おひとり様の資産管理。入院・施設入居時に困らないための金銭管理契約

「急に倒れて入院することになったけど、入院費を銀行から下ろしてきてくれる人がいない」 「老人ホームに入りたいけれど、『身元保証人』になってくれる親族がいない」

生涯未婚率の上昇や核家族化により、頼れる家族がそばにいない「おひとり様(単身世帯)」が急増しています。

元気なうちは「自由で気楽」な一人暮らしですが、いざ病気や加齢で体が動かなくなった時、あるいは判断能力が衰えた時、「お金はあるのに使えない」「手続きができずに路頭に迷う」という深刻な壁に直面します。

「自分には甥や姪がいるから大丈夫」と思っている方も要注意です。 金融機関や施設は、本人以外の代理権限を厳格に確認するため、法的な裏付けのない親族では手続きを断られるケースが増えているからです。

この記事では、おひとり様が最期まで自分らしく、尊厳を持って生き抜くために不可欠な「金銭管理契約(財産管理等の委任契約)」と、それに付随する「3つの守りの契約」について解説します。

1. おひとり様が直面する「3つの壁」

資産管理の話をする前に、なぜ契約が必要なのか、具体的なトラブルの場面を知っておきましょう。 おひとり様の老後には、以下の3つの壁が立ちはだかります。

壁①:入院・入居時の「保証人」の壁

病院への入院や、介護施設への入居には、ほぼ100%「身元保証人(連帯保証人)」を求められます。 これは単に費用の支払いを保証するだけでなく、「緊急時の連絡先」「遺体の引き取り手」としての役割も兼ねています。 「お金を前払いするから入れてくれ」と言っても、断られることがほとんどです。

壁②:銀行窓口の「本人確認」の壁

入院費を払うために、銀行でお金を下ろしたい。しかし、本人は病室から出られない。 そこで友人に通帳と印鑑を託しても、銀行は「ご本人様でないと払戻しできません」と突っぱねます。 認知症で意思確認ができなくなれば、口座そのものが「凍結」され、資産があるのに介護費用が払えない事態に陥ります。

壁③:死後の「片付け」の壁

自分が亡くなった後、葬儀は誰があげるのか? 賃貸アパートの解約や家財道具の処分は誰がやるのか? SNSのアカウントは? これらをやってくれる人がいなければ、あなたは「無縁仏」として扱われ、大家さんや行政に多大な迷惑をかけることになります。

これらの壁を突破するために必要なのが、「法的な権限を持ったパートナー」を元気なうちに決めておくことです。


2. 元気なうちから備える「財産管理等委任契約」

まず一つ目の武器は、「財産管理等委任契約」です。

これは、「判断能力はある(認知症ではない)けれど、体が不自由で手続きができない」という期間をカバーする契約です。

何ができる?

信頼できる相手(移行型の任意後見受任者など)に、以下のような権限を与えることができます。

  • 金融機関での取引: 預金の引き出し、振込、年金の受領。

  • 定期的な支払い: 家賃、公共料金、医療費の支払い代行。

  • 行政手続き: 要介護認定の申請、住民票の取得など。

ポイント:まだ「頭はしっかりしている」時用

例えば、「骨折して入院し、銀行に行けない」といった場合に、この契約書(公正証書)があれば、代理人が堂々と銀行でお金を下ろし、病院に支払うことができます。 「認知症になる前」の、身体的な衰えをサポートする「お財布代わりの契約」と言えます。


3. 認知症に備える「任意後見契約」

二つ目の武器、そしてこれが本丸となるのが「任意後見契約」です。

これは、「将来、認知症などで判断能力が低下した時」に発動する契約です。 法定後見制度(裁判所が選ぶ制度)とは違い、「誰に」「どんな権限を」与えるかを、自分で自由に決められるのが最大の特徴です。

仕組み

  1. 契約: 元気なうちに、信頼できる人(親族や専門家)と公正証書で契約を結びます。

  2. 発動: 認知症の症状が出始めたら、家庭裁判所に申し立てを行い、「任意後見監督人」が選任された時点からスタートします。

メリット

  • 知っている人に頼める: 見ず知らずの弁護士ではなく、信頼する姪御さんや、長年相談している司法書士などを指名できます。

  • ライフプランを託せる: 「どのような介護を受けたいか」「どの施設に入りたいか」といった希望を契約内容に盛り込むことができます(ライフプランの尊重)。

【財産管理契約との違い】

  • 財産管理契約: 判断能力「あり」。体が動かない時用。すぐに使える。

  • 任意後見契約: 判断能力「なし(低下)」。認知症になった時用。発動まで待機。

※多くの専門家は、この2つをセットにした「移行型(いこうがた)」の契約を推奨しています。切れ目のない支援が可能になるからです。


4. 死後に備える「死後事務委任契約」

三つ目の武器は、「死後事務委任契約」です。

後見人の仕事は「本人の死亡」によって終了します。つまり、葬儀や納骨、部屋の片付けをする権限は、後見人にはありません。 そこで、死後の手続きだけを専門に依頼するこの契約が必要になります。

何を頼める?

  • 葬儀・納骨: 喪主の代行、永代供養の手続き。

  • 行政手続き: 死亡届の提出、健康保険証の返却。

  • 片付け: 病院・施設の費用の精算、家財道具の処分、公共料金の解約。

  • デジタル遺品: パソコンやスマホのデータ消去、SNSの解約。

これがあれば、「誰にも迷惑をかけずに旅立つ」という、おひとり様の美学を完遂できます。


5. 「頼れる親族がいない」場合はどうする?

「契約の仕組みはわかったけど、そもそも契約する相手(受任者)がいない」 という方が一番の悩みどころでしょう。

その場合の選択肢は、大きく分けて2つあります。

選択肢①:司法書士・弁護士などの「専門家」に依頼する

個人の専門家と契約を結びます。

  • メリット: 法律知識が豊富で、不正のリスクが低い。

  • デメリット: 費用がかかる(月額3万円〜5万円程度の報酬など)。また、専門家自身が高齢化するリスクもある。

選択肢②:法人(NPOや一般社団法人)の「身元保証サービス」を利用する

「身元保証」と「生活支援」「死後事務」をパッケージで提供している団体と契約します。

  • メリット: 「組織」が受けるので、担当者が辞めても代わりがいる(永続性)。入院時の身元保証人も引き受けてくれる。

  • デメリット: 業者選びが非常に難しい。 預託金(預けたお金)の流用トラブルや、破綻リスクがあるため、経営基盤のしっかりした団体を選ぶ必要があります。


6. お金はいくらかかる?

専門家に依頼する場合、費用の目安を知っておきましょう。

  1. 初期費用(契約書作成): 公正証書の作成手数料や専門家への報酬で、15万円〜30万円程度(セット契約の場合)。

  2. 月額報酬(ランニングコスト):

    • 財産管理・任意後見が始まると、月額 3万円〜5万円程度

    • ※まだ元気な期間(見守り契約期間)は、月額数千円〜1万円程度。

  3. 死後事務費用(予納金): 葬儀代や片付け費用として、100万円〜200万円程度をあらかじめ預託、または信託口座で管理する。

決して安くはありませんが、「将来の安心」と「誰にも迷惑をかけないための保険料」と考えれば、必要なコストと言えるでしょう。


まとめ:契約書は「将来の自分」を守るラブレター

「まだ元気だから大丈夫」 そう思っているうちに、脳梗塞や転倒で突然「その日」はやってきます。

準備をしていないおひとり様は、行政措置(市長申立てによる成年後見)によって、会ったこともない人が財産を管理し、望まない施設に入れられる可能性があります。

自分の人生を、最後まで自分の意思でコントロールしたい。 好きな服を着て、好きなものを食べ、納得できる最期を迎えたい。

その願いを叶えるのが、「財産管理」「任意後見」「死後事務」の3点セット契約です。

これは寂しい準備ではなく、自立した大人のための「究極の終活」です。 まずは、お近くの司法書士や「成年後見センター」などの無料相談に行き、自分の不安を話すことから始めてみませんか?

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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