シニア世代の失敗しない「生前贈与」vs「遺産相続」の選び方

相続税の節税や、家族への円滑な資産承継を目的として、「生前贈与」を検討するシニア世代が増えています。しかし、生前贈与と遺産相続には、それぞれメリットとデメリットがあり、どちらが自分にとって最適な方法なのか判断に迷う方もいるでしょう。

この記事では、シニア世代が失敗しないための「生前贈与」と「遺産相続」の選び方を、それぞれの特徴を比較しながら解説します。

生前贈与のイメージ画像

生前贈与とは

生前贈与とは、生存中に配偶者や子どもなどに財産を移譲することです。なお生前贈与は、被相続人の存命中に行うもので、被相続人の死後に行う相続とはさまざまな点で異なります。

生前贈与には「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。

  暦年贈与 相続時精算課税制度
非課税枠 年間110万円 累計2,500万円
対象 1月1日~12月31日の1年間におこなわれた贈与 原則60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子ども・孫への贈与
非課税限度額を超えた場合の税率 課税対象額×10~55% 課税対象額×20%
税務署への申告 年間110万円までなら不要 必要

生前贈与のメリット

生前贈与のメリットとしては、相続税の節税効果や遺産分割・財産の承継対策等が考えられます。

相続税の節税効果

生前贈与が相続税の節税効果になるのは、生前贈与をすることで、相続開始時の相続財産が少なくなるからです。

相続税は、相続開始時に被相続人が有していた財産の額が基準となります。したがって、生前に110万円の暦年贈与や相続時精算課税制度を利用し、財産を移転させておくことで、相続開始時の相続財産を減らすことができます。

贈与税は高額の税金が課税されるというイメージがあり、実際税率は高いのですが、課税される税金が高いのは、一度に財産を移転させた場合です。

例えば1100万円を一度に移転させた場合、贈与税(一般贈与の場合)は271万円となります。しかし、年間110万円ずつ10年間贈与し、その合計が1100万円の場合は、贈与税はゼロです。

このように、移転させる額や時期、受贈者を分散させることによって、贈与税は相続税よりも税負担が少なくなる場合があります。

遺産分割効果

特定の相続人に特定の財産を取得させたい場合に、生前贈与を利用することができます。

例えば、居住用不動産や同族株式・事業用財産を、特定の相続人に取得させたい場合が考えられます。相続が開始した後の遺産分割協議によって、相続人間で合意できればよいのですが、そのようにまとまる保証はありません。

そのため、生前贈与によって特定の相続人に財産を移転させる方法も考えられます。

相続人以外の第三者に財産を贈与できる

生前贈与は、誰に対しても行うことができます。例えば、内縁の妻(夫)やお世話になった方、親しい友人やNPO法人などの公益団体でも構いません。

相続の場合、相続財産は原則として法定相続人に帰属するため、法定相続人以外の第三者に財産をあげたい場合は、生前贈与を検討してもよいでしょう。なお、遺言によって遺贈することも可能ですが、遺言の方式や記載内容によっては、スムーズに手続ができない可能性もあります。

生前贈与のデメリット

手続費用がかかる場合がある

生前贈与をする財産(主に不動産)によっては、手続のための費用や税金がかかることがあります。

例えば、不動産を暦年贈与する場合、毎年110万円に相当する持分を移転することが多いですが、その際、不動産の名義変更にかかる費用(司法書士費用、登録免許税、不動産取得税等)が発生します。

なお、贈与によって(推定)相続人に不動産の名義を変更する場合の登録免許税は、相続による場合と比べて、4倍かかります。不動産取得税も相続を原因とする場合はかかりませんが、生前贈与の場合は通常通り課税されます。

また、相続時精算課税制度や居住用不動産贈与の配偶者控除、贈与税の非課税制度(住宅取得資金の贈与等)を利用する場合も、不動産の名義を変更する場合は上記費用がかかります。仮に自分で手続きをする場合であっても、登録免許税などの税金は支払う必要があります。

相続開始から3年以内の贈与は相続税の対象となる

被相続人から相続人に対し、相続開始から3年以内になされた贈与は、相続税の課税対象となります。

遺産相続とは

生前贈与は、本人が生きているうちに、相手を選んで財産を渡す方法ですが、相続では本人の死後に相続人が財産を引き継ぎます。そのため、遺言書がない場合には、本人の希望どおりに財産を分けられないことがあります。遺言書がある場合でも、相続人全員の合意によって内容が変更されるケースもあります。また、相続する財産が多いほど相続税がかかるため、最終的に相続人が受け取る金額が減ってしまうこともあります。

相続の3つのパターン

相続手続きには、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの方法があります。

被相続人が死亡した際に相続人は、被相続人の権利・義務で他人に移転しないものを除く、全ての権利・義務を受け継ぐことになっています。この義務・権利について、受け継ぐか受け継がないかを決めることができます。具体的に3つの方法を見ていきましょう。

単純承認とは

単純承認とは、全ての財産を受け継ぐことを指します。こちらは最も一般的な相続方法と言えるでしょう。多くのケースがこの単純承認にあたります。

全ての財産を受け継ぐため、債務などのマイナスの財産も含んでの相続となります。相続した財産のうち、積極財産(自身にとってプラスとなる財産)よりも消極財産(自身にとってマイナスとなる財産)が多い場合は、相続人がその債務を被相続人に代わって負担する形になり、返済していく必要があります。

限定承認とは

限定承認とは、積極財産の範囲内で債務などの消極財産を引き継ぐ方法です。

債務が積極財産を上回っている場合、多くの方は相続放棄を選択されますが、理由があり相続をしたい積極財産がある場合(自宅不動産など)や、財産の調査をしたけど、プラスになるかマイナスになるかが微妙なタイミングだった場合などに限定承認をします。

ただし被相続人の債務に関して、債務が減額されたり、過払金が戻ってきたりするケースもあるため、限定承認を選択する前に弁護士に相談するのも良いでしょう。

相続放棄とは

相続する財産には、被相続人の遺した債務や借金なども当然含まれており、相続人にとって必ずしもプラスになる財産だけがあるわけではありません。その場合に法的な手続きを通じて、全ての相続を放棄することができます。

これも限定承認と同様、被相続人の債務に関して、債務が減額されたり、過払い金が戻ってきたりすることもあるため、相続放棄を選択する前に弁護士に相談をすることをおすすめします。

生前贈与と遺産相続の比較

項目 生前贈与 遺産相続
税金 贈与税(暦年課税、相続時精算課税など) 相続税
メリット 節税対策、財産の早期移転、相続争いの回避 基礎控除額が大きい、手続きが比較的簡単
デメリット
贈与税の負担、生前贈与加算の適用
遺産分割のトラブル、不動産の分割の難しさ
適している場合 財産が少ない、早めに財産を渡したい、節税対策をしたい 財産が多い、確実に財産を渡したい、不動産が多い

まとめ

相続税の基礎控除を超える金額の財産があり、将来相続人が相続税を納めることが見込まれる場合、生前贈与を検討してもよいでしょう。一括ではなく、早い段階からコツコツと財産を贈与しておくことで、最終的にかなりの金額の節税につながる場合があります。

また、居住用の住宅取得や教育のための資金提供など、子や孫に財産を贈る際は、さまざまな非課税の特例が存在します。それらの控除の特例を最大限に活用すると、より多くの財産を後の世代に渡せるでしょう。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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