民間の「介護保険」は必要か? 公的介護保険の限界と備えの考え方

【民間の「介護保険」は必要か? 公的介護保険の限界と備えの考え方】

「もし将来、認知症になって家族に迷惑をかけたらどうしよう」 「親の介護で数百万円かかったという話を聞いて、不安になった」

40代・50代となり、親の介護や自分自身の老後が視野に入ってくると、急に気になり始めるのが「民間の介護保険」です。

生命保険会社の担当者からは、「公的保険だけでは足りませんよ」「早めに入っておけば安心ですよ」と勧められます。 しかし、一方でファイナンシャルプランナーなどの専門家の中には、「介護保険は不要。貯金で備えるべき」と主張する人もいます。

一体、どちらが正解なのでしょうか?

結論から申し上げますと、「公的介護保険は非常に優秀だが、『生活費』までは見てくれない」というのが現実です。 そのため、民間の介護保険が必要かどうかは、あなたの「貯蓄額」「家族構成」によって決まります。

この記事では、公的保険でカバーできる範囲と「意外な落とし穴(自己負担の盲点)」を整理し、あなたが民間の介護保険に入るべきかどうかの判断基準を解説します。

1. 公的介護保険は「現物支給」である

まず、国の制度である「公的介護保険」の仕組みを正しく理解しましょう。 ここには、生命保険や医療保険とは決定的に違う点があります。

それは、「現金はもらえない」ということです。

  • 民間の保険: 「要介護になったら100万円」といった現金が振り込まれる。

  • 公的保険: ヘルパーさんが来てくれる、デイサービスに通えるといった「サービス(現物)」が安く受けられる。

公的保険は、かかったサービス費用の「1割(所得により2〜3割)」を負担するだけで利用できます。 さらに、自己負担額が高額になっても、「高額介護サービス費」という制度があり、一般的な所得の方なら月額44,400円程度で頭打ちになります。

つまり、「介護サービスそのもの」にかかるお金に関しては、公的保険で十分に守られていると言えます。


2. 公的保険の限界:カバーされない「3つの費用」

「じゃあ、月4万〜5万円あれば介護ができるの?」 と思うかもしれませんが、残念ながらそうはいきません。

介護破産を招く原因は、公的保険の対象にならない「保険外の費用」にあります。ここが最大の落とし穴です。

① 施設に入った場合の「食費・居住費」

特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホームに入所した場合、介護サービス費は保険がききます。 しかし、「部屋代(家賃)」「食事代」は、全額自己負担です。 これは「どこにいてもかかる生活費」とみなされるため、保険の対象外なのです。

② おむつ代・タクシー代・リフォーム代

自宅で介護をする場合、おむつ代や介護用品のレンタル代、通院のタクシー代などがかかります。 また、手すりをつけたり段差をなくしたりする住宅改修も、公的補助(上限20万円)を超える分は自腹になります。

③ 「プラスアルファ」のサービス費

「特養がいっぱいで入れないから、民間の有料老人ホーム(入居金数百万円、月額20万円〜)に入るしかない」 「家族が疲弊してしまったので、保険適用外の家事代行サービスを頼みたい」

このように、公的保険の枠組みを超えた「質の高いサービス」や「緊急避難的な施設入居」を選ぼうとすると、費用は青天井になります。

【データの現実】 生命保険文化センターの調査によると、介護にかかる費用の平均は以下の通りです。

  • 一時的な費用(住宅改修や入居金): 平均 約74万円

  • 月々の費用: 平均 約8.3万円

  • 介護期間: 平均 約5年1ヶ月

総額にすると、約580万円のお金がかかる計算になります。 公的保険があっても、これだけの「持ち出し」が発生するのです。


3. 民間の介護保険が「必要な人」の条件

では、この「580万円(約600万円)」のリスクにどう備えるか。 ここで「保険」か「貯金」かの分岐点が現れます。

以下の条件に当てはまる人は「不要」です

  • 自由に使える貯蓄が「500万円以上」ある。

  • 十分な退職金や企業年金が見込める。

  • 持ち家があり、売却やリバースモーゲージで現金化できる。

この方々は、わざわざ手数料のかかる保険に入る必要はありません。貯金をそのまま「介護用」として取っておけば、何にでも使える自由な資金になります。

以下の条件に当てはまる人は「加入を検討」すべきです

  • 貯蓄が少なく、老後資金に不安がある(貯金300万円未満など)。

  • 自営業・フリーランスである(厚生年金がないため、老後の収入が少ない)。

  • 「おひとり様」である(身の回りの世話を外注するための現金が必要)。

  • 子供に経済的な迷惑を絶対にかけたくない。

特に「現金がない」のが一番のリスクです。 民間の介護保険に入っていれば、「要介護2になったら一時金100万円」といったまとまった現金が入ります。 この現金があれば、有料老人ホームの入居金に充てたり、自宅をバリアフリー化したりする選択肢が生まれます。


4. 賢い選び方:「一時金」タイプが正解

もし民間の介護保険に入るなら、どのような商品を選ぶべきでしょうか。 おすすめは、毎月年金のように受け取るタイプではなく、「まとまったお金(一時金)」が出るタイプです。

おすすめ:【一時金タイプ】

  • 理由: 介護の初期段階(住宅改修や施設入居)で、まとまったお金が必要になることが多いからです。

  • 条件: 「要介護2以上」や「要介護3以上」など、公的介護保険の認定に連動して支払われるものがシンプルで揉めません。

注意:【認知症保険】

最近人気の「認知症になったら給付金」というタイプですが、これは「認知症と診断されたら」出るものや、「要介護1以上かつ認知症」など条件が様々です。 掛け捨てで保険料が安いものなら、「お守り」として検討しても良いでしょう。


5. 保険以外の選択肢:「NISA」で備える

「保険料を払う余裕があるなら、それをNISAで運用した方がいいのでは?」 その考え方は非常に合理的です。

保険は「要介護状態」にならなければ、掛け捨て(または低い返戻率)で終わります。 しかし、新NISAで積み立てたお金は、介護にならなければ、旅行や趣味に使えます。

  • 毎月5,000円の保険料 → 介護にならなければ消える(安心料)。

  • 毎月5,000円のNISA積立 → 20年後、介護費用にも、世界一周旅行にも使える。

40代・50代でまだ健康なら、まずは保険ではなく「介護用貯蓄(運用)」を優先し、60代になっても目標額(500万円程度)に届きそうにない場合に、初めて保険でカバーするという戦略も有効です。


まとめ:保険は「現金不足」を補うチケット

民間の介護保険は、決して万人に必須のものではありません。 公的介護保険という強力なベースがある日本において、民間保険の役割は「公的サービスでは賄えない『生活費』や『初期費用』を補填すること」に尽きます。

「不安だからとりあえず入る」のではなく、ご自身の資産状況を直視してください。

  1. 公的年金+貯蓄で、月々プラス8万円の出費に耐えられるか?

  2. 一時的な出費(数十万〜数百万)に対応できるか?

もし「No」であれば、民間の介護保険はあなたの尊厳と家族の生活を守る、頼もしい命綱となります。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

関連記事

前の記事へ

介護保険サービス、自己負担割合が1割から2割・3割に上がる所得ラインはどこ?