負担付死因贈与契約とは? 「介護してくれたら家をあげる」を法的に確実にする方法
「老後の面倒を見てくれたら、この家はお前に譲るよ」 「おばさん、ありがとう。最後までしっかりお世話するね」
親族や、あるいは献身的に尽くしてくれる知人との間で、このような口約束が交わされることは珍しくありません。 しかし、悲しい現実ですが、この「口約束」ほど危ういものはありません。
「遺言書を書いたから大丈夫」と思っている方も要注意です。遺言書は、書いた本人の都合でいつでも、何度でも、相手に内緒で書き直すことができるからです。
介護をする側からすれば、「必死に介護したのに、亡くなった後に遺言書が開けたら、別の兄弟に家を譲る内容に変わっていた」という梯子を外される事態が起こり得ます。
そこで今、お互いの信頼と利益を法的にガッチリ守る最強の方法として注目されているのが、「負担付死因贈与契約」です。
少し難しそうな名前ですが、仕組みはシンプルです。 この記事では、介護の努力を徒労に終わらせず、あなたの「感謝の想い」を確実に届けるための、この契約の仕組みとメリット・デメリットを解説します。
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1. 「遺言」と何が違う? 最大の特徴は「契約」であること
まず、聞き慣れない「死因贈与(しいんぞうよ)」という言葉から解説します。 これは文字通り、「私の死亡を原因として(死んだら)、財産をあげます」という贈与のことです。
「それって遺言(遺贈)と同じでは?」と思いますよね。 結果は同じ(死後に財産が渡る)ですが、法的な性質が全く異なります。
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遺言(いごん):単独行為
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あなたが「一人で」決めて書くもの。
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相手の合意は不要。
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いつでも一方的に撤回・書き直しが可能。
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死因贈与:契約行為
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あなた(あげる人)と相手(もらう人)の「合意」で成り立つもの。
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原則として、一方的に撤回できない。
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ここが最大のポイントです。 契約であるがゆえに、「やっぱりあげるのをやめた」と勝手に破棄することができないのです。これが、介護をする側(もらう側)にとっての絶大な安心感になります。
2. 「負担付」とは? ギブ・アンド・テイクの約束
この死因贈与に、条件(負担)をつけたものが「負担付死因贈与契約」です。
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あげる側の約束: 私が死んだら、不動産をあげます。
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もらう側の約束(負担): その代わり、私が生きている間、介護や身の回りの世話をしてください。
まさに「介護」と「遺産」の物々交換(ギブ・アンド・テイク)です。 「タダであげるわけではない。介護という労働の対価として渡すのだ」という法的性質が強くなるため、契約の拘束力はさらに高まります。
3. なぜこの契約が選ばれるのか? 3つのメリット
遺言書よりも手続きは少し複雑ですが、あえてこちらを選ぶには理由があります。
メリット①:簡単には「裏切れない」安心感
前述の通り、遺言書は書き換えのリスクが常につきまといます。特に認知症が進むと、疎遠だった親族にそそのかされて遺言を書き直してしまうトラブルも多いです。 負担付死因贈与契約であれば、相手が介護という義務を果たしている限り、あげる側が勝手に契約を解除することはできません。介護する側は安心して尽くすことができます。
メリット②:内容が「明確」になる
「面倒を見る」という言葉は曖昧です。 契約書を作る過程で、「週に何回通うのか」「同居するのか」「食事の世話だけか、下の世話も含むのか」といった内容を具体的に話し合うことになります。 これにより、「思ったより大変だった」「こんなはずじゃなかった」というお互いの認識ズレを防げます。
メリット③:「仮登記(かりとうき)」で家を守れる
これが最強のメリットかもしれません。 不動産を対象にする場合、契約を結んだ段階で、登記簿に「始期付所有権移転仮登記(しきつき・しょゆうけんいてん・かりとうき)」という予約を入れることができます。
簡単に言えば、不動産の登記簿に「この家は、持ち主が死んだら〇〇さんのものになる予約が入っています」とバッチリ記載されるのです。 これをしておけば、万が一あなたが認知症になって誰かに騙され、勝手に家を売られそうになっても、買い手が付かないため(予約が入っている家なんて誰も買いません)、物理的に家を守ることができます。
4. 注意! 知っておくべきデメリット(税金の違い)
「いいこと尽くめ」に見えますが、金銭的なデメリットも存在します。ここは隠さずお伝えします。
① 不動産取得税がかかる
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相続(遺言)の場合: かかりません。
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死因贈与の場合: かかります。(固定資産税評価額の3〜4%程度)
② 登録免許税(登記費用)が高い
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相続(遺言)の場合: 評価額の0.4%
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死因贈与の場合: 評価額の2.0%
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→ 5倍のコストがかかります。
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相続税に関しては基本的に同じ(贈与ですが相続税として計算される)ですが、この「不動産を移すための流通コスト」に関しては、死因贈与の方が数十万円単位で高くつく可能性があります。 「安心料」として割り切れるかどうかが判断の分かれ目です。
5. 後悔しないための「契約書」作成術
「よし、これをやろう」と思ったら、どう進めればよいのでしょうか。 口約束でも契約は成立しますが、後で揉めないためには「公正証書(こうせいしょうしょ)」で作るのが鉄則です。
ポイント①:「負担」の中身を超具体的に書く
「療養看護に努める」といった抽象的な表現はNGです。
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「週に3回以上訪問し、生活必需品の買い出しを行う」
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「通院の付き添いを行う」
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「介護施設に入居した場合は、身元保証人となり、費用の支払い代行を行う」
ここまで具体的に書いておかないと、死後、他の相続人から「あいつは大して介護をしていない! 契約不履行だ!」と訴えられるリスクがあります。
ポイント②:「執行者(しっこうしゃ)」を決めておく
あなたが亡くなった後、不動産の名義変更手続きを誰がやるのかを決めておきます。 通常は、もらう本人(受贈者)を執行者に指定しておきます。そうすれば、他の相続人のハンコをもらうことなく、単独で名義変更ができます。
ポイント③:必ず「公正証書」にする
公証役場で作る公正証書にしておけば、「言った言わない」の争いは起きませんし、本人の意思確認能力があったことの証明にもなります。
まとめ:その契約は、双方への「愛」である
「契約なんて水臭い」と思われるかもしれません。 しかし、介護はきれいごとだけでは続きません。終わりの見えない介護を続けるには、「報われる保証」という心の支えが必要です。
そして、介護を受けるあなたにとっても、「世話になって申し訳ない」と萎縮するのではなく、「家をあげる契約をしているのだから、堂々と世話になろう」と胸を張れるメリットがあります。
負担付死因贈与契約は、介護する人の未来を守り、介護される人の尊厳を守る、究極の「お守り」です。
もし、特定の方に老後を託そうと考えているなら。 「ありがとう」の言葉と一緒に、この「法的な安心」もプレゼントしてあげてはいかがでしょうか。
