「ラップ口座(ファンドラップ)」は手数料が高いだけ? プロに任せるメリットを検証
「退職金の運用をどうしようか……」 銀行の窓口で相談すると、必ずと言っていいほど提案される商品があります。
それが、「ファンドラップ(ラップ口座)」です。
「お客様は投資のプロにお任せいただくだけです」 「市場環境に合わせて、自動で最適な売買を行います」
担当者の説明を聞くと、まるで専属の執事がついたような特別感があり、「これなら安心かも」と思ってしまいます。 しかし、帰宅してネットで検索してみると、「手数料が高い」「ぼったくり」「絶対に買うな」という辛辣な言葉が並んでいます。
一体、どちらが本当なのでしょうか?
結論から言うと、ファンドラップは「資産を効率よく増やしたい人」にとっては最悪の選択肢ですが、「コストを払ってでも、全ての判断と責任を放棄したい人」にとっては、検討の余地があるサービスです。
この記事では、賛否両論あるファンドラップの仕組みと「高額な手数料」の内訳を解剖し、新NISA時代の今、あえてこれを選ぶメリットがあるのかを徹底検証します。
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1. ファンドラップとは? 「おまかせコース」の仕組み
ファンドラップとは、一言で言えば「投資のフルオーダーメイド・サービス」です。
通常の投資信託は、商品を自分で選んで買わなければなりません(アラカルト注文)。
一方、ファンドラップは、いくつかの質問(リスク許容度など)に答えるだけで、金融機関があなたに代わって「商品の選定・購入・売却・入れ替え」の全てを行ってくれます(おまかせコース料理)。
あなたは、契約書にハンコを押して、お金を入金するだけ。
あとはプロ(またはAI)が、「今は株が下がったから債券を増やそう」といったメンテナンス(リバランス)を自動でやってくれます。
この「何もしなくていい」という快適さが、最大の売りです。
2. 最大のデメリット:利益を食いつぶす「二重の手数料」
ネット上で批判される最大の理由は、そのコストの高さにあります。
ファンドラップには、構造上、以下の「2つの手数料」がかかります。
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投資顧問料(ファンドラップフィー):
「運用をお任せする代金」として、金融機関に支払う手数料。
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信託報酬(ファンドの手数料):
ラップの中で実際に投資している「投資信託」そのものにかかる手数料。
合計で「年率2%〜3%」が消えていく
一般的なファンドラップの場合、この2つを合計すると、資産残高に対して年間2.0%〜3.0%程度のコストがかかります。
これがどれほど高いか、新NISAで人気のインデックスファンド(eMAXIS Slim 全世界株式など)と比較してみましょう。
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インデックスファンド: 年率 約0.06%
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ファンドラップ: 年率 約2.50%
その差は、なんと約40倍です。
もし、市場が好調で「年5%」のリターンが出たとします。
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インデックスファンドなら: 手数料を引いても 約4.9% があなたの利益。
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ファンドラップなら: 手数料を引くと 約2.5% しか残りません。
利益の半分を金融機関に持っていかれる計算です。
さらに、もし運用成績が「±0%」だった場合、手数料の分だけ確実にマイナス2.5%の損失になります。
「プロに任せているのに、資産が減り続ける」という現象の正体は、この高コスト体質なのです。
3. それでも「メリット」はあるのか? 擁護派の視点
では、ファンドラップは「百害あって一利なし」なのでしょうか?
公平な視点で見れば、特定の層にとってはメリットになり得ます。それは「精神的な安定」と「管理の手間」をお金で買うという考え方です。
メリット①:「暴落時のパニック売り」を防げる
投資初心者が最も失敗するのは、暴落時に怖くなって自分で売ってしまうことです。
ファンドラップの場合、運用は「一任」されているため、暴落時でも機械的にリバランス(下がった資産を買い増すなど)が行われます。
「担当者にお任せしている」という安心感が、狼狽売りという最悪の行動を止めるストッパーになります。
メリット②:相続・贈与機能がついている場合がある
一部のファンドラップには、「認知症になったら家族が出金できるようにする」「自分が死んだら、指定した孫に資産を渡す」といった特約(相続サポート機能)が付帯しているものがあります。
単なる資産運用だけでなく、「終活」の一環として利用するなら、手数料は「管理料」として正当化できるかもしれません。
メリット③:人間(担当者)と話せる
ネット証券やロボアドバイザーの方がコストは安いですが、「機械相手では不安」「地元の銀行員と顔を合わせて相談したい」というシニアにとっては、高い手数料は「コンシェルジュ代(話し相手代)」とも言えます。
4. 比較検証:ファンドラップ vs バランス型投信
「お任せしたいけど、手数料は安くしたい」
そんな方の正解は、ファンドラップではなく「バランス型投資信託」です。
バランス型投信とは、「株式・債券・不動産」などが最初からパッケージされた商品のことです。
これを1本買えば、ファンドラップと同じように「分散投資」ができ、自動的に比率調整も行われます。
【比較:1,000万円を運用した場合】
| 項目 | ファンドラップ(対面) | バランス型投信(8資産均等など) |
| 中身 | 株や債券に分散 | 株や債券に分散 |
| リバランス | 自動でやってくれる | 自動でやってくれる |
| 年間コスト | 約25万円(2.5%) | 約1.5万円(0.15%) |
| 10年間の差 | マイナス235万円 | 基準 |
機能はほぼ同じなのに、コスト差だけで10年後に200万円以上の差がつきます。
しかも、バランス型投信なら「新NISA(つみたて投資枠)」で買えるため、利益も非課税です(ファンドラップは基本的に課税されます)。
5. 結論:ファンドラップをおすすめできる人、できない人
ここまでの検証を踏まえ、ファンドラップを利用すべきかどうかを判断しましょう。
おすすめ【できない】人(9割の人)
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資産を少しでも多く増やしたい人。
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新NISAの枠が余っている人。
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「コスト(手数料)」に敏感な人。
厳しい言い方ですが、資産形成層や、老後資金を効率よく守りたい人にとって、ファンドラップを選ぶ合理的理由は一つもありません。
「お任せ」したいなら、手数料の安い「バランス型投信」を買って放置するのが正解です。
おすすめ【できる】人(ごく一部の富裕層)
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資産が数億円あり、運用の効率よりも「手間をゼロにすること」を最優先したい人。
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「相続対策」などの付帯サービスに魅力を感じる人。
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「銀行との付き合い」を維持する必要がある人(事業融資を受けているなど)。
ファンドラップは、タクシーやハイヤーのようなものです。
自分で運転(インデックス投資)すればガソリン代だけで済みますが、ハイヤー(ファンドラップ)を使えば高額な料金がかかります。
その料金を「快適代」として痛くも痒くもないと感じる富裕層だけが、このサービスの本当の顧客です。
まとめ:その「安心感」は高すぎる
銀行員はこう言います。
「これからはプロに任せる時代です」
しかし、その「プロ」がやってくれることは、実は格安のインデックスファンドやバランス型ファンドが自動でやっていることと、大差ありません。
ファンドラップの高い手数料は、運用の対価というよりは、「銀行の立派な店舗と、人件費と、宣伝費」をあなたが負担しているに過ぎません。
大切な退職金です。
「よくわからないからお任せ」にするのではなく、「わからないなら、わかるまで買わない」、あるいは「コストの安いシンプルな商品を選ぶ」。
その少しの慎重さが、あなたの老後資金を数百万円単位で守ることになります。
