離婚したら年金はどうなる? 「年金分割」の仕組みと熟年離婚の金銭的リスク

「定年を機に、夫との生活をリセットしたい」 「長年の性格の不一致にもう耐えられない」

子供が独立し、夫が定年退職を迎えるタイミングで別々の道を歩む「熟年離婚」。 かつてはタブー視されていましたが、人生100年時代、残りの人生を自分らしく生きるための選択肢として、決して珍しいことではなくなりました。

しかし、ここで最大の壁となるのが「離婚後のお金」の問題です。 特に専業主婦やパート勤務で、夫の収入に頼って生活してきた妻にとって、頼みの綱となるのが「年金分割(ねんきんぶんかつ)」制度です。

「年金分割をすれば、夫の年金の半分がもらえるから安心」 もしそう思っているなら、それは非常に危険な勘違いです。

実際には、「半分」もらえるわけではなく、対象となる年金の種類も限定されています。 仕組みを正しく理解せずに離婚届に判を押すと、「こんなはずじゃなかった」と老後破綻に陥るリスクがあります。

この記事では、離婚時の年金分割の正しい仕組みと、もらえる金額の現実、そして熟年離婚が抱える金銭的リスクについて解説します。

1. そもそも「年金分割」とは? 何を分けるのか

年金分割とは、「結婚生活中に夫婦が協力して築いた財産(年金記録)は、離婚時に公平に分けるべきだ」という考えに基づいた制度です。

夫が外で働き、妻が家を守っていた場合、夫の厚生年金は「妻の支えがあってこそ納められたもの」とみなされます。だから、離婚時にはその記録を分け合いましょう、という仕組みです。

【超重要】分け合えるのは「厚生年金」だけ

ここが最大の誤解ポイントです。

日本の年金は「2階建て」ですが、分割の対象になるのは「2階部分(厚生年金)」だけです。

  1. 1階部分(国民年金・基礎年金): 対象外。 それぞれ自分の分をもらうだけ。

  2. 2階部分(厚生年金): ここだけが分割対象。

  3. 3階部分(企業年金・iDeCo): 対象外。 (※ただし、退職金として財産分与の対象になる可能性はあります)

つまり、「夫が自営業(国民年金のみ)」の場合、年金分割は1円もできません。

また、夫が会社員でも、分割されるのは「結婚していた期間の厚生年金記録」だけであり、独身時代の記録は対象外です。


2. 「半分もらえる」の嘘。実際の手取りはどうなる?

「夫の年金が月20万円だから、分割すれば私が10万円もらえる」

これは間違いです。

分割されるのは、あくまで「2階部分(厚生年金)」の、「夫婦の合計額」を最大で半分にする手続きです。

シミュレーション:会社員の夫と専業主婦の妻

  • 夫の年金: 月18万円(基礎6.5万 + 厚生11.5万)

  • 妻の年金: 月6.5万円(基礎6.5万)

【誤解】

夫の18万円の半分、9万円が妻に……とはなりません。

【現実】

  1. まず、分割対象外の「基礎年金」を除外します。

  2. 対象となるのは、夫の厚生年金「11.5万円」の部分です。

  3. これを夫婦で分け合います(妻の持ち分が0の場合、最大で半分)。

    11.5万円 /2 = 5.75万円

  4. この5.75万円が、妻の基礎年金に上乗せされます。

結果:

  • 妻の年金: 6.5万円 + 5.75万円 = 月額 12.25万円

  • 夫の年金: 6.5万円 + 5.75万円 = 月額 12.25万円

確かに増えましたが、「夫の年金の半分」ではありません。

そして重要なのは、「月12万円で一人暮らしができるか?」という点です。

家賃、光熱費、医療費……。現実はかなり厳しい数字になります。


3. 「合意分割」と「3号分割」。2つの手続きの違い

年金分割には、大きく分けて2つの種類があります。

自分がどちらに当てはまるかを確認しましょう。

① 3号分割(さんごうぶんかつ)

【専業主婦のための強力な制度】

  • 対象: 平成20年(2008年)4月1日以降の、専業主婦(第3号被保険者)だった期間。

  • 特徴: 夫の合意は不要です。 妻が一人で年金事務所に行けば、自動的に「2分の1」に分割できます。夫が「イヤだ」と言っても強制的に分けられます。

  • 注意点: 2008年3月以前の期間については、次の「合意分割」が必要です。

② 合意分割(ごういぶんかつ)

【共働き夫婦や、2008年以前の期間】

  • 対象: 共働き期間や、2008年3月以前の専業主婦期間。

  • 特徴: 夫婦の話し合い(合意)が必要です。 「按分割合(分け前)」を最大50%まで話し合って決めます。

  • 揉めた場合: 夫が応じない場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所に割合を決めてもらいます(基本的には50%になります)。

熟年離婚の場合、結婚期間が長いため、「3号分割」と「合意分割」の両方の手続きが必要になるケースがほとんどです。


4. 熟年離婚の金銭的リスク「貧困への入り口」

感情的な理由で離婚を急ぐ前に、冷静にシミュレーションすべきリスクがあります。

リスク①:加給年金(家族手当)が消滅する

夫が年上の場合、夫の年金には年間約40万円の「加給年金」が上乗せされていることがあります。

離婚すると、配偶者がいなくなるため、この加給年金は即座に停止します。

さらに、妻が65歳になった時にもらえるはずだった「振替加算」もなくなります。

夫婦でいればもらえたはずの「年金ボーナス」を捨てることになります。

リスク②:遺族年金がもらえなくなる

夫婦のままでいれば、夫が亡くなった際、妻は「遺族厚生年金」を受け取れます(夫の厚生年金の4分の3)。

しかし、離婚すれば他人です。元夫が亡くなっても、元妻には1円も入りません。

分割して得た自分の年金(月12万円程度)だけで、死ぬまで生き抜く必要があります。

リスク③:住居費の負担増

同居していれば家賃や光熱費は1人分とさほど変わりませんが、別居して2世帯になれば、コストは倍増します。

特に持ち家を出て賃貸暮らしになる場合、保証人の問題や家賃負担が重くのしかかります。


5. 年金分割には「期限」がある!

最後に、絶対に忘れてはいけないルールをお伝えします。

年金分割の請求期限は、「離婚をした日の翌日から2年以内」です。

2年を1日でも過ぎると、どんな事情があろうとも、請求権は消滅します。

「離婚のショックで忘れていた」「落ち着いてからやろうと思っていた」では済まされません。

元夫が「後でやるから」と言って逃げ切りを図るケースもあります。

離婚届を出したら、速やかに(できれば同時に)年金事務所へ行くのが鉄則です。


まとめ:感情で動く前に「情報」を取りに行こう

「離婚して自由になりたい」

その気持ちは尊いものですが、自由には「経済的な自立」がセットで求められます。

年金分割は、専業主婦の権利を守る大切な制度ですが、決して魔法の杖ではありません。

「月12万円」の現実を直視し、それでもなお離婚を選ぶのか、それとも「家庭内別居」等の形で経済的メリット(遺族年金など)を維持するのか。

選択権はあなたにあります。

後悔しない決断のために、まずは正確な数字を知ることから始めましょう。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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