相続対策と資産運用を両立!生前贈与と新NISAを活用した賢い資産移転術

2024年1月に始まった新NISA(少額投資非課税制度)は、個人の資産形成を強力に後押しする制度ですが、実は「相続対策」の観点からも非常に有効なツールとして注目されています。

相続税対策の基本である「生前贈与」と、新NISAの「非課税メリット」を組み合わせることで、贈与した資産を非課税で効率的に成長させながら、将来の相続財産を圧縮するという、一石二鳥の賢い資産移転術が実現します。

ここでは、新NISAを活用した生前贈与の具体的な方法と、そのメリット・注意点について解説します。

新NISAのイメージ

なぜ「生前贈与」と「新NISA」の組み合わせが最強なのか

相続税対策の基本は、財産を生きているうちに子や孫へ移転し、将来の相続財産を減らしておく「生前贈与」です。しかし、ただ現金を贈与するだけでは、贈与された資産はその後も課税口座で運用され、利益に対して税金がかかってしまいます。

ここに新NISAを組み合わせることで、以下の相乗効果が生まれます。

メリット1:相続財産と将来の課税対象を同時に圧縮

  • 贈与により相続財産を圧縮: 親(贈与者)の資産が現金として子・孫(受贈者)に移り、将来の相続財産を減らせます。

  • 新NISAで運用益を非課税に: 贈与された現金を子・孫がNISA口座で運用すれば、その後に発生する運用益が全額非課税になります。

メリット2:非課税枠の「二重取り」効果

贈与された資金を子・孫それぞれの新NISA口座(生涯非課税限度額1,800万円)で運用することで、親が自分で運用するよりも、家族全体の非課税枠を最大限に活用でき、効率的な資産増加が期待できます。

メリット3:長期・複利効果の最大化

特に、子や孫といった若い世代に資産を移転する場合、NISAの「非課税保有期間の無期限化」と相まって、長期・積立・分散投資の恩恵を最大限に享受でき、時間とともに資産を大きく育てることが可能です。

実践!新NISAを活用した賢い資産移転術

新NISAを活用した生前贈与の具体的なステップは、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」のどちらを選ぶかによって異なります。

基本戦略:暦年贈与の基礎控除(年間110万円)を活用

最もシンプルで多く活用されるのが、暦年贈与の基礎控除を利用した方法です。

  • 贈与の実行: 親や祖父母が、子や孫(満18歳以上)に対し、年間110万円以下の現金を贈与します。

    • 年間110万円以下なら贈与税は非課税です。

    • 贈与の事実を明確にするため、「贈与契約書」を作成し、振込による贈与を行いましょう。

  • NISA口座での運用: 贈与を受けた子や孫が、その資金を原資として自身の新NISA口座(つみたて投資枠や成長投資枠)で投資信託などを購入・運用します。

  • 効果の継続: これを毎年継続することで、親の相続財産を長期にわたって非課税で子・孫へ移転し、さらに子・孫の資産は非課税で成長していきます。

応用戦略:相続時精算課税制度とNISAの組み合わせ

2024年の税制改正により、相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除が創設されました。この制度は、贈与額2,500万円までが贈与税非課税となる制度で、原則として贈与者が亡くなった時に贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算します。

この年110万円の基礎控除と新NISAを組み合わせることで、以下のメリットが生まれます。

  • 年間110万円までの贈与は相続財産に加算されず(非課税)、さらに運用益も非課税になります。

  • 暦年贈与のような**「持ち戻し」**(死亡前一定期間内の贈与は相続財産に含めるルール)の心配がありません。

ただし、一度この制度を選択すると、暦年贈与の基礎控除(年間110万円)は利用できなくなり、適用には税理士などの専門家への相談が不可欠です。

新NISAによる生前贈与の注意点

賢い資産移転術ですが、実行にはいくつかの重要な注意点があります。

贈与の成立要件(「名義預金」に注意)

  • 贈与は「あげる人」と「もらう人」双方の合意があって初めて成立します。

  • 単に親が子の名義の口座に振り込んでいるだけでは、「名義預金」とみなされ、贈与が成立していないとして将来の相続時に相続財産として課税されるリスクがあります。

  • 贈与された資金の管理・運用は、必ず受贈者(子や孫)自身が行う必要があります。

NISA口座は「18歳以上」が対象

新NISA口座を開設できるのは日本国内に居住する満18歳以上の方です。未成年(孫など)への贈与を行う場合は、NISA口座での運用はできません。その資金は預貯金や課税口座での運用となります。

贈与税・相続税の専門家への相談

生前贈与は、家族構成や資産状況によって最適な方法が異なります。特に、相続時精算課税制度の利用や、土地などの不動産を含む贈与は、複雑な税務判断を伴います。必ず税理士などの専門家に相談し、適切な手続きを踏むようにしましょう。

まとめ

新NISAは、単なる資産形成のツールではなく、相続対策と資産運用を両立させるための強力な「資産移転ツール」としての側面を持っています。

「暦年贈与の非課税枠(110万円)」「新NISAの非課税運用枠(1,800万円)」を賢く組み合わせることで、ご自身の資産を圧縮しつつ、子や孫の未来の資産形成を後押しすることができます。大切な家族への資産承継を、税負担を抑えて最大限に効率化するために、この新しい制度をぜひ活用してください。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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