「非課税期間」をどう活かす? 高齢者向け 新NISA枠の「賢い取り崩し順序」

「新NISAを始めたのはいいけれど、いつ、どれから使えばいいのだろう?」 「老後資金が必要になった時、適当に解約してしまって損はしないだろうか?」

新NISAのスタートにより、シニア世代の投資熱が高まっています。しかし、多くの人が「いかに増やすか(入り口)」に注目する一方で、「いかに賢く使うか(出口)」については、驚くほど議論されていません。

実は、資産を取り崩す際、「どの口座から、どの順番で売るか」によって、最終的に手元に残るお金の寿命は数年も変わってくる可能性があります。

新NISAの最大の武器である「無期限の非課税期間」をフル活用し、資産を長生きさせるための「賢い取り崩し順序」を解説します。

資産運用のイメージ

1. 新NISA時代の新常識:「NISAは最後まで取っておく」

旧NISA制度では、非課税期間に期限(5年や20年)があったため、「期限が来る前に売る」あるいは「期限が来たら売る」という戦略が一般的でした。

しかし、新NISAは「非課税期間が無期限(一生涯)」です。 これが意味することはただ一つ。「非課税の口座(新NISA)は、できるだけ長く維持した方が得」ということです。

なぜなら、非課税口座にあるお金は、そこで生まれた利益を1円も税金(約20%)で引かれることなく、丸ごと再投資や受け取りに回せるからです。この「複利×非課税」のエンジンは、時間が経てば経つほど強力に働きます。

したがって、生活費が必要になった時に、真っ先に新NISAの投資信託を解約するのは、「黄金の卵を産むガチョウ」を食べてしまうようなもので、最も避けたい悪手なのです。

2. 資産寿命を延ばす「最強の取り崩し順序」

では、具体的にどのような優先順位でお金を使っていけばよいのでしょうか。 基本戦略は、「税金がかかるもの、利回りが低いものから先に使う」です。

優先順位①:現金・預貯金(生活防衛資金を除く)

まずは、手元の現金や普通預金から使います。 現在の金利では、銀行に置いておいてもお金はほとんど増えません。インフレ(物価上昇)を考慮すると、実質的な価値は目減りしています。「増えないお金」から消費に回すのが鉄則です。 ※ただし、急な入院などに備える「生活防衛資金(生活費の3〜5年分)」は確保しておきましょう。

優先順位②:課税口座(特定口座)の資産

次に売却すべきは、課税口座(特定口座)にある投資信託や株式です。 ここで利益が出ていれば、売却時に約20%の税金が引かれます。「税金を取られるのは嫌だ」と感じるかもしれませんが、ここで税金を払ってでも、新NISA枠(非課税枠)を温存する方が、長期的には有利になります。 課税される資産を先に使い切り、非課税で運用される資産を最後まで残すことで、資産全体の運用効率が最大化するからです。

優先順位③:旧NISA(つみたてNISA・一般NISA)

ここが悩みどころですが、すでに保有している「旧NISA」の資産がある場合、新NISAよりも先に売却候補になります。 旧NISAには「非課税期間の終了(期限)」があるからです。期限が来て課税口座に移されるくらいなら、その前に売却して生活費に充てるか、あるいは売却した資金で「新NISA」を買い直す(空き枠がある場合)のが賢明です。

優先順位④:新NISA(成長投資枠・つみたて投資枠)

ここが「最後の砦」です。 新NISAの資産は、可能な限り手を付けず、最後まで運用を続けましょう。 80代、90代になり、他の資産が底をついてから、ようやくこの「虎の子」を取り崩し始めます。その頃には、長期間の非課税運用によって、資産が大きく育っている可能性が高いはずです。

3. 「定率取り崩し」でさらに寿命を延ばす

取り崩す順序が決まったら、次は「取り崩し方」です。 ここでも、資産寿命を延ばすためのテクニックがあります。それは「定額」ではなく「定率」で受け取ることです。

  • 定額取り崩し(例:毎月5万円): 株価が暴落している時も「5万円分」を売るため、多くの口数を売却することになり、資産の減少が加速します。

  • 定率取り崩し(例:毎月、残高の0.3%): 株価が下がっている時は、受け取る金額が減りますが、売却する口数を抑えられます。株価が回復した時に、資産が戻りやすくなります。

多くのネット証券には、投資信託の「自動定期売却サービス(定率)」があります。これを活用し、新NISAや特定口座の資産を、感情を挟まずに淡々と取り崩す仕組みを作りましょう。

4. 相続を見据えた「究極の出口戦略」

高齢者にとって、資産運用は「自分のため」だけでなく「次世代のため」でもあります。 実は、新NISAを最後まで残すことは、「相続対策」としても非常に優秀です。

死亡時の「非課税メリット」

NISA口座自体は相続できません(死亡と同時に、相続人の課税口座に移されます)。 しかし、「亡くなった日の時価」が、相続人の新たな取得価格(元本)になります。

例:

  1. あなたが新NISAで100万円投資し、死亡時に200万円に増えていた。

  2. この「含み益100万円」には税金がかかりません。

  3. 相続人は「200万円で買った」という扱いで引き継ぎます。

  4. 相続人がすぐに200万円で売れば、譲渡益税はゼロです。

もしこれが課税口座(特定口座)なら、含み益に対して将来的に税金がかかりますが、NISAならその税金をチャラにして次世代に渡せるのです。 つまり、「新NISAは、死ぬまで解約しない」ことこそが、家族に最も多くの資産を残す方法になり得るのです。

結論:使うのは「悪いお金」から

「新NISAの賢い取り崩し順序」をまとめると、以下のようになります。

  1. 現金・預金(増えないお金)

  2. 特定口座(税金がかかるお金)

  3. 旧NISA(期限があるお金)

  4. 新NISA(一生、税金がかからないお金)

悪い条件のお金から先に使い、良い条件(非課税)のお金を最後まで残す。 このシンプルなルールを守るだけで、あなたの老後資金の寿命は確実に延びます。

「お金を使うこと」への罪悪感を捨て、賢い順序で資産を使いながら、豊かなセカンドライフを楽しんでください。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

関連記事

前の記事へ

【初心者向け】60歳からでも遅くない!少額から始める投資信託の選び方

次の記事へ

大都会を卒業!60歳からの人生を変える「コスパ最強・健康寿命が延びる移住先」