認知症保険への加入は必要? 給付条件の厳しさと「予防」にお金を使う選択

「2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になる」 このようなニュースを聞くたびに、漠然とした不安に襲われる方は多いはずです。

「もし自分が認知症になって、家族に迷惑をかけたらどうしよう」 「徘徊や介護で、貯金があっという間になくなるのではないか」

そんな不安の受け皿として、今、保険会社がこぞって販売しているのが「認知症保険」です。 「認知症と診断されたら一時金100万円!」といったCMを見ると、入っておけば安心な気がしてきます。

しかし、少し立ち止まって考えてみてください。 その保険、本当に「必要な時に、すぐにおりる」のでしょうか?

実は、認知症保険には「給付条件の壁」があり、「認知症っぽい症状が出た」程度では1円ももらえないケースが多々あります。 また、毎月の保険料を払うくらいなら、そのお金を「認知症にならないための予防」に使った方が、人生の質(QOL)は高まるという考え方もあります。

この記事では、認知症保険の給付条件の落とし穴と、保険に頼らない賢い備え方について解説します。

1. 認知症保険とは? どんな時に支払われるのか

認知症保険とは、その名の通り「認知症」になった際に、一時金(まとまった現金)や年金を受け取れる保険です。 介護保険の一種ですが、特に認知症リスクに特化しているのが特徴です。

受け取り方には主に2つのタイプがあります。

  1. 一時金タイプ: 診断されたら100万円、200万円などを一括で受け取る。

    • 用途:施設入居の頭金、介護リフォーム、見守り機器の導入など。

  2. 年金タイプ: 診断されたら、毎年50万円などを一生涯(または一定期間)受け取る。

    • 用途:毎月の介護費用、おむつ代などの補填。

ここまでは魅力的ですが、問題は「どのレベルなら支払われるか」です。


2. 加入前に知っておくべき「給付のハードル」

「物忘れが激しくなった」「財布をなくした」 これらは認知症の初期症状かもしれませんが、この段階で保険金が出る商品はまずありません。

多くの認知症保険には、支払いのためにクリアすべき「厳しい条件」があります。

条件①:医師による「確定診断」が大前提

単なる老化による物忘れではなく、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などの「器質性の認知症」であると医師に診断される必要があります。 「最近ボケてきたな」という家族の感覚だけでは請求できません。

条件②:「要介護1以上」かつ「見当識障害」など

ここが最大の落とし穴です。 単に診断されただけではダメで、公的介護保険の「要介護1以上」の認定を受けていることや、「見当識障害(時間や場所がわからなくなる)」があることなど、症状の進行度合いが条件に含まれている商品が多いのです。

さらに、「その状態が90日(または180日)以上継続していること」という期間要件がついている場合もあります。

【現実のギャップ】 家族が一番困るのは、実は「軽度認知障害(MCI)」や「初期の認知症」の段階です。 まだ体は元気なので徘徊をする、高額な商品を契約してしまう、詐欺に遭う……。 金銭的被害が出やすいこの時期に、「まだ要介護認定のレベルではないですね」と言われて保険金が出ないというミスマッチが起こり得るのです。

※最近は「診断されたら即支払い」という条件の緩いタイプも出てきましたが、その分、保険料はかなり割高です。


3. コスパ検証:「保険料」vs「貯金」

では、経済的な損得で考えてみましょう。

【例:50歳男性が加入する場合】

  • 保険料: 月額 約3,000円

  • 保障内容: 認知症と診断・認定されたら一時金100万円

  • 払込期間: 終身(一生払い続ける)

もし80歳で認知症になったとすると、30年間払い続けることになります。 3,000円 × 12ヶ月 × 30年 = 108万円

支払総額(108万円) > 受け取る給付金(100万円)

なんと、自分で貯金していた方がマシだったという結果になります。 もちろん、もっと早く発症すれば「得」になりますが、認知症の発症ピークは80代後半です。 長生きすればするほど「元本割れ」するリスクが高いのが、この保険の特徴です。

さらに、保険金は「認知症になった時」にしか使えません。 もし認知症にならず、がんや心臓病になった場合、この保険はただの紙切れ(掛け捨て)になります。

一方、「現金(貯金)」なら、認知症にも、がんにも、老人ホームの入居金にも、孫へのお小遣いにも使えます。 使途が限定される保険よりも、自由度の高い現金を確保する方が、不確実な老後には強いのです。


4. 「保険」よりも「予防」にお金を使う選択

そこで提案したいのが、毎月の保険料を「認知症になった時のため」に払うのではなく、「認知症にならない(発症を遅らせる)ため」に使うという発想の転換です。

認知症は、生活習慣の改善でリスクを下げられることがわかってきています。

投資先①:MCI(軽度認知障害)スクリーニング検査

血液検査などで、認知症の前段階であるMCIのリスクを判定できます(費用は数万円程度)。 早期発見できれば、運動や食事療法で回復する可能性があります。保険料の1年分で、この検査を定期的に受ける方が有意義かもしれません。

投資先②:補聴器や歯科検診

実は、「難聴」は認知症の最大のリスク要因の一つと言われています。耳が遠くなるとコミュニケーションが減り、脳への刺激が減るからです。 また、「歯の本数」と認知機能にも相関があります。 高い保険料を払うくらいなら、性能の良い補聴器を買ったり、歯のメンテナンス(インプラントや入れ歯の調整)にお金をかけたりする方が、発症リスクそのものを下げられます。

投資先③:スポーツジムや趣味のサークル

運動不足の解消や、人との会話は脳の特効薬です。 月3,000円の保険料を払うより、月3,000円のジム代やサークル会費に使い、楽しく健康寿命を延ばす方が、人生の幸福度は高いのではないでしょうか。


5. それでも認知症保険が「必要な人」とは?

ここまで「不要論」を述べましたが、もちろん必要なケースもあります。

① 貯蓄が極端に少ない人(自転車操業の人)

「貯金が100万円もない」という場合、認知症になった瞬間に介護費用で詰んでしまいます。 保険料は割高でも、少ない掛け金で大きな保障を買う意味があります。

② 「おひとり様」で頼れる親族がいない人

身元保証会社との契約や、成年後見人の申し立て費用など、他人にお金を払って支援してもらう必要があります。 「現金」の管理ができなくなるリスクに備え、保険会社から直接サービス事業者に支払われる特約などを利用する価値があります。


まとめ:不安をお金で解決する前に

認知症は怖い病気です。 しかし、その恐怖心に付け込まれて、内容をよく理解しないまま保険に入るのは避けましょう。

【結論】

  1. 貯蓄が300万円以上あるなら、認知症保険は不要。 そのお金をロックせず、現金のまま持っておく。

  2. 保険料を払う余裕があるなら、「新NISA」で運用する。 運用益で介護費用を賄う方が合理的。

  3. 余剰資金は「予防(耳、歯、運動)」に投資する。

「認知症になったら100万円もらえる」よりも、「認知症にならずに80代を元気に過ごせた」という未来のために、大切なお金を使ってください。

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