住み慣れた家で最期まで! バリアフリー化で活用できる「介護保険」

「住み慣れた我が家で、最期まで自分らしく暮らしたい」 そう願うシニア世代にとって、最大の壁となるのが「家の中の段差」や「滑りやすい床」などの住宅環境です。

実は、高齢者の事故の多くは「交通事故」ではなく、「自宅での転倒」によって起きています。たった一度の転倒骨折が原因で、寝たきりや要介護状態になってしまうケースは後を絶ちません。

「リフォームしたいけど、お金がかかるから…」と我慢していませんか? 介護保険制度には、そんな方のために「住宅改修費(じゅうたくかいしゅうひ)」の支給制度があります。これを使えば、少ない自己負担で家を安全な要塞に変えることができます。

この記事では、介護保険を使ってお得にバリアフリー化するための条件、対象工事、そして絶対に失敗しないための申請手順をわかりやすく解説します。

1. 最大20万円! 介護保険の「住宅改修費」とは?

介護保険制度の中に、「要支援」または「要介護」の認定を受けた人が、自宅で安全に暮らすためのリフォームを行う際、その費用の一部を支給してくれる制度があります。

制度の概要

  • 対象者: 要支援1〜2、または要介護1〜5の認定を受けている人。

  • 支給限度額: 1人あたり(1つの住所につき)20万円まで。

  • 自己負担: 所得に応じて1割〜3割

計算例:20万円の工事をした場合(1割負担の人)

通常のリフォームなら20万円全額が自腹ですが、この制度を使えば、

自己負担額 = 20万円×10% = 2万円

たった2万円の支払いで、20万円分の工事ができてしまいます(残りの18万円は保険から支払われます)。 ※20万円を超える工事も可能ですが、超えた分は全額自己負担となります。

2. 何ができる? 対象となる「6つの工事」

「壁紙をきれいにしたい」「キッチンを新しくしたい」といったリフォームは対象外です。あくまで「自立支援・介護負担の軽減」に直結する以下の6種類に限られます。

① 手すりの取り付け

玄関、廊下、トイレ、浴室などに手すりをつける工事です。 転倒防止に最も効果的で、最も利用件数が多い工事です。

② 段差の解消

部屋の入り口の敷居を低くしたり、玄関にスロープを設置したりして、つまずきを防止します。

③ 滑りの防止・移動の円滑化(床材の変更)

畳をフローリングに変えたり、滑りやすい浴室の床を滑りにくい素材に変更したりします。車椅子を使いやすくするためにも有効です。

④ 引き戸等への扉の取り替え

開き戸(ドアノブを回して開けるタイプ)は、開閉時に体が不安定になりがちです。これを軽い力で開けられる「引き戸」や「アコーディオンカーテン」に変更します。

③ 洋式便器等への便器の取り替え

足腰への負担が大きい「和式トイレ」を、座って使える「洋式トイレ」に変更します。

⑥ その他、付帯して必要となる工事

上記の手すりをつけるための「壁の補強」や、トイレを交換するための「給排水工事」なども対象に含まれます。


3. ここが落とし穴! 「事前申請」絶対のルール

介護保険のリフォームで最も多いトラブルが、「工事をした後にお金がもらえると思っていたら、もらえなかった」というケースです。

この制度の大原則は、「着工前の事前申請」です。

正しい手順(フローチャート)

  1. ケアマネジャーに相談: 「お風呂が滑って怖い」など、困りごとを伝えます。

  2. 施工業者の選定・見積もり: ケアマネジャーと一緒に業者を選び、見積もりを取ります。

  3. 【重要】事前申請: 市区町村へ申請書類(理由書、図面、見積書など)を提出します。※許可が下りるまで着工してはいけません。

  4. 工事・支払い: 許可後に工事を行い、一旦代金を全額支払います(償還払いの場合)。

  5. 事後申請(支給請求): 領収書などを提出し、保険給付分(9割など)が口座に振り込まれます。

ポイント:お金がなくても大丈夫? 本来は「一旦全額払い」ですが、手持ち資金が少ない方のために「受領委任払い(じゅりょういにんばらい)」という制度を用意している自治体もあります。これを使えば、最初から自己負担分(1割など)だけを業者に払えばOKになります。


4. 20万円を使い切ったら終わり? 「リセット」の特例

「数年前に手すりをつけて20万円の枠を使い切ってしまった。でも今度はトイレを直したい…」 そんな時でも、あきらめるのは早いです。実は、この20万円の枠は条件次第で「リセット(復活)」します。

ケースA:介護度が「3段階」上がった時

状態が大きく変化し、より手厚い改修が必要になったとみなされる場合です。 (例:要支援1 → 要介護3、要介護1 → 要介護4 など)

ケースB:引っ越しをした時

転居(転出)した場合、新しい家で改めて20万円の枠が使えます。


5. さらに賢く! 自治体の「上乗せ補助金」

20万円という枠は、トイレの交換や浴室の大掛かりな工事には少々足りない場合があります。 そこでチェックしたいのが、お住まいの自治体独自の「上乗せ補助金(横出しサービス)」です。

  • 例:高齢者住宅改修費助成事業 介護保険の20万円とは別に、独自に「最大30万円」などの枠を設けている自治体があります。

これらは介護保険とは別の制度なので、併用することが可能です。ケアマネジャーや役所の高齢福祉課で「介護保険以外に使える住宅改修の助成金はありませんか?」と必ず聞いてみましょう。


6. まとめ:転んでからでは遅い!

「まだ歩けるから大丈夫」「手すりなんて年寄りくさい」とリフォームを先延ばしにする方がいますが、それは大きなリスクです。 骨折して入院し、足腰が弱ってから家に帰ってきても、その時にはもう「自宅での生活」自体が難しくなっているかもしれません。

「元気なうちに、転ばない環境を作る」 これこそが、住み慣れた家で最期まで暮らすための最大の秘訣です。

介護保険を使えば、金銭的な負担は最小限に抑えられます。まずは「家のどこが危険か」をプロの目で見てもらうことから始めましょう。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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