年金繰り下げ受給の落とし穴?後悔しないための注意点と対策

年金の受給時期を遅らせる代わりに受給額が増える「繰下げ受給」。受給額の増加は魅力的ですが、お得かどうかの判断が難しく、繰下げるべきか迷っている人もいるでしょう。

本記事では、年金繰り下げの仕組みやメリット・デメリットを簡単に解説し、後悔しない選択をするために知っておくべきポイントをお伝えします。

年金受給のイメージ

年金の繰り下げ受給とは

年金の繰り下げ受給とは、老齢年金を65歳で受け取らずに、66歳以上75歳未満で受け取りをスタートできる制度です。
年金を繰り下げることで、1ヵ月あたり0.7%あたりの加算があり、年金の受給タイミングを遅らせるほど多くの加算が付きます。加算は一生涯続くので、一定期間受け取りを我慢することができれば、生きている間はずっと繰り下げ受給のメリット を受け続けられます。

繰下げ受給の条件と手続き

繰下げ受給を選択できるのは、65歳で老齢年金を受け取る権利が発生した人です。

繰下げ受給をするには、65歳の誕生日の前月に日本年金機構から送られてくる「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」を、すぐには提出せず、実際に受給を開始したい時期(66歳以降75歳まで)に提出します。

繰下げ受給のメリット

繰下げ受給を検討すべきかどうか、まずは3つのメリットを確認した上で考えてみましょう。

毎回の受給額を大きく増やせる

最大のメリットは、増額された年金額が生涯にわたって続くことです。1ヶ月あたり0.7%(1年で8.4%)、受給開始を75歳まで遅らせた場合は84%も年金額が増えます。安定的な収入を多く確保できることは、老後生活の大きな安心感につながります。

長生きリスク対策になる

当然ながら、長く生きるほど生活に必要な資金は大きくなります。「人生100年時代」ともいわれる現代では、「長生きしすぎて資金が足りなくなる」という長生きリスクへの備えは重要です。

インフレリスク対策になる

将来の物価上昇(インフレ)は、現金の価値を実質的に目減りさせます。
公的年金は物価上昇率などによって給付額が1年毎に改定されますが、完全にインフレをカバーできるとは限りません。

繰下げによって年金そのものを増やしておけば、インフレによる購買力の低下を抑えることができます。

年金繰下げのデメリット

年金の繰下げ受給にはメリットの一方、デメリットがあるのも事実。受給時期の繰下げは重要な決断なので、よく理解したうえで選択しましょう。

税金や保険料が上がる

年金の受給額が増えれば、所得税や住民税などの税金や国民健康保険料、介護保険料などの社会保険料も増額します。引かれる金額も大きくなるため、思っていたほどの収入にならないことも。

年金の受給額が減る可能性がある

年金の繰り下げ受給を選択しても、受給期間によっては損をする可能性があります。
例えば、65歳から月10万円の年金を受け取れる方が75歳まで年金を繰り下げると、毎月もらえる年金額は18万4,000円(10万円×12ヵ月×1.84)に増えます。

ところが77歳で亡くなった場合、年金の受給総額は441万6,000円(18万4,000円×24ヵ月)になり、繰り下げせず65歳から77歳まで年金を受け取った場合の受給総額1,140万円(10万円×144ヵ月=1,440万円)よりも少なくなってしまうのです。

なお、繰り下げ受給中に亡くなってしまっても、遺族が受け取れる遺族年金は増額の対象とはなりません。このように繰り下げ受給により1ヵ月あたりの受給額が増えても、受給期間によっては損をする場合があるので注意しましょう。

加給年金や振替加算が受け取れなくなる

加給年金とは、厚生年金の被保険者期間が20年以上ある方が65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その方に生計を維持されている65歳未満の配偶者または18歳になった年の3月31日を迎えていない子どもがいるときに加算される年金です。

配偶者や子どもの年齢次第では、加給年金が受け取れなくなるケースもあります。被保険者の年金繰下げ期間中は加給年金は受給できません。

また、加給年金は配偶者の場合65歳、子どもの場合18歳に到達した時点で支給が終了します。配偶者や子どもの年齢と、繰下げ期間を考慮した上で判断しましょう。

年金の繰下げで得する人

65歳時点で受給できる年金額が少なかったり、年金以外で収入の見通しがあったりする場合は得する可能性が大きいでしょう。ご自身の状況と照らし合わせて検討してみてください。

繰下げ期間中の生活費をまかなえる人

繰下げ期間中は年金を受給できないため、生活費分の収入があるかが大きなポイントです。65歳以降も働く予定がある方などは、お給料で生活費をカバーできるでしょう。繰下げにより、受給開始時は増額した年金を受け取ることができます。

年金額が少ない人

年金額が年間で100万円前後など少ない場合は、繰下げで得をする可能性が大きくなります。繰下げで受給額が増額しても、非課税の範囲で収まったり、保険料の負担が少なかったりするでしょう。これは国民年金加入の自営業者やフリーランスの方も該当します。

年金の繰下げで得しない人

  • 繰下げ期間中の収入がない人
  • 年金額が多い人

繰下げの選択をするならば、期間内の生活費などをまかなえる収入があることが大前提です。十分な収入を確保できずに繰下げると、老後の資金を切り崩して生活することに。

また、そもそもの年金額が高額な人は繰下げるメリットが少ないです。年金受給額が増えても税金や社会保険料も増額し、負担が大きくなってしまいます。

まとめ

年金の繰下げ受給で後悔することは実際にあり得ます。繰下げ受給は、受給額を最大84%増やせる魅力的な制度ですが、そのメリットを享受できるかどうかは、個人の健康状態、寿命、経済状況、ライフプランによって大きく異なります。

「長生きできなかった」「思ったより早く資金が尽きた」「健康を損ねてお金を使えなかった」といった後悔をしないためには、制度の仕組みやメリット・デメリットを正しく理解し、ご自身の状況と照らし合わせて慎重に判断することが何よりも重要です。

ご自身のセカンドライフをより豊かにするために、繰下げ受給の基本を押さえた上で、最適な年金の受け取り方を見つけましょう。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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