株式投資の損益通算と繰越控除。確定申告で払いすぎた税金を取り戻すテクニック

「今年は相場が乱高下して、結局トータルではマイナスになってしまった……」 「A証券では利益が出たけど、B証券では大損。税金ばかり取られている気がする」

株式投資をしていると、必ず直面するのが「損失」の壁です。 大切なお金が減ってしまった悲しみは計り知れませんが、そこで落ち込んでいるだけでは、さらにお金を失うことになります。

なぜなら、あなたが利益を出した時に支払った「約20%の税金」は、確定申告をすることで「取り戻せる」可能性があるからです。

株式投資の税金には、負けた投資家にだけ許された「敗者復活戦(=税金の還付)」の仕組みが用意されています。それが「損益通算(そんえきつうさん)」「繰越控除(くりこしこうじょ)」です。

しかし、この仕組みは「申告制」。自分から手を挙げないと、税務署は1円も返してくれません。

この記事では、払いすぎた税金を取り戻すためのテクニックと、申告する際に絶対に気をつけるべき「落とし穴(社会保険料への影響)」について、わかりやすく解説します。

1. 株式投資の税金の基本

まず、基本ルールのおさらいです。 株式や投資信託で利益(売却益や配当金)が出ると、そこから20.315%(所得税+住民税+復興特別所得税)が天引きされます。

  • 利益 100万円の場合: 税金 約20万円 / 手取り 約80万円

多くの個人投資家は、証券口座を作る際に「特定口座(源泉徴収あり)」を選んでいます。 この場合、証券会社が自動で税金を計算して納税してくれるため、本来は確定申告をする必要がありません。

しかし、「複数の証券会社を使っている場合」「トータルで負けている場合」は、あえて確定申告をすることで、税金が戻ってくるケースがあるのです。


2. 複数の口座を合算する「損益通算」

「損益通算」とは、文字通り「プラス(利益)とマイナス(損失)を相殺すること」です。

ケース:A証券で勝ち、B証券で負けた場合

  • A証券: 利益 +100万円(税金20万円が天引き済み)

  • B証券: 損失 ▲100万円(税金0円)

この場合、あなたの年間のトータル収支は「プラスマイナスゼロ」です。 本来、利益がゼロなら税金もゼロのはず。しかし、A証券ではすでに20万円が徴収されています。

ここで確定申告(損益通算)を行うと、国はこう判断します。 「なるほど、B証券の損と合わせると利益はゼロだったんですね。じゃあ、A証券で預かった20万円はお返しします」

これで、20万円が丸々還付されます。 もし申告しなければ、この20万円は戻ってきません(=損をしたまま確定)になります。

【ポイント】 1つの証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」の中で起きた損益(A株の勝ちとB株の負けなど)は、証券会社が勝手に通算してくれるので申告不要です。 「別の証券会社」との合算は、自分で申告する必要があります。


3. 負けを来年に持ち越す「繰越控除」

では、トータルで大負けしてしまった場合はどうなるでしょうか?

  • 今年の成績: 損失 ▲100万円

当然、今年の税金はかかりませんが、払いすぎた税金もないので還付もありません。「ただ100万円損しただけ」で終わり……ではありません。

この「▲100万円」という負けの記録を、確定申告をして税務署に届けておくことで、最大3年間保存することができます。これを「譲渡損失の繰越控除」と言います。

負けが「将来の節税チケット」になる

この届け出をしておくと、翌年以降に利益が出た際、過去の損失と相殺して税金を消すことができます。

【シミュレーション】

  • 2024年(今年): ▲100万円の損失。

    • → 確定申告をして、損失を繰り越す。

  • 2025年(翌年): +40万円の利益が出た!

    • → 本来なら8万円(20%)の税金がかかるが、去年の「▲100万円」のうち40万円を使って相殺。

    • 税金はゼロ。(残り損失▲60万円は翌へ)

  • 2026年(翌々年): +60万円の利益が出た!

    • → 残っている「▲60万円」を使って相殺。

    • 税金はゼロ。

このように、繰越控除を使うことで、将来の利益にかかる税金を圧縮できます。 「負け」は辛いですが、それを無駄にせず「将来の利益を守るバリア」に変える手続き、それが繰越控除です。


4. 要注意! NISAの損失は「なかったこと」になる

ここで一つ、非常に重要な注意点があります。 それは、「NISA(成長投資枠・つみたて投資枠)」で出した損失は、損益通算も繰越控除もできないという点です。

NISAは「利益が出ても非課税」という夢の制度ですが、逆に「損失が出ても税務上はなかったこと(損失ゼロ)」とみなされるルールがあります。

  • 課税口座(特定口座)の利益 +100万円

  • NISA口座の損失 ▲100万円

この場合、損益通算はできず、課税口座の100万円に対してきっちり税金がかかります。 「NISAは損益通算できない」。これはテストに出るレベルの重要事項です。


5. 最大の落とし穴「社会保険料」が高くなる!?

「税金が戻ってくるなら、やらない手はない!」 そう思って申告書を作る前に、必ず確認すべき「副作用」があります。

それは、確定申告をすることで「合計所得金額」が増え、国民健康保険料(国保)や介護保険料が跳ね上がるリスクです。

仕組み:所得が増えれば保険料も増える

「特定口座(源泉徴収あり)」で申告しないままであれば、株の利益は「あなたの所得」としてカウントされません(分離されている状態)。

しかし、損益通算や繰越控除のために確定申告をすると、その利益や配当金が「所得」として表面化します。

  • 会社員(社保加入者): 影響はほぼありません(保険料は給与連動のため)。

  • 自営業・専業主婦・定年退職者(国保加入者): 要注意です。

例えば、定年退職して国保に入っている人が、株の利益や配当金を申告した結果、所得が増えたとみなされ、「還付された税金(数万円)」以上に「翌年の健康保険料(十数万円)」が上がってしまった……という本末転倒なケースが多発しています。

また、専業主婦の方がうっかり申告して所得が増えると、夫の「配偶者控除」から外れてしまうリスクもあります。

【結論】

  • 会社員の方: 基本的に申告してOK。

  • 国保の方・扶養に入っている方: 慎重なシミュレーションが必要です。「住民税申告不要制度」などの複雑な逃げ道もありましたが、制度改正により複雑化しています。税理士や自治体の窓口で「これを申告すると保険料はいくら上がりますか?」と確認するのが無難です。


6. 手続きはスマホで完結「e-Tax」が便利

リスクを確認し、「よし、申告しよう」と決めたら、手続きは意外と簡単です。 現在はスマホとマイナンバーカードがあれば、自宅から「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」で完結します。

用意するもの

  1. 特定口座年間取引報告書: 証券会社から1月頃に送られてくるか、サイトからダウンロードできます(XMLデータなら入力の手間も省けます)。

  2. マイナンバーカード

  3. スマホ(マイナポータルアプリ)

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセスし、画面の案内に従って「株式等の譲渡所得等」の欄を入力していくだけです。 A証券の利益とB証券の損失を入力すれば、自動的に還付金額が計算されます。


まとめ:負けた時こそ、税金を取り戻すチャンス

株式投資で勝つことは難しいですが、「税金の仕組みを知って、取りこぼしを防ぐ」ことは、誰にでもできる確実な資産防衛術です。

  • 複数の証券会社を使っているなら、「損益通算」で利益と損失を相殺する。

  • 大きく負けた年は、「繰越控除」で損失を3年間ストックする。

  • ただし、自営業やリタイア世代は「保険料アップ」の副作用に注意する。

確定申告の時期は、毎年2月16日から3月15日です。 「面倒くさい」で済ませてしまうと、数万円、数十万円というお金をドブに捨てることになります。

今年のトレード成績がマイナスだったとしても、そこで試合終了ではありません。 確定申告という「延長戦」で、少しでも傷を癒やし、次なる投資の種銭を取り戻しましょう。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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