タンス預金での贈与はバレるのか? 税務調査官の視点とリスク

「現金で手渡ししてしまえば、記録に残らないから税務署にもバレないだろう」 「タンス預金(自宅保管の現金)なら、誰にも知られずに孫にお金を渡せるはずだ」

相続税対策や生前贈与を考え始めたとき、多くの人が一度はこう考えます。 銀行を通すと「足がつく」。だから、現金でコッソリ渡そう。

しかし、結論から申し上げます。 その「完全犯罪」は、プロの税務調査官には通用しません。

税務署は、あなたが現金を渡した瞬間を見ているわけではありません。しかし、彼らは「お金の流れの矛盾」を見つけるプロフェッショナルです。そして、その矛盾が露呈するのは、贈与した直後ではなく、数年後、親御さんが亡くなって相続税の調査が入った時なのです。

この記事では、なぜタンス預金での贈与がバレるのか、税務調査官がどこを見て「クロ」と判断するのか、その驚くべき捜査手法とリスクについて解説します。

1. なぜ「現金手渡し」ならバレないと思うのか?

多くの人がタンス預金贈与に走る心理はシンプルです。

  • 銀行振込だと、通帳に履歴が残る。

  • 現金手渡しなら、領収書も契約書も残らない。

  • 「誰にも言わなければ、墓場まで持っていける」

確かに、あなたが自宅の金庫から100万円を取り出し、子供に渡した「その瞬間」を税務署は見られません。 しかし、税務調査官は「点」ではなく「線(お金の動き全体)」を見ています。

現金には名前が書いてありませんが、「現金を動かした痕跡」は必ずどこかに残るのです。


2. 税務調査官の「X線」視点:ここからバレる!

では、具体的にどこから発覚するのでしょうか。税務調査官は、以下の3つの視点から「見えない現金」をあぶり出します。

視点①:親の通帳の「不自然な引き出し」

これが最も多い発覚パターンです。 相続税の調査が入ると、調査官は亡くなった人(被相続人)の過去10年分(場合によってはそれ以上)の銀行口座の動きを徹底的にチェックします。

  • 「毎月50万円ずつ、ATMで引き出されていますね」

  • 「お正月やお盆の時期に、決まって100万円単位の出金がありますね」

調査官は質問します。「この引き出した現金は、何に使いましたか?」

ここで、「生活費です」と答えても通用しません。高齢の夫婦二人の生活費にしては額が大きすぎるからです。 「旅行に行きました」「趣味に使いました」と言っても、領収書や写真などの証拠がなければ認められません。

使い道が証明できない出金は、「使途不明金(しとふめいきん)」と呼ばれます。 そして税務署はこう推測します。「自分で使っていないなら、誰かにあげたか、どこかに隠している(タンス預金)かのどちらかですね」。 こうして、隠していたはずの贈与が認定されてしまうのです。

視点②:KSKシステムによる「収入と資産のアンバランス」

国税庁は「KSK(国税総合管理)システム」という巨大なデータベースを持っています。ここには国民の収入、納税額、不動産の購入履歴などが蓄積されています。

もし、年収300万円の息子が、ある日突然5,000万円のマンションを頭金で購入したらどうなるでしょうか? システムがアラートを出します。「この息子の収入で、この頭金は用意できないはずだ」と。

調査官は息子の資金源を疑います。「親からの援助(贈与)があったはずだ」。 そこから親の口座を調べれば、マンション購入時期に合わせて多額の現金が引き出されている事実はすぐに判明します。

視点③:子供・孫の「預金残高の急増」

相続税の調査では、亡くなった人だけでなく、家族(配偶者・子・孫)の口座も調査対象になります(銀行への照会権限があります)。

親の口座から引き出された日と近い日程で、子供の口座に同額の入金があれば一発アウトです。 また、直接入金していなくても、専業主婦や学生の口座に、不自然に多額の残高があれば、「これは親から流れてきたお金だ」と推認されます。


3. バレた時の代償:ただ税金を払うだけではない

「バレたらその時に税金を払えばいいや」 そう軽く考えているなら、それは大きな間違いです。タンス預金での無申告が発覚した場合のペナルティは強烈です。

① 「重加算税」という名の罰金

単なる計算間違いやうっかりミスなら「過少申告加算税(10%程度)」で済みます。 しかし、タンス預金での手渡し贈与は、「仮装・隠蔽(わざと隠した)」と判断される可能性が極めて高い行為です。

この場合、本来の税金に加えて35%〜40%の「重加算税」が課せられます。 さらに、贈与した日から発覚した日までの「延滞税(利息)」も年利でかかってきます。

結果として、「本来払うべきだった税金の倍近い金額」を持って行かれることすらあります。

② 「相続財産」への持ち戻し

贈与だと認められず、「ただ現金を預けていただけ(名義預金)」と判断された場合、そのお金は「亡くなった人の財産」として相続税の課税対象に戻されます。 一生懸命現金を移した努力はすべて無駄になり、高い相続税がかかることになります。


4. なぜ「タンス預金」そのものがリスクなのか

税金面以外でも、自宅に多額の現金を置く「タンス預金」には大きなリスクがあります。

  1. 災害・盗難リスク: 火事で燃えてしまったり、空き巣に入られたりしたら、現金は戻ってきません。銀行預金ならペイオフ(1,000万円までの保護)がありますが、タンス預金には何の保証もありません。

  2. 遺族間のトラブル: 「お父さんの部屋から300万円出てきたらしいけど、長男がポケットに入れたんじゃないか?」 記録のない現金は、兄弟間の疑心暗鬼を生み、争族(そうぞく)の原因になります。

  3. 旧紙幣問題: 2024年に新紙幣が発行されました。今後、旧紙幣のタンス預金が大量にあると、それを使う際や銀行に入金する際に目立ち、「どこから出てきたお金ですか?」と怪しまれるきっかけになります。


5. 正しい贈与こそが、最強の節税

コソコソ隠すよりも、堂々と制度を利用する方が、結果的に安く、安全にお金を渡せます。 税務署に疑われないための「正しい贈与」の鉄則は以下の通りです。

鉄則①:銀行振込で行う

「足がつく」のではありません。「証拠を残す」のです。 銀行振込なら、「いつ、誰が、誰に、いくら渡したか」が客観的に証明できます。これが、税務調査の際の強力な防御材料になります。

鉄則②:贈与契約書を作成する

「あげました」「もらいました」という合意を書面に残します。 いくら銀行振込をしていても、契約書がないと「貸しただけ」「預けただけ」と疑われる余地が残るからです。

鉄則③:贈与税の申告をする(あえて)

年間110万円を超える贈与をして、あえて贈与税を少し払うことで、「税務署に申告済みのクリーンなお金」にすることも有効な戦略です。


まとめ:税務署の目は誤魔化せない

タンス預金での贈与は、「ハイリスク・ローリターン」な行為です。 一時的に税金を逃れたつもりでも、数年後、親御さんが亡くなった後の税務調査で、ご家族が過酷な追及とペナルティを受けることになります。

「バレないだろう」という安易な考えは捨ててください。 税務調査官は、あなたが想像する以上に、お金の流れに敏感です。

大切なお金を、罰金で減らしてしまうことほど馬鹿らしいことはありません。 愛する家族にお金を残したいなら、「ガラス張りの贈与」こそが、最も賢い愛情表現なのです。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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