贈与税の申告漏れ、税務署はどこで見ている? お尋ねが来るタイミングと対処法
「タンス預金を現金で渡せば、足がつかないだろう」 「銀行振込でも、金額を小さく分けていればバレないはずだ」
もしあなたがそう考えて、コッソリとお金を子供や孫に渡しているなら、それは非常に危険な賭けです。
日本の税務署の調査能力、そして彼らが持つ情報ネットワークは、世界でもトップクラスと言われています。彼らは、あなたの預金口座の動きだけでなく、不動産の購入情報、生命保険の契約、果ては海外送金の履歴まで、あらゆる情報を「KSK(国税総合管理)システム」という巨大なデータベースで一元管理しています。
「なぜバレたんだ!?」と青ざめるのは、贈与をした直後ではありません。 数年後、忘れた頃にやってくる「お尋ね」や「税務調査」によって、過去の資金移動が白日の下に晒されるのです。
この記事では、税務署がどのようなルートで「申告漏れ」を察知するのか、その驚きの仕組みと、もし「お尋ね」が届いてしまった時の正しい対処法について解説します。
![]()
1. 税務署の「情報網」はここを見ている!
税務署員は、個人の家を24時間監視しているわけではありません。彼らには、動かなくても情報が向こうから集まってくる「3つの入り口」があります。
入り口①:不動産を買った時(登記情報)
これが最も多い発覚パターンです。 子供が家を買うと、法務局で登記を行います。この情報は税務署に共有されます。
税務署はKSKシステムを使い、「子供の年齢・年収」と「購入した物件の価格・頭金」を照らし合わせます。 「年収400万円の30歳が、頭金で1,000万円を入れている。住宅ローンにしては頭金が多すぎる。自力で貯めたとは考えにくい。……親からの援助(贈与)があったな?」
このように、「収入と支出のアンバランス」から、一瞬で贈与を疑われます。
入り口②:親が亡くなった時(相続税調査)
ここが最大の山場です。 親が亡くなり、相続税の申告が行われると、税務署は「過去10年分(場合によってはそれ以上)」の家族全員の通帳履歴を職権で調査します。
「お父さんの口座から、5年前に300万円が引き出されている。同日、長男の口座に300万円が入金されている。贈与税の申告は……されていない」
相続の調査だと思っていたら、実は「過去の贈与税の無申告」を指摘される。これを「名義預金」や「使途不明金」の追求と言い、税務調査で最も揉めるポイントです。
入り口③:生命保険の満期金や解約金
保険会社は、一定額以上の保険金支払いがあると、税務署に「支払調書」を提出する義務があります。 「契約者は親だが、受取人が子供」になっている満期金などが支払われた際、そこに贈与税申告がないと、自動的にアラートが鳴る仕組みになっています。
2. 恐怖の手紙「お尋ね」が来るタイミング
では、税務署からのコンタクトはいつ、どのような形で来るのでしょうか。 大きく分けて「お尋ね(文書)」と「調査(訪問)」の2段階があります。
パターンA:「お買いになった資産の買入価額などについてのお尋ね」
不動産を購入してから半年〜1年後くらいに、ペラっとした封書が届きます。 「あなたが買った家の資金内訳を教えてください」というアンケートです。
-
自己資金: 〇〇万円
-
借入金(ローン): 〇〇万円
-
贈与を受けた金額: 〇〇万円
ここで正直に「親から500万円もらった」と書き、贈与税の申告をしていなければ、後日「申告漏れですね」と連絡が来ます。 逆に、嘘をついて「自己資金」と書いても、前述の通り年収データと照合されればバレます。ここで嘘をつくと、より悪質な「隠蔽」とみなされるリスクがあります。
パターンB:相続税の「税務調査」
親が亡くなってから1年〜2年後の秋頃に来ることが多いです(税務署の人事異動が7月にあり、新体制が落ち着く秋が調査シーズンとなるため)。
ある日突然電話がかかってきて、「〇月〇日に調査に伺いたいのですが」と告げられます。 この時点で、税務署はすでに銀行調査を終えており、「間違いなく申告漏れがある」という確証(証拠)を持って乗り込んできます。
3. もし「申告し忘れていた」と気づいたら?
この記事を読んで、「マズい、3年前に渡した200万円、申告していない」と気づいた方。 今すぐの行動が、あなたの財布を守ります。
税務上のペナルティには、天と地ほどの差があります。
① 税務署に指摘される前に、自主的に申告する
「すみません、忘れていました」と自分から申告書を出した場合。 本来の税金に加え、5%の「過少申告加算税(軽いペナルティ)」で済みます。 (※期限後申告でも、調査通知前なら5%です)
② 税務署から指摘されてから申告する
お尋ねや調査でバレてから申告する場合。 本来の税金に加え、15%〜20%の「無申告加算税(重いペナルティ)」が上乗せされます。
③ 嘘をついたり、隠そうとしたりする
調査に対して「もらっていない」と嘘をついたり、書類を改ざんしたりした場合。 35%〜40%という非常に重い「重加算税」が課せられます。これは事実上の罰金です。 さらに、「延滞税(利息)」も年数分たっぷり取られます。
結論:気づいたなら、1日でも早く、税務署から電話がかかってくる前に「自主申告」してください。
4. 申告漏れを防ぐための「3つの鉄則」
これから贈与を行う場合は、以下のルールを徹底して、堂々と税務署に見せられる状態にしておきましょう。
鉄則①:現金手渡しは絶対にやめる
「証拠を残さない」のが一番危険です。 手渡しのお金は、将来の相続調査で「使途不明金(親が引き出した現金が消えている)」として扱われます。 使途が証明できないと、「相続人が隠し持っている(=相続財産)」とみなされ、結局課税されます。 必ず銀行振込で行い、お金の流れを「見える化」してください。
鉄則②:贈与契約書を作成する
「いつ、誰が、誰に、いくらあげたか」を記した契約書を毎回作成します。 これがあれば、税務署から「これは貸したお金では?」「おじいちゃんが勝手に振り込んだのでは?」と疑われた時に、「いいえ、双方合意の贈与です」と反論できます。
鉄則③:非課税制度を正しく使う
こそこそ隠さなくても、堂々と使える非課税制度はたくさんあります。
-
暦年贈与: 年間110万円まで非課税。
-
住宅取得資金贈与: 省エネ住宅なら最大1,000万円まで非課税(要申告)。
-
教育資金贈与: 1,500万円まで非課税(要手続き)。
-
相続時精算課税制度: 2,500万円まで非課税(要申告)。
これらを活用し、「申告書を出す(=税務署に報告する)」ことこそが、最も安全な税務対策になります。
まとめ:税務署とは「戦う」のではなく「報告」するもの
「税務署は怖い」というイメージがありますが、彼らはルール通りに処理をしているだけです。 正しく申告している人に対しては、何も怖いことはありません。
一番怖いのは、「バレないだろうという安易な気持ち」と「無知」です。
過去の贈与について不安があるなら、税務署から「お尋ね」が来るのを怯えて待つのではなく、こちらから先手を打って修正する勇気を持ってください。 その誠実な対応が、結果として追徴課税を最小限に抑え、家族の資産を守ることにつながります。
