです。 万が一、認知症で口座が凍結されないように、以下のいずれかの手を打っておきます。
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証券口座の「代理人」登録: 子供などを代理人に登録し、本人の代わりに売却・出金できるようにしておく。
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家族信託の契約: 資産の管理権限を子供に移してしまう。
ここまでやって初めて、安心して「投資の引退」ができます。
5. 相場が良い「今」こそが、辞めるチャンス
「今は株価が上がっているから、もう少し持っていたい」 「損が出ているから、戻るまで待ちたい」
そう思うのが人情ですが、資産整理(終い支度)は、相場が平穏な時にしかできません。 大暴落が起きてパニックになっている時に、冷静な判断で資産を整理することは、若い人でも不可能です。
株価が堅調な今こそ、利益確定をして現金比率を高めたり、複雑な商品を整理したりする絶好の機会です。
「最高値で売り抜けよう」という欲を捨ててください。 「腹八分目で利益を確定し、面倒な管理から解放される自由」を手に入れること。それが75歳からの投資の成功です。
まとめ:それは「諦め」ではなく「バトンタッチ」
75歳を過ぎて投資を縮小することは、決して「負け」や「ボケの始まり」を認めることではありません。 今まで築き上げてきた大切な資産を、「使いやすく、守りやすい形」に整えて、次の世代(あるいは将来の自分)にバトンタッチする、責任ある行為です。
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増やすことより、守ること。
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複雑さより、単純さ。
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自分一人で抱え込まず、家族と共有すること。
この3つを意識して、ポートフォリオの「断捨離」を始めてみませんか? 身軽になった資産状況は、きっとあなたの老後の心にも、安らぎと余裕をもたらしてくれるはずです。
