認知症と間違えやすい! 老年期の「うつ病」のサインと家族の接し方
「最近、親の元気がない」 「物忘れが増えてきた気がする」
そんな時、多くのご家族は「そろそろ認知症が始まったのかな…」と心配になります。 しかし、その症状、もしかすると「老人性うつ病(高齢者のうつ)」かもしれません。
高齢者のうつ病は、記憶力の低下や反応の鈍さなど、認知症と非常によく似た症状が現れるため、専門家でも見分けが難しいことがあります。 しかし、決定的に違うのは「うつ病は、適切な治療で治る(改善する)」という点です。
「歳だから仕方がない」「認知症だろう」と諦めて放置してしまうと、ご本人は深い苦しみの中に閉じ込められ、最悪の場合、寝たきりや自殺のリスクにも繋がります。
この記事では、認知症と間違えられやすい「老人性うつ」の特徴的なサインと、見分けるポイント、そして家族がとるべき正しい接し方について解説します。
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1. なぜ間違えやすい? 老人性うつの「仮面」
高齢者のうつ病には、若い人のうつ病とは少し違う特徴があります。 若い人は「悲しい」「死にたい」「憂鬱だ」と気分の落ち込みを訴えることが多いですが、高齢者の場合、心の症状よりも「体の不調」が前面に出る傾向があります。
これを「仮面うつ病」と呼びます。心の辛さが、身体の症状という仮面を被って現れるのです。
よくある身体症状の訴え
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「頭が重い、痛い」
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「食欲がない、胃がムカムカする」
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「眠れない、朝早く目が覚めてしまう」
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「体がだるくて動けない」
ご本人は「体のどこかが悪いに違いない」と思い込み、内科や整形外科をドクターショッピング(病院巡り)してしまいます。しかし、検査をしても「異常なし」と言われ、「こんなに辛いのに分かってもらえない」とさらに落ち込んでしまう……という悪循環に陥りがちです。
2. 認知症に見える「仮性認知症」とは
さらに紛らわしいのが、うつ病によって脳のエネルギーが低下し、一時的に認知機能が落ちる現象です。これを「仮性(かせい)認知症」と呼びます。
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話しかけても反応が鈍い。
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「億劫だ」と言って着替えや入浴をしなくなる。
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今まで楽しんでいた趣味をやらなくなる。
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人の名前が出てこない。
これらは一見、認知症の初期症状(アパシー・無気力)そっくりです。しかし、これは脳が壊れたのではなく、「脳のガス欠」を起こしている状態。ガソリン(治療と休養)を補給すれば、また元通りに走れるようになります。
3. どっちのサイン? 「うつ」と「認知症」の見分け方
では、どうやって見分ければよいのでしょうか? 完全に判断するのは医師でも難しい場合がありますが、ご家庭でチェックできる「傾向の違い」があります。
① 「物忘れ」の仕方の違い
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認知症: 食べたこと自体を忘れる(体験の喪失)。
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例:「ご飯? まだ食べてないよ(さっき食べたのに)」
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うつ病: 集中力低下で覚えられない(記銘力の低下)。
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例:「何を食べたか思い出せない(食べたことは覚えている)」
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② 「自覚」の違い
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認知症: 自分の失敗を取り繕ったり、忘れたことを認めなかったりする。
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例:「(忘れたのではなく)最初から聞いていない」と怒る。
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うつ病: 自分の能力低下を嘆き、過剰に心配する。
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例:「私はもうダメだ、ボケてしまった」と深刻に悩む。
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③ 「質問」への反応の違い
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認知症: 分からないことを聞かれると、適当に話を合わせたり、取り繕ったりする。
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うつ病: 考えようとせず、すぐに「分からない」「知らない」と投げやりになる。
④ 症状の「進み方」
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認知症: 年単位でゆっくりと進行し、いつ始まったか特定しにくい。
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うつ病: 比較的急速に発症し、「〇月から急におかしくなった」と時期が特定しやすい。
4. なぜ高齢者がうつになるのか? 「喪失体験」
定年退職、配偶者や友人との死別、ペットロス、自分の健康の喪失(病気や視力低下)など、高齢期は「失うこと」の連続です。
特に真面目で責任感が強く、仕事人間だった人ほど、役割を失った時に「自分はもう社会の役には立たない」という無力感(荷おろしうつ)に襲われやすくなります。 また、引っ越しやリフォームといった「環境の変化」も大きなストレス要因となります。
5. 家族ができること、やってはいけないこと
もし「これはうつ病かもしれない」と思ったら、家族はどう接すればよいのでしょうか。良かれと思ってかけた言葉が、逆効果になることもあります。
NG対応:禁句は「頑張れ」と「気晴らし」
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「頑張れ」「しっかりして」は言わない 本人は、頑張りすぎてエネルギーが枯渇している状態です。これ以上頑張ることはできません。「私の努力が足りないのか」と追い詰めてしまいます。
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無理に連れ出さない(旅行や運動) 「気晴らしに旅行に行こう」「散歩に行こう」という誘いは、健康な時には良いですが、うつの急性期には苦痛でしかありません。決断力が落ちているため、計画を立てたり準備したりすることが大きな負担になります。
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「怠けている」と責めない ゴロゴロしているのは、怠けているのではなく、病気で「動けない」のです。風邪で高熱がある人に「起きて働け」とは言わないのと同じです。
OK対応:「共感」と「受診」
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ただ話を聞く(傾聴) アドバイスや励ましは不要です。「辛いんだね」「眠れないのは苦しいね」と、相手の辛さをそのまま受け止めてください。「味方がいる」と感じられるだけで、安心感が生まれます。
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重大な決断を先延ばしにする 「家を売る」「同居する」「遺言を書く」といった大きな決断は、判断力が低下している時にさせてはいけません。「元気になるまで待とう」と保留にさせてください。
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専門医へ繋ぐ 内科のかかりつけ医に相談するか、「もの忘れ外来」や「心療内科」を受診しましょう。本人が精神科を嫌がる場合は、「最近眠れていないようだから、睡眠の相談に行こう」「疲れが取れる薬をもらいに行こう」と誘うのがスムーズです。
まとめ:その「ボケ」は、治るかもしれません
高齢者のうつ病は、決して珍しいことではありません。そして、「薬」と「休養」と「環境調整」で回復が見込める病気です。
もしご家族が、「急に元気がなくなった」「『分からない』が口癖になった」と感じたら、認知症と決めつけず、「心のエネルギー切れかもしれない」と疑ってみてください。
早期発見と治療ができれば、その人はまた、以前のような穏やかな笑顔を取り戻すことができます。 「歳だから」と諦める前に、まずは専門家の扉を叩いてみましょう。
