介護保険サービス、自己負担割合が1割から2割・3割に上がる所得ラインはどこ?
「先月まで1割負担だったのに、今月から急に『2割』の請求が来た!」 「年金が少し増えただけで、介護費用の負担が倍になるなんて……」
介護保険サービスを利用しているご家庭で、夏から秋にかけてこのような悲鳴が上がることがあります。
介護保険の自己負担割合は、原則「1割」ですが、利用者の所得に応じて「2割」、さらには現役並みの所得がある場合は「3割」に引き上げられます。
この「負担割合」を決める通知書(介護保険負担割合証)は、毎年7月頃に自治体から届き、8月から新しい割合が適用されます。 つまり、前年の収入に変化があった場合、ある日突然、介護サービスの利用料が2倍、3倍に跳ね上がるリスクがあるのです。
「うちは年金暮らしだから関係ない」と思っていませんか? 実は、夫婦世帯の場合や、不動産売却などで一時的な収入があった場合など、思わぬ理由で「2割・3割の壁」を越えてしまうケースがあります。
この記事では、自己負担割合が決まる「所得の境界線(ボーダーライン)」を分かりやすく解説し、負担増に備えるための知識をお伝えします。
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1. 原則は1割。でも「お金持ち」は負担が増える
介護保険制度が始まった当初は、全員一律で「1割負担」でした。 しかし、高齢化に伴う財源不足を背景に、「支払い能力がある人には多く払ってもらおう(応能負担)」という考え方が導入されました。
その結果、現在は以下の3段階に分かれています。
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1割負担: 一般的な所得の人(全体の約90%)
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2割負担: 一定以上の所得がある人(2015年〜)
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3割負担: 現役並みの所得がある人(2018年〜)
「現役並み」や「一定以上」とは具体的にいくらなのか。 ここからは、複雑な計算式を噛み砕いて、判定のフローを見ていきましょう。
2. 判定フローチャート:あなたはどのコース?
負担割合は、主に「65歳以上の方(第1号被保険者)」本人の所得で決まります。 (※40歳〜64歳の方は、所得に関わらず一律1割負担です)
判定は2段階のステップで行われます。
ステップ①:「合計所得金額」のチェック
まず、あなたの「合計所得金額」を見ます。 これは、年金収入や給与収入から、それぞれの控除(公的年金等控除や給与所得控除)を引いた後の金額です(※基礎控除や医療費控除などを引く前の金額)。
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合計所得金額が「160万円未満」の人 → 【1割負担】 確定です。ここでゴールです。
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合計所得金額が「160万円以上」の人 → 2割・3割の可能性があります。ステップ②へ進みます。
ステップ②:「年金収入 + その他の合計所得金額」のチェック
ステップ①で引っかかった人は、次に世帯構成(単身か夫婦か)と、年金収入を含めた収入額で判定されます。
【単身世帯(65歳以上が自分ひとりのみ)の場合】
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年収 340万円以上: 【3割負担】
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年収 280万円以上 〜 340万円未満: 【2割負担】
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年収 280万円未満: 【1割負担】
【2人以上世帯(65歳以上が2人以上いる)の場合】
※夫婦両方の収入を合計して判定します。
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合計年収 463万円以上: 【3割負担】
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合計年収 346万円以上 〜 463万円未満: 【2割負担】
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合計年収 346万円未満: 【1割負担】
【ざっくりまとめると】
おひとり様: 年金+その他の所得で「年収280万円」を超えると2割負担になる。
ご夫婦: 2人の合計で「年収346万円」を超えると2割負担になる。
この「280万円(単身)」と「346万円(夫婦)」が、天国と地獄(1割と2割)を分ける運命のボーダーラインです。
3. 注意! カウントされる収入・されない収入
この判定において、「収入」に含まれるものと、含まれないものがあります。ここが非常に重要です。
カウントされる収入(所得)
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老齢年金: 会社員時代の厚生年金や国民年金。
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給与所得: シルバー人材センターやアルバイトの給料。
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不動産所得: アパート経営などの家賃収入。
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譲渡所得: 土地や建物を売った利益、株の売却益(確定申告した場合)。
カウントされない収入(非課税所得)
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遺族年金・障害年金: これが最大のポイントです。遺族年金と障害年金は「非課税」なので、判定の収入には含まれません。 例えば、遺族年金を年間200万円もらっていても、計算上は「0円」です。老齢年金が少なければ、1割負担で済みます。
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株の利益(源泉徴収あり・申告不要の場合): 特定口座(源泉徴収あり)で株取引をしていて、確定申告をしなければ、所得にはカウントされません。
4. 「株の確定申告」で負担増になる落とし穴
近年トラブルが増えているのが、「株の損益通算のために確定申告をしたら、介護保険料が3割負担になってしまった」というケースです。
証券口座(特定口座・源泉徴収あり)での利益は、申告しなければ介護保険の判定に含まれません。 しかし、医療費控除や損益通算のためにあえて確定申告をすると、その利益が「合計所得金額」に合算されます。
その結果、 「数万円の税金を取り戻すために申告したら、介護サービスの負担が2割に上がり、年間数十万円の支払い増になった」 という、本末転倒な事態(やぶへび)が起こり得ます。 確定申告をする際は、介護保険負担割合への影響を必ずシミュレーションしてください。
5. もし「3割」になっても諦めない。「高額介護サービス費」
「3割負担になったら、もう施設にいられない……」 そう絶望する必要はありません。介護保険にも、医療保険と同じようなセーフティネットがあります。
それが「高額介護サービス費」制度です。
これは、1ヶ月に支払った介護保険の自己負担額が一定の上限を超えた場合、超えた分が払い戻される仕組みです。
【自己負担の上限額(月額)】
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現役並み所得者(3割負担など): 44,400円(※年収により最大140,100円)
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一般所得者(1割・2割負担): 44,400円
つまり、たとえ3割負担になっても、一般的な所得層であれば、月々の支払いは最大でも「44,400円」程度でストップします(食費や居住費などの実費は除く)。 「青天井に請求されるわけではない」ことを知っておくだけでも、不安は和らぐはずです。
6. 今後の展望:2割負担の対象者は拡大する?
現在は「上位20%」程度の所得者が2割・3割負担の対象ですが、政府はこの範囲を拡大しようと議論を続けています。 財務省などからは、「原則2割負担にすべき」という声も上がっており、将来的には「年収280万円」というボーダーラインが引き下げられ、多くの人が2割負担になる可能性があります。
「今は1割だから大丈夫」と安心せず、将来的に介護費用が2倍になる可能性を見越して、老後資金を準備しておく必要があります。
まとめ:夏に届く「通知書」を必ずチェックしよう
介護保険の負担割合は、一度決まったら一生そのままではありません。毎年の所得によってコロコロ変わります。
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不動産を売った翌年は3割になるかもしれない。
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株の申告をしたら2割になるかもしれない。
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逆に、収入が減れば1割に戻ることもある。
毎年7月頃に届く「介護保険負担割合証」(オレンジ色やピンク色のハガキやカード)を必ず確認してください。そこに「1割」と書いてあるか、「2割」になっているか。それがあなたの1年間の介護家計を決定づけます。
仕組みを知っていれば、「なぜ上がったのか」を冷静に分析でき、無用なパニックを防ぐことができます。
