親が元気なうちに話し合いたい「実家のしまい方」。生前贈与を活用した空き家対策
「お盆やお正月に帰省すると、実家が年々古びていくのが気になる」 「親が施設に入ったら、この広い家はどうなるんだろう?」
そんな不安を抱えながらも、「親が元気なうちは、家の処分や相続の話なんて縁起でもない」と、問題を先送りにしてはいませんか?
しかし、その「遠慮」こそが、将来あなたとご家族を苦しめる「空き家問題」の入り口です。
今、日本中で「誰も住まない、売れない、貸せない」実家が放置され、近隣トラブルや資産価値の暴落を招く「負動産(ふどうさん)」化が社会問題になっています。
この悲劇を防ぐ唯一の方法は、親の判断能力がしっかりしているうちに、「実家のしまい方」を決めておくことです。
その有力な選択肢の一つが、「生前贈与」を活用した早期の対策です。 この記事では、なぜ元気なうちに対策が必要なのか、そして生前贈与を使ってどのように空き家リスクを回避するのか、その具体的な手法とメリット・デメリットを解説します。
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1. なぜ「相続(死後)」まで待ってはいけないのか?
「親が亡くなってから、兄弟で話し合って決めればいい」 そう思っていると、以下の2つの巨大なリスクに直面します。
リスク①:認知症による「資産凍結」
これが最も恐ろしいリスクです。 親が認知症になり判断能力を失うと、不動産の売却や修繕の契約ができなくなります。 たとえ親が施設に入り、実家が空き家になっても、「売るに売れない」状態(塩漬け)が何年も続くのです。その間、固定資産税や維持管理費だけが垂れ流しになります。
リスク②:共有名義による「解決不能」
相続が発生し、遺産分割協議がまとまらないと、とりあえず兄弟全員の「共有名義」にすることがあります。 これが諸悪の根源です。「兄は売りたい」「弟は貸したい」「妹はそのまま残したい」。意見が割れた瞬間、その家は何もできなくなります。時間が経てば経つほど家は傷み、資産価値はゼロに近づきます。
だからこそ、「親の意思」が明確で、「法的な手続き」ができる元気なうちに、家の行方を決める必要があるのです。
2. 切り札になる「相続時精算課税制度」とは?
「生前贈与で家を子供に移すと、莫大な贈与税がかかるのでは?」 そう心配される方が多いですが、ここで活用したいのが「相続時精算課税制度(そうぞくじ・せいさんかぜい・せいど)」です。
これは、60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫へ贈与する場合、「2,500万円まで」なら贈与税がかからない(非課税で名義変更できる)という制度です。 ※その代わり、親が亡くなった時に、その不動産の価額を相続財産に足し戻して相続税を計算します(税金の先送り)。
2024年からの「大改正」でさらに使いやすく!
実はこの制度、2024年(令和6年)1月から大幅にリニューアルされ、使い勝手が劇的に良くなりました。
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年110万円の基礎控除が新設: これまでは一度届け出ると、少額の贈与でも申告が必要でしたが、今後は年間110万円までなら申告不要・相続時の持ち戻しも不要になりました。
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万が一の災害時も安心: 贈与された家が災害で被害を受けた場合、その被害分を評価額から差し引けるようになりました。
この制度を使えば、2,500万円以内の実家であれば、贈与税ゼロで、すぐに子供に名義を移すことができます。
3. 生前贈与で「実家」を移す3つのメリット
あえてコストをかけて生前贈与することには、相続にはない明確なメリットがあります。
メリット①:子供の判断ですぐに「売却・活用」できる
名義を子供(受贈者)に移してしまえば、親がその後認知症になっても関係ありません。 子供の判断ですぐにリフォームして貸し出したり、売却して現金化したりできます。「機動力」が手に入るのです。
メリット②:親の「施設入居費用」を作れる
名義変更後、子供がその家を売却し、その代金を親の介護費用や老人ホームの入居金として使う(子供が親のために支払う)ことができます。 「実家を売って、親に快適な老後をプレゼントする」という親孝行が可能になります。
メリット③:将来の値上がり益を確保(都心部など)
相続時精算課税制度では、相続税の計算時に「贈与した時点の価格」が適用されます。 今後、再開発などで土地の値段が上がりそうな場所であれば、今の安い価格で固定してしまうことで、将来の相続税を節税できる可能性があります。
4. 冷静に比較! 生前贈与の「デメリット」とコスト
良いことばかりではありません。不動産の生前贈与には、相続に比べて「流通コスト(手数料・税金)」が高くなるという弱点があります。
注意すべきコスト差
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登録免許税(登記費用):
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相続:0.4%
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贈与:2.0%(5倍!)
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不動産取得税(県税):
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相続:非課税
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贈与:課税される(評価額の3〜4%程度 ※軽減措置あり)
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例えば、評価額2,000万円の実家を贈与する場合、贈与税は0円でも、登記費用や取得税で約50万〜80万円程度の諸費用がかかる可能性があります(相続なら数万円〜十数万円で済むケースでも)。
それでもやる価値はあるか?
この数十万円の差額をどう捉えるかです。 「高い」と感じるなら、生前贈与はやめるべきです。 しかし、「将来、認知症で家が売れなくなり、固定資産税を何年も払い続けるリスク」や「空き家になって近隣から苦情が来るストレス」を回避するための「保険料」と考えれば、決して高くはないという判断もできます。
5. 「売って現金化」してから贈与する選択肢
「家を残す」ことにこだわらず、「親が住んでいるうちに売ってしまう(住み替え)」という、究極の実家じまいもあります。
親が元気なうちに実家を売却し、バリアフリーのマンションやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に住み替えるのです。 そして、売却して得た「現金」を、生前贈与(暦年贈与など)で子供に渡していく。
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メリット: 不動産贈与の高いコストがかからない。現金なので分けやすい。
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税制優遇: マイホームを売った場合の「3,000万円特別控除」を使えば、売却益への税金も抑えられます。
「家という箱」に固執せず、「親の快適な生活」と「円滑な資産承継」を優先する、現代的で賢い選択肢です。
6. 親とどう話す? 切り出し方のヒント
最後に、最も難しい「親への切り出し方」です。 「家をどうするの?」「死んだら困るから」といった言葉は、親を不快にさせます。 主語を「親」ではなく、「家」や「私たち」にして話してみましょう。
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【NGワード】 「ボケたら困るから、名義を変えておいて」
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【OKワード】 「この家も古くなってきたから、管理が大変だよね。お父さんたちが安心して暮らせるように、一度、家のこれからについて専門家に聞いてみない?」
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【OKワード】 「最近、空き家問題のニュースを見て怖くなっちゃって。うちは資産価値がある家だからこそ、しっかり守る方法を相談したいな」
まとめ:実家じまいは「親の人生の集大成」
実家をどうするか決めることは、単なる不動産処分ではありません。 親御さんが人生をかけて築いた「城」を、最も美しい形で次世代に引き継ぐ、あるいは幕を引くための「最後のプロジェクト」です。
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家を残したいなら: 相続時精算課税制度で早期に移転し、管理体制を整える。
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家がいらないなら: 元気なうちに売却し、現金化して老後資金に充てる。
最悪なのは「何も決めずに放置すること」です。 次回の帰省のタイミングで、昔のアルバムを開きながら、「この家、将来どうしようか?」と優しく問いかけてみてください。 その一言が、未来の「負動産」トラブルを防ぐ第一歩になります。
