遺産分割と相続の違いとは?
「遺産分割」と「相続」は相続問題に関してよく聞く言葉ですが、具体的にこの2つの違いを認識している方は少ないのではないでしょうか?
ざっくり言うと、遺産分割とは相続人すべてで分け方を決めること、相続は遺産を受け継ぐことを意味します。
今回はこの「遺産分割」と「相続」についての違いや手続きの流れなどを解説します。
相続とは?
相続とは、ある人が亡くなったときに、その人の財産を、配偶者や子供など一定の血縁関係にある人が引き継ぐことです。相続においては、この亡くなった人を「被相続人」、財産を引き継ぐ人を「相続人」と言います。
なお、相続財産とは、以下のようにプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含まれます。
- 現金・預貯金
- 株式などの有価証券
- 不動産や自動車などの動産
- 損害賠償請求権などの権利や義務
- 借金や家賃・税金の滞納
遺産分割とは?
遺産分割とは、被相続人が死亡した際に財産に関する遺言が残っておらず、各相続人が話し合いを行って遺産分割協議を行い、「具体的に財産の分配を行うこと」を指します。なお、遺産分割協議に参加できるのは法定相続人のみで、以下のように法律により順位が定められています。
- 第1順位:子ども(孫)
- 第2順位:親(祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(甥・姪)
相続と遺産分割の違いは?
遺産分割をおこなうと、遺産が相続時の共有状態ではなくなり、相続人それぞれの所有になります。
相続と遺産分割には違いがありますが、実際には遺産を受け取るための一連の流れでつながっているものと思ってもいいでしょう。
複数の相続人がいる場合、遺産分割のステップを経て、財産を相続できるようになります。
まずは、遺言書があるかどうか確認し、そのあと誰が相続人か確定させなければいけません。その後、相続人全員で遺産分割協議をおこない、誰がどの財産を相続するか決めていきます。
遺産分割の手続き
遺言書が残されていれば、その内容に従って遺産を分割していきます。しかし、遺言書がない場合には、はじめに相続人全員で①遺産分割協議を行い、分割方法を決めていきます。協議をしても合意できなかった場合は、家庭裁判所で②遺産分割の調停を行います。それでもまとまらなかった場合は、③遺産分割の審判を受けることになります。
それぞれ詳しく見ていきます。
①遺産分割協議
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で合意した内容をまとめた書類です。遺産分割協議には相続人全員の参加が必要で、話し合いによって遺産分割の方法と相続の割合を決めていきます。遺産分割協議によって相続人全員の合意が得られたら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。
②遺産分割の調停
相続人同士で遺産分割について話し合いでまとまらない場合に、相続人が他の相続人を相手方として家庭裁判所に申し立てる手続きです。
調停手続では、審判官(裁判官)、調停委員(民間の有識者)2名の合計3名で構成される調停委員会が、申立人と相手方の双方から意見を聞き、意見を調整し、合意が成立するよう手助けをします。
調停でもまとまらなかった場合は、自動的に審判手続きが開始されます。
③遺産分割の審判
遺産分割調停が成立しなかった場合は、申し立てをしなくても自動的に審判に移行します。
審判手続きでは、裁判官がさまざまな事情を考えあわせて、審判を下します。審判が出ると、いったん終結しますが、納得がいかない場合は、「即時抗告」という不服申し立ての手続きを行うことが可能です。
遺産分割の方法
遺産分割する方法は、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4種類があります。
どの分割方法を選択するかは、当事者の選択か裁判所の裁量によって決まります。ここでは、それぞれの分割方法について解説します。
現物分割
現物分割とは、預貯金など現金のみの場合や、不動産や有価証券などを換金せずに、そのまま分割する方法をいいます。
現物分割では現物の性質上、各相続人の相続分をきちんと分けることは難しいため、相続人の間で取得格差が大きい場合は一部の資産を売却してその代金で調整したり、沢山相続した人が自己資金で調整します。
代償分割
代償分割とは、相続人の中の一人が法定相続分を超える価値のある相続財産を得た場合に、他の相続人との差を代償金として現金で支払う方法をいいます。
例えば土地や建物を跡取りである長男が取得する代わりに、長女に500万円、次男に600万円支払うなど、相続分以上の財産を取得する代償として他の相続人に自己の財産(金銭等)を交付します。
換価分割
換価分割とは、不動産や動産、有価証券などをすべて売却して、その代金を分割する方法をいいます。
現物分割では難しい各相続人の法定相続分を、きっちり分割したい場合などは便利ですが、この場合は処分費用や譲渡取得税などを考慮する必要があります。
共有分割
共有分割とは、相続財産の一部または全部を、相続人が共同で取得する方法をいいます。この方法を取ると、共有者が死亡した場合に新たな相続人の名義が加わっていくということになります。
そのため、将来的な売却の際に、手続きが複雑になってしまう可能性があります。
まとめ
相続は、被相続人の遺産を引き継ぐこと、相続人が複数人いる場合に遺産の分け方を決めることが遺産分割で、法律上は別物です。
遺産分割では、相続人全員で話し合って決めますが、話し合いが決定するまでのあいだは、被相続人の財産は相続人全員の共有状態にあることが大きく異なります。
遺言書がある場合は、原則として遺言書の内容に従って進めますが、話し合いがまとまらない場合などは調停や審判を申し立てることになります。