「加給年金」をもらい忘れていませんか? 年下の妻がいる人が必ず確認すべきこと
「年金の手続きは全部やったはずだ」 「日本年金機構から届いたハガキは全部返信したから大丈夫」
そう思っているあなた。もしかすると、年間約40万円、総額で数百万円にもなる「年金の家族手当」を受け取り損ねているかもしれません。
その手当の名前は、「加給年金(かきゅうねんきん)」。
この制度は、申請しないと1円ももらえません。自動的には振り込まれないのです。 特に、「会社員生活が長かった夫」と「年下の妻」という組み合わせのご夫婦にとって、これは老後資金計画を大きく左右するほどの金額になります。
「知らなかった」では済まされない、この加給年金の仕組みと、絶対にハマってはいけない「2つの落とし穴」について、分かりやすく解説します。
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1. 年金にも「家族手当」がある! 加給年金とは?
現役時代、給料に「扶養手当」や「家族手当」がついていた方も多いでしょう。 加給年金とは、まさにその**「年金版・家族手当」**です。
厚生年金に長期間加入していた人が65歳になった時、その人に養われている「65歳未満の配偶者(妻など)」がいる場合に、本人の年金に上乗せして支給されるお金です。
なぜこんな制度があるの?
日本の年金制度では、原則として「65歳」から1人前の年金がもらえます。 しかし、夫が65歳で引退した時、妻がまだ60歳だったらどうでしょう? 妻はまだ自分の年金をもらえません。その間の生活費を補填するために、「妻が65歳になって自分の年金をもらうようになるまでは、夫の年金を増やしてあげよう」というのがこの制度の趣旨です。
2. 金額はいくら? 年間40万円の破壊力
では、具体的にいくらもらえるのでしょうか。 令和6年度(2024年度)の金額で見てみましょう。
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基本額:234,800円
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特別加算額:173,300円(※生年月日により異なるが、昭和18年4月2日以降生まれならこの額)
合計:年額 408,100円
なんと、年間約40万円です。 もし、妻が「5歳年下」だった場合、妻が65歳になるまでの5年間受け取れるので、 40万円 × 5年間 = 総額 約200万円 これだけの金額が、申請ひとつで変わるのです。
3. あなたは対象? 必須の「3つの条件」
ただし、誰でももらえるわけではありません。以下の3つのハードルをすべてクリアする必要があります。
条件①:夫の「厚生年金」加入期間が20年以上
これが最大の壁です。 夫が会社員(厚生年金加入者)として働いた期間が、通算で20年以上(240ヶ月以上)あることが必須です。 「19年11ヶ月」では1円ももらえません。 (※40歳以降の加入期間が15年以上などの特例もありますが、基本は20年です)
条件②:妻が「65歳未満」であること
妻が65歳になると、妻自身の年金受給が始まるため、夫の加給年金は打ち切られます。 つまり、「妻が年下であること」が絶対条件です。年齢差があればあるほど、受給期間が長くなりお得です。
条件③:妻の年収が「850万円未満」
妻が夫に生計を維持されている(扶養されている)必要があります。 ただし、現役時代の「年収130万円の壁」ほど厳しくなく、年収850万円未満であれば認められます。
4. 要注意! もらえなくなる「2つの落とし穴」
ここからが本題です。 条件を満たしているのに、制度の仕組みを知らないせいで「もらい損ねる」ケースが後を絶ちません。
落とし穴①:夫が年金を「繰り下げ受給」してしまう
最近流行りの「繰り下げ受給」。 年金の受け取りを70歳まで我慢すれば、受給額が42%増えるというお得な制度です。
しかし、加給年金には「繰り下げ」による増額はありません。 それどころか、夫が待機している間(65歳〜70歳の間)、加給年金は全額ストップ(支給停止)してしまいます。
【悲劇のシミュレーション】 夫(65歳)、妻(60歳)。 夫は「年金を増やしたい」と考え、70歳まで繰り下げを選択した。
本来なら: 65歳〜70歳の間、毎年40万円(計200万円)の加給年金がもらえた。
繰り下げた結果: 待機中は加給年金が出ない。70歳になった時、妻は65歳になっているので、加給年金の権利は消滅。
結果:200万円をドブに捨てたことになります。
繰り下げによる増額分で、この「消えた200万円」を取り戻すには、相当な長生きが必要です。 年下の妻がいる場合、「繰り下げずに65歳からもらう」のが正解になるケースが多いのです。
落とし穴②:妻が「20年以上」会社員をしていた
妻自身もバリバリ働いていて、妻の厚生年金加入期間が「20年以上」ある場合です。
妻が65歳未満でも、妻自身が「特別支給の老齢厚生年金」や「障害年金」を受け取る権利がある場合、夫の加給年金は支給停止されます。 (※夫婦での二重取りはできない、というルールです)
妻がずっと専業主婦やパート(扶養内)だった場合は問題ありませんが、共働き夫婦の場合は要注意です。
5. 妻が65歳になったらどうなる? 「振替加算」へ
妻が65歳になると、ハッピーな「加給年金(年40万円)」は終了します。 その代わり、今度は妻自身の年金に「振替加算(ふりかえかさん)」というプチボーナスが上乗せされます。
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加給年金: 夫の年金にプラスされる。金額は大きい。
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振替加算: 妻の年金にプラスされる。金額は小さい。
振替加算の額は生年月日によりますが、昭和30年代生まれの方で年額1万円〜5万円程度です。 加給年金に比べるとガクッと減りますが、こちらは妻が生きている限り一生涯もらえます。
※ただし、昭和41年4月2日以降に生まれた妻(現在50代後半以下の方)には、この振替加算はありません。制度が縮小されているためです。
6. どうやって手続きするの? 「待っていてはダメ」
加給年金をもらうためには、「老齢厚生年金・退職共済年金 加給年金額加算開始事由該当届」という、呪文のような名前の書類を年金事務所に提出する必要があります。
タイミングはいつ?
基本的には、夫が65歳になって年金を請求する際に、戸籍謄本や妻の所得証明書などを添えて一緒に申請します。
もし、「結婚したのが65歳を過ぎてから(熟年婚)」や「夫が退職して厚生年金期間が20年を満たしたのが65歳過ぎ」といった場合は、その事由が発生した時点で申請が必要です。
まとめ:40万円を捨てないために
加給年金は、老後の家計にとって非常に大きな助け舟です。 しかし、制度が複雑で、特に「繰り下げ受給」との相性が最悪であることは、あまり知られていません。
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夫の厚生年金は20年以上あるか?
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妻は年下か?
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妻自身に厚生年金20年以上の経歴はないか?
この3点を確認し、もし対象になりそうであれば、「安易な繰り下げ受給」はストップしてください。 「自分は長生きする自信があるから繰り下げたい」という場合でも、「老齢基礎年金(国民年金)だけ繰り下げて、厚生年金は65歳からもらう」という裏技を使えば、加給年金を受け取りながら、一部の年金を増やすことも可能です。
数百万円の損得がかかっています。 「たぶん大丈夫」で済ませず、一度しっかりと確認しておきましょう。
