働きながら年金をもらうと減額される? 「在職老齢年金」の仕組みと働き方の調整
「定年後も会社に残って働きたいけれど、給料をもらうと年金が減らされるって本当?」 「一生懸命働いたのに、年金をカットされるなんて納得がいかない!」
60代以降も現役で働き続けたいと考える方にとって、最大の懸念材料となるのが「在職老齢年金」制度です。
「働けば働くほど損をする」というイメージが独り歩きしていますが、実は2022年の法改正によって基準が大幅に緩和され、「働いても年金が減らない人」が圧倒的に増えました。
しかし、仕組みを正しく理解していないと、 「あえて給料を下げてもらったのに、実は下げる必要がなかった」 「バリバリ稼いだら、年金が全額停止になってしまった」 といった、もったいない事態になりかねません。
この記事では、年金がカットされる具体的な「ボーダーライン」と、働き損にならないための正しい調整方法について、専門用語を噛み砕いて解説します。
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1. そもそも「何円」稼ぐとカットされるのか?
まず、結論となる「ボーダーライン」を覚えましょう。
60歳以上の方が働きながら年金をもらう場合、年金が減らされる基準額は、「月額 50万円」です。
※正確には、毎年の賃金水準に合わせて改定されますが、令和6年度(2024年度)等の基準として「50万円」と覚えておけば間違いありません(以前は47万円や48万円でしたが、引き上げられました)。
「月額50万円」の内訳とは?
ここで言う「50万円」とは、単なる手取り給料のことではありません。以下の2つを足した合計額です。
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給与・ボーナスの月額換算(総報酬月額相当額):
毎月の給料(手取りではなく、税引き前の総支給額+交通費なども含む)に、直近1年間のボーナスを12で割った額を足したもの。
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厚生年金の月額(基本月額):
あなたが受け取る予定の「老齢厚生年金(報酬比例部分)」の月額。
【計算式】
この合計が50万円を超えた場合のみ、「超えた金額の半分」が年金から停止(カット)されます。
逆に言えば、合計が50万円以下なら、年金は1円も減らされず、全額受け取れます。
2. 勘違いしないで! 「減らされない年金」もある
「年金がカットされる」と聞くと、もらえるお金がすべて対象になると思いがちですが、それは誤解です。
在職老齢年金制度で調整の対象になるのは、あくまで「老齢厚生年金(会社の給料に応じて増える部分)」だけです。
以下の年金は、いくら稼いでも絶対に減額されません。
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老齢基礎年金(国民年金): 1階部分の年金は、年収1億円稼ごうが全額支給されます。
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個人年金・iDeCo: 民間の保険やiDeCoで積み立てたお金は対象外です。
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企業年金(確定給付・確定拠出): 原則として対象外です(※基金のルールによる)。
つまり、カットされるのは「厚生年金」の部分だけ。基礎年金は聖域として守られているのです。
3. シミュレーション:どのくらい減るの?
では、具体的なケースで計算してみましょう。
(※基準額を50万円として計算します)
ケースA:【セーフ】合計が50万円以下
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給料(ボーナス込): 月30万円
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厚生年金: 月10万円
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基礎年金: 月6.5万円(※計算には含めない)
【判定】
30万円(給料)+ 10万円(厚生年金)= 40万円
50万円以下なので、減額ゼロ。給料も年金も全額もらえます。
ケースB:【アウト】合計が50万円を超えた
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給料(ボーナス込): 月45万円
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厚生年金: 月15万円
【判定】
45万円(給料)+ 15万円(厚生年金)= 60万円
基準額(50万円)を 10万円オーバー しています。
【カット額の計算】
オーバーした10万円の「半分」が停止されます。
10万円 /2 = 5万円
結果、厚生年金は15万円から5万円引かれ、「10万円」支給されます。
(※給料45万円+年金10万円=月収55万円の手取りとなります)
ケースC:【全額停止】厚生年金がゼロになる場合
給料が非常に高く、計算上の停止額が年金額を上回る場合は、厚生年金が全額支給停止になります。
ただし、それでも「老齢基礎年金」だけは支給され続けます。
4. 年金を減らさないための「3つの調整テクニック」
「せっかく払った保険料なんだから、1円も引かれたくない!」
そう考える方のために、合法的に年金カットを回避する働き方を3つ紹介します。
テクニック①:厚生年金に入らない働き方をする
この制度は、「厚生年金に加入して働く人(被保険者)」だけが対象です。
つまり、厚生年金に入らなければ、いくら稼いでも年金は減りません。
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勤務時間・日数を減らす:
「週20時間未満」などの条件でパート勤務をし、社会保険(厚生年金)の加入対象から外れる。
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フリーランス・個人事業主として働く:
会社と雇用契約ではなく「業務委託契約」を結べば、厚生年金には加入しません。
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70歳以上まで働く:
厚生年金の加入義務は「70歳まで」です。70歳を過ぎれば、会社員としてフルタイムで働いても(厚生年金被保険者ではなくなるため)、年金は全額支給されます。
テクニック②:給与と年金の合計を「50万円ギリギリ」にする
会社と相談し、勤務日数や役職を調整して、給与をコントロールします。
例えば、合計が52万円になりそうで「月1万円カット」されるなら、給料を2万円下げて50万円に収めれば、年金は満額もらえます。
ただし、「給料を下げた分以上に、手取りが増えるわけではない」点に注意が必要です(働き損を避けるだけです)。
テクニック③:あえて「繰り下げ受給」を選択する
「今は給料が高いから年金はいらない。その代わり、引退後に増やして受け取りたい」
そう考えるなら、65歳で年金を受け取らず、「繰り下げ受給(受給開始を遅らせる)」を選ぶのも手です。
ただし、ここで強烈な注意点があります。
在職老齢年金の仕組みで「支給停止(カット)」されるはずだった金額は、繰り下げても増額の対象になりません。
【重要:繰り下げの落とし穴】
「給料が高くて年金が月5万円カットされる状態」の人が繰り下げ待機をした場合。
将来増額されるのは「カット後の残りの年金」ベースで計算されます。
「もらわずに我慢したから、カットされた5万円分も増えて戻ってくる」ということはありません。消滅します。
高収入の人が繰り下げをする場合は、この「隠れ消滅リスク」を理解しておく必要があります。
5. 「働き損」は本当にあるのか?
ここまで「カット」の話をしてきましたが、冷静に考えると別の視点が見えてきます。
年金が一部カットされるケースBの人(給与45万+年金15万)を見てみましょう。
年金は5万円引かれましたが、トータルの月収は「55万円」です。
もし、年金カットを嫌がって、給料を30万円に抑えていたらどうなるでしょう?
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給料30万円 + 年金15万円(満額) = トータル月収 45万円
結果:
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調整せず働いた人:月収 55万円
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調整して働いた人:月収 45万円
そう、年金の一部がカットされたとしても、「働いて稼いだ給料」が上乗せされる分、手元の総収入は増えるケースがほとんどなのです。
「年金を減らされたくない」という気持ちに縛られすぎて、稼ぐチャンス(総収入)を自ら捨ててしまうのが、一番の「働き損」かもしれません。
まとめ:50万円の壁は意外と高い
かつては「月28万円」を超えるとカットされる時代があり、多くの高齢者が働く意欲を削がれました。
しかし今は「月50万円」です。
これは、年金月額が15万円の人なら、給料(ボーナス込)が35万円まではセーフという計算です。
再雇用やパート勤務で働く多くのシニアにとって、「気にする必要のない壁」になりつつあります。
「働くと年金が減る」という古い常識を捨てましょう。
制度を正しく恐れ、計算し、それでもなお「働くこと」で得られる収入と社会とのつながりは、何物にも代えがたい資産です。
