遺族年金はいくらもらえる? 夫が亡くなった後の妻の生活費シミュレーション
「もしも夫が先に旅立ってしまったら、私は生活していけるのだろうか?」
縁起でもない話だとは思いつつ、ふとした瞬間にそんな不安が頭をよぎることはありませんか? 特に、専業主婦やパート勤務で、家計の大黒柱を夫に頼っている場合、その経済的な不安は切実です。
日本の公的年金制度には、残された家族を守る「遺族年金」という仕組みがあります。 しかし、この制度は非常に複雑で、「夫の働き方(会社員か自営業か)」や「子供の有無」によって、もらえる金額が天と地ほど変わることをご存知でしょうか?
「遺族年金があるから大丈夫」と高を括っていると、いざという時に「えっ、これだけしかもらえないの?」と愕然とし、生活が破綻する恐れがあります。
この記事では、夫が亡くなった後に妻が受け取れる年金額のシミュレーションと、独り身になった後の生活費の現実について、専門用語を噛み砕いて解説します。
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1. 遺族年金の「2階建て」構造を理解する
まず、遺族年金の基本ルールです。日本の年金制度と同じく、遺族年金も「2階建て」になっています。
1階部分:遺族基礎年金(いぞく・きそ・ねんきん)
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対象: 子供(18歳到達年度の末日まで)がいる配偶者、または子供。
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ここが重要: 「子供がいない妻」は1円ももらえません。
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金額: 定額(年額約105万円 + 子供の数による加算)。
2階部分:遺族厚生年金(いぞく・こうせい・ねんきん)
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対象: 会社員・公務員だった夫の妻。
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金額: 夫の給料や加入期間によって変動(夫の老齢厚生年金の4分の3相当)。
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ここが重要: 自営業(国民年金のみ)の夫の妻はもらえません。
つまり、「子供がすでに独立している妻」や「夫が自営業の妻」は、受給額がガクンと減る(あるいはゼロになる)リスクがあるのです。
2. 【シミュレーション】夫のタイプ別・妻がもらえる金額
では、具体的なケースで金額を見てみましょう。 (※あくまで概算であり、加入期間や平均報酬額により異なります)
ケースA:夫が「自営業・フリーランス」の場合
【最もリスクが高いパターン】
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夫: 国民年金のみ加入
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子供: なし(または独立済み)
→ 妻がもらえる遺族年金は「0円」です。
衝撃的かもしれませんが、これが現実です。 国民年金には、子なしの妻に対する恒久的な遺族年金はありません。 ※ただし、救済措置として「寡婦年金(かふねんきん)」や「死亡一時金」がありますが、寡婦年金は60歳〜65歳の間だけの限定支給です。一生涯の保障はないため、自営業の妻は自分で老後資金や民間保険を厚く用意する必要があります。
ケースB:夫が「会社員(平均年収)」の場合
【一般的なパターン】
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夫: 厚生年金に加入(平均年収500万円、加入期間25年と仮定)
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子供: すでに独立している
この場合、1階部分(基礎年金)はありませんが、2階部分(厚生年金)がもらえます。
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遺族厚生年金: 年額 約40万〜60万円程度(月額 3〜5万円)
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中高齢寡婦加算: 年額 約61万円(月額 約5万円)※条件あり
→ 合計:月額 8万円〜10万円程度
「えっ、月10万円だけ?」と思われたかもしれません。 そう、夫が生きていれば夫婦で「月20数万円」あった年金が、夫が亡くなると半分以下になるケースが多いのです。これだけで生活するのは、持ち家があってもギリギリか、赤字になるラインです。
ケースC:小さい子供がいる場合
【手厚い保障があるパターン】
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夫: 会社員
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子供: 高校生以下の子供が1人
この場合、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の両方がもらえます。
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遺族基礎年金: 年額 約105万円(基本額+子の加算)
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遺族厚生年金: 年額 約50万円(概算)
→ 合計:年額 約155万円(月額 約13万円)
子供が高校を卒業するまでは、比較的まとまった金額が受け取れます。 しかし、子供が18歳を過ぎると「遺族基礎年金」は打ち切られるため、その後はケースBの水準まで下がります。
3. 40代〜64歳の妻を救う「中高齢寡婦加算」とは?
ケースBで少し触れましたが、会社員の夫を亡くした妻には、「中高齢寡婦加算」という救済ボーナスがあります。
これは、「子供がいない(または成長した)妻は、遺族基礎年金がもらえないから生活が苦しいだろう。だから、自分の年金をもらう65歳までは、特別に手当を出そう」という制度です。
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対象: 夫死亡時に40歳以上65歳未満で、生計を維持されていた妻(子なし、または子が18歳到達)。
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金額: 年額 約61万円(月額 約5万円)
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期間: 40歳から65歳になるまで。
この「月5万円」があるかないかは死活問題です。 夫が会社員であれば多くのケースで対象になりますが、夫が自営業の場合は対象外です。
4. 「65歳」で年金のルールが激変する
妻自身が65歳になり、自分の「老齢年金」を受け取るようになると、遺族年金の計算方法が変わります。 ここが最も複雑で、誤解が多いポイントです。
「自分の年金」と「遺族年金」は、全額両取り(ダブル受給)できません。
65歳以降は、以下のルールが適用されます。 「まずは自分の老齢年金(基礎+厚生)を受け取る。その額が、遺族厚生年金の額より少なければ、差額分だけが遺族年金として上乗せされる」
【イメージ】
本来の遺族厚生年金: 月10万円
妻自身の老齢年金: 月6万円
妻は「10万円+6万円=16万円」もらえるわけではありません。 遺族年金の10万円が「天井」となり、妻の6万円との差額である「4万円」だけが遺族年金として支給されます。
受取総額:妻の年金6万 + 遺族年金4万 = 合計10万円
結局、「多い方の金額(この場合は遺族年金の額)」が上限になるイメージです。 妻自身がバリバリ働いて厚生年金をたくさん持っている場合、「遺族年金はほぼゼロ(全額支給停止)」ということもあり得ます。
5. おひとり様の生活費は「月15万円」が目安
では、入ってくるお金(遺族年金)に対して、出ていくお金はどれくらいでしょうか。
総務省の家計調査によると、65歳以上の単身無職世帯(女性)の平均消費支出は、月額 約15万円です。
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遺族年金(会社員の妻): 平均 8〜11万円程度
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生活費: 15万円
→ 毎月 4万〜7万円の赤字
この赤字を埋めるのは、「妻自身の預貯金」か「民間の死亡保険金」しかありません。 もし持ち家がなく賃貸暮らしであれば、家賃負担で赤字幅はさらに拡大します。
「夫が亡くなれば、食費も浮くし生活費は半分になるだろう」と思うのは危険です。 光熱費の基本料金や家賃、マンションの管理費などは、1人になっても半額にはなりません。生活費はせいぜい「夫婦時代の7割程度」にしかならないのが現実です。
6. まとめ:夫が元気なうちに「ねんきん定期便」を確認せよ
「遺族年金」は、残された妻の生活を支える大切な命綱ですが、決して「余裕のある生活」を保証するものではありません。 特に以下の条件に当てはまる方は、公的年金だけでは生活が困窮するリスクが高いです。
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夫が自営業・フリーランスの方(遺族厚生年金がない)。
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子供がいない、または独立済みの方(遺族基礎年金がない)。
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賃貸住まいの方(住居費の負担が重い)。
対策は、現実を知ることから始まります。
