「遺産分割調停と遺産分割審判|2つの手続きの違いや基本の流れを解説」
被相続人の相続財産(遺産)を複数の相続人で分ける場合、誰が・いくら取得するか決めるために相続人全員で話し合う「遺産分割協議」が行われます。
遺産分割協議がまとまらない場合、話し合いの場を「遺産分割調停」に移したり、「遺産分割審判」で解決を求めたりする方法があります。そこで、本記事ではこの2つの手続きの違いや基本的な流れを詳しく解説します。
遺産分割調停と遺産分割審判とは
相続人全員で話し合う遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所にて解決を目指すことになります。その際の手続きが遺産分割調停と遺産分割審判です。この章では2つの手続きの概要を詳しく解説します。
遺産分割調停とは
「遺産分割調停」とは、遺産分割協議がまとまらないなどの理由で、家庭裁判所での話し合いで解決を目指す手続きです。調停はあくまでも話し合いの延長で行われるため、不成立となる場合もあります。
項目 | 詳細 |
申立先 | ・相続人のうち、どなたかの住所地を管轄する家庭裁判所 ・相続人同士が話し合いで決定した家庭裁判所 |
申立てできる人 | ・共同相続人 ・包括受遺者 ・相続分譲受人 |
必要な経費 | ・被相続人1名につき収入印紙1,200円 ・各家庭裁判所が指定する郵便切手 |
調停委員会を構成する人 |
・裁判官1人 |
遺産分割調停は、裁判官1名と調停委員2名以上で構成される調停委員会が、中立的な立場で相続人同士の話し合いを仲介し、相続人全員での合意をうながします。
調停が成立すると、その内容が調停調書として作成されます。調停調書は、確定判決と同じ効力を持つため、これに基づいて遺産分割手続きを進められます。不成立の場合は審判に移行します。
遺産分割審判とは
「遺産分割審判」とは、各相続人の主張や提出された証拠に基づき、家庭裁判所の裁判官が遺産分割の内容を決定するものです。
審判によって下された決定は審判書として作成されます。審判の内容に不服がある場合は、即時抗告(不服申し立て)も可能です。調停のように相続人全員が出席する義務はなく、当事者の一方が出席していなくても裁判官が遺産分割内容を決めます。
2つの手続きの違い
遺産分割調停 | 遺産分割審判 | |
手続きの概要 | 話し合いによる合意形成 | 裁判官による判断・決定 |
解決方法 | 相続人全員の合意 | 裁判官の判断 |
作成される書面 | 調停調書は確定判決 | 審判書 |
費用 | 比較的低額 | 調停より高額になる傾向がある |
遺産分割調停と遺産分割審判の違いは上記のとおりです。遺産分割審判は調停よりもスムーズに進む傾向があります。
遺産分割の調停と審判、どちらが先?
遺産分割の紛争では離婚などに採用されている「調停前置主義」(審判より調停を先に行うこと)は適用されておらず、審判から始めることも可能です。しかし、裁判所の判断で審判から調停に付されることが多く、現実的には調停から始めることが多いでしょう。調停不成立を経てから、審判に移行することが一般的です。
遺産分割調停の基本的な流れ
遺産分割調停を進めるにあたっての基本的な流れは以下です。
1.申し立て
2.第1回調停期日の指定と呼出し
家庭裁判所は申立てを受理すると、第1回調停期日を決定し、申立人および相手方を含む相続人全員に呼出状を送付します。呼出状には期日(日時)と場所などが記載されています。
3.調停期日での話し合い
指定された期日に家庭裁判所に出向き、調停委員会で話し合いを行います。 通常、当事者(相続人)は個別に調停室に呼ばれ、調停委員が双方の意見や希望を交互に聞きます。期日は各家庭裁判所にもよりますが、1~2ヶ月に1度程度です。
4.調停の成立または不成立
遺産分割審判の基本的な流れ
遺産分割調停が不成立だった場合、一般的に審判へと移行します。詳しい流れは以下のとおりです。
1.遺産分割調停からの移行 もしくは 審判の申立て
遺産分割調停が不成立になると、家庭裁判所は、調停で提出された資料や主張を基に、審判手続きを開始します。なお、先に審判からであっても調停に付されなければ審判が開始します。
2. 第1回目審判期日
1回目の審判期日は全当事者に立ち会いの機会を与えており、審判での争点を整理します。争いがない点については合意を進めます。
3. 審判期日で証拠や意見を整理
4. 和解案の模索
審判期日を並行させながら、当事者間での和解を模索することも多くなっています。裁判所が提案する和解案に合意したら審判も終了します。
5. 審判の確定または不服申立て(即時抗告)
審判の内容に不服がある場合は、審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に、高等裁判所に対して「即時抗告」が可能です。即時抗告が受理されると、高等裁判所で再度審理が行われることになります。
遺産分割調停・審判における注意点
遺産分割調停や審判は、遺産分割トラブルを安全に解決するために欠かせない方法ですが、実際に利用する際には、あらかじめ知っておきたい注意点もあるため以下でご確認ください。
解決まで時間を要することがある
遺産分割協議がまとまらない場合、第三者である調停委員や裁判官がいる機会を設けて話し合いを重ねていくことで、スムーズに解決できるケースはたくさんあります。
しかし、相続人間の感情的な対立や、遺産の使い込みを争うために証拠が必要となるケースなどでは、調停にかかる時間が長期化することも少なくありません。
令和5年度の司法統計によると、遺産分割調停の終結までに要した期間の第1位は「半年以上~1年以内」で4,581件、第2位は「1年以上~2年以内」の3,195件です。
続いて第3位に「3か月以上~6か月以内」の3,108件が続きます。1年以上かかるケースが第2位である点に注意が必要です。遺産分割調停は争点が多いと2年以上かかるケースもあり、さらに審判に発展する可能性もあるため、遺産のゆくえが宙に浮いたまま長期戦に臨まなければならない場合もあります。
参考URL 家庭裁判所 令和5年 司法統計年報 3家事編 第 45 表 遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日 回数別―全家庭裁判所
相続税申告の期限に注意
相続税の申告および納税の期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この期限は、遺産分割協議がまとまっているかどうかにかかわらず、原則として守る必要があります。
遺産分割調停や審判が長引き、期限までに遺産分割が確定しない場合でも相続税の申告・納付は行わなければなりません。期限後申告は延滞税などが課税されるため注意しましょう。
遺産分割協議がまとまっていない場合、小規模宅地等の特例が使えなくなってしまいます。ただし「申告期限後3年以内の分割見込み書」の提出があれば分割完了後に特例を受けられます。相続税は税理士に相談しながら、必要書類が欠けないように進めることが大切です。
弁護士がいる方が望ましいケースもある
弁護士に依頼すると対立が深まる、という考え方もあるものの、遺産分割調停や審判は、家庭裁判所で行われるものであり、専門的な知識の有無で結果が異なってしまうおそれがあります。特に以下のような状況では、弁護士に依頼するメリットが大きいでしょう。
- 相続人同士の感情的な対立が深い
- 遺産の使い込みが疑われる・疑われている
- 遺留分の侵害が起きている
- 認知された子が相続人におり、対立が激しい
- 調停・審判に要する手続きが複雑で負担が大きい など
ただし、弁護士に依頼する場合は別途弁護士費用を用意する必要があります。
まとめ
本記事では遺産分割調停と遺産分割審判の違いについて、手続きの流れも交えながら詳しく解説しました。遺産分割の調停と審判はいずれも家庭裁判所で行うものですが、2つの手続きは趣旨が異なります。一般的には調停からスタートしますが、成立までに時間を要することも多いため注意が必要です。
解決までに時間を要する場合、相続税申告期限などに注意する必要があるため、弁護士や税理士などの専門家に相談しながら進めることが望ましいでしょう。