要介護認定されたらどうする? 公的介護保険サービスを使い倒す手順
「要介護認定通知書」が手元に届いた時、多くのご家族は「これで一安心」という安堵感と、「実際にどうやってサービスを使えばいいの?」という戸惑いの両方を感じるものです。
認定はあくまでスタートラインに過ぎません。ここから「どのサービスを、どう組み合わせて使うか」によって、ご本人と、介護をするご家族の生活の質(QOL)は劇的に変わります。
介護保険は、長年保険料を払ってきた皆様の「権利」です。遠慮することはありません。 この記事では、認定後に慌てず、公的サービスを賢く「使い倒す」ための具体的な手順と、知っておくべきお金の制度を解説します。
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ステップ1:最強のパートナー「ケアマネジャー」を決める
要介護1〜5の認定を受けたら、最初に行うべき最重要ミッション。それは「ケアマネジャー(介護支援専門員)」探しです。
ケアマネジャーは、あなたに代わって「ケアプラン(介護計画)」を作成し、サービス事業者との調整を行ってくれる、いわば「介護の司令塔」です。
どこで探す?
役所の介護保険課や地域包括支援センターに行くと、「居宅介護支援事業者リスト」をもらえます。これがいわゆる「ケアマネジャーが所属している事業所の一覧」です。
「良いケアマネ」を見極めるコツ
リストを見ただけでは良し悪しは分かりません。以下のポイントを意識して選びましょう。
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自宅からの距離: フットワーク軽く来てもらうために、近所であることは重要です。
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得意分野: 「認知症に強い」「医療連携に強い」など、事業所ごとに特色があります。
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相性(最重要): 実際に会って話した時に、「こちらの話をじっくり聞いてくれるか」「否定せずに受け止めてくれるか」を確認してください。
ここがポイント! ケアマネジャーは途中で変更することが可能です。 「なんだか合わないな」「要望を全然聞いてくれないな」と感じたら、我慢せずに変更を検討してください。長い付き合いになる相手ですから、遠慮は禁物です。
ステップ2:「ケアプラン」作成会議で本音を話す
ケアマネジャーが決まると、自宅への訪問があり、具体的な「ケアプラン」の作成に入ります。ここで「どれだけ本音を言えるか」が、その後の生活を左右します。
伝えておくべき「3つの限界」
格好をつけて「家族でなんとかします」と言ってはいけません。以下のことを正直に伝えてください。
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身体的限界: 「腰が悪くて入浴介助は無理」「夜中のトイレ対応は辛い」
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時間的限界: 「平日の日中は仕事で誰もいない」「週末は休息したい」
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経済的限界: 「月々の介護費用は〇万円以内に抑えたい」
ケアマネジャーは、これらの条件パズルを組み合わせて、予算内で最適なプランを提案するのが仕事です。
ステップ3:サービスメニューを「使い倒す」
介護保険で利用できるサービスは多岐にわたります。代表的なものを整理しましょう。
① 「来てもらう」サービス(訪問系)
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訪問介護(ホームヘルプ): 食事・掃除・洗濯などの「生活援助」や、入浴・排泄などの「身体介護」をしてくれます。
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訪問看護: 看護師が来て、医療的な処置や健康管理をしてくれます。
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訪問入浴: 専用の浴槽を持ち込み、寝たきりの方でもお風呂に入れてくれます。
② 「通う」サービス(通所系)
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デイサービス(通所介護): 施設に通い、食事、入浴、レクリエーションなどを楽しみます。家族のレスパイト(休息)にもなります。
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デイケア(通所リハビリ): 病院や診療所などで、リハビリテーションを中心に行います。「身体機能を維持・回復したい」という場合はこちらがおすすめです。
③ 「泊まる」サービス
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ショートステイ(短期入所): 数日〜数週間、施設に宿泊します。冠婚葬祭や、介護者の休息・旅行などのために積極的に利用しましょう。
④ 「環境を整える」サービス
意外と知られていないのがこれです。
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福祉用具貸与(レンタル): 車椅子、特殊寝台(介護ベッド)、歩行器などが、定価の1割〜3割の負担で借りられます。電動ベッドが月1,000円程度で借りられることもあります。
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住宅改修費の支給: 手すりの取り付けや段差解消などのリフォーム工事に対し、20万円を上限に費用の7〜9割が支給されます。
ステップ4:お金の不安を消す「限度額」と「救済制度」
「サービスを使いすぎると破産するのでは?」と心配になるかもしれませんが、介護保険には強力なブレーキ(上限)が設定されています。
① 区分支給限度基準額(月々の上限)
要介護度ごとに、保険(1〜3割負担)で使える金額の上限が決まっています。 (例:1単位10円、1割負担の場合の目安)
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要介護1: 約16,700円/月(総枠約16.7万円分)
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要介護3: 約27,000円/月(総枠約27万円分)
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要介護5: 約36,200円/月(総枠約36.2万円分)
この枠を超えた分は「全額自己負担」になりますが、ケアマネジャーはこの枠内に収まるようにプランを調整してくれます。
② 高額介護サービス費(払いすぎ戻し)
さらに、世帯の所得に応じて「月々の自己負担の上限」も決まっています。 例えば、一般的な所得の世帯であれば、月額44,400円を超えて支払った介護サービス費は、申請すれば後から戻ってきます。
使い倒しの極意 施設に入居する場合や、複数のサービスを組み合わせる場合、この「高額介護サービス費」の制度があるおかげで、支払い負担は青天井にはなりません。これを知っていれば、安心して必要なサービスを追加できます。
ステップ5:状況が変われば「区分変更」を
一度決まった要介護度は、更新期間(半年〜数年)までは変わらないと思っていませんか? それは誤解です。
「最近、急に足腰が弱って歩けなくなった」 「認知症が進んで、目が離せなくなった」
このように状態が変化し、今の介護度(使える金額の枠)では足りないと感じたら、いつでも**「区分変更申請」**を出せます。 再調査の結果、介護度が上がれば、使えるサービスの枠も増えます。遠慮なくケアマネジャーに相談しましょう。
まとめ:介護は「チーム戦」である
「家族だけで頑張らなきゃ」と思う必要は全くありません。公的介護保険サービスを使うことは、「介護のプロをチームメイトに引き入れること」です。
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相性の良いケアマネジャーを見つける。
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「できないこと」を正直に伝え、ケアプランを作る。
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福祉用具(ベッドや手すり)で環境を即座に整える。
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デイサービスやショートステイで、介護者(あなた)の時間を確保する。
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高額介護サービス費を活用し、お金の負担をコントロールする。
この手順で進めれば、突然の介護生活でもパニックにならず、持続可能な体制を作ることができます。 介護保険料は、この時のために払ってきたのです。制度を賢く「使い倒して」、ご本人もご家族も、笑顔で過ごせる時間を少しでも長く守ってください。
