お金の不安を解消!「毎月いくら取り崩すべきか」を判断するシミュレーション術

「老後のために2000万円貯めた。でも、怖くて使えない」

これは、多くのシニア世代が直面するパラドックス(逆説)です。 現役時代は「貯めること」が正義でした。しかし、リタイア後は「使うこと」が生活の一部になります。実は、資産形成において「貯める(足し算)」よりも「取り崩す(引き算)」ほうが、精神的にも技術的にも遥かに難しいと言われています。

「毎月いくら使ったら、死ぬまでにお金が尽きないのか?」 「長生きしすぎて、途中で破産したらどうしよう」

この漠然とした不安を解消する唯一の方法は、具体的なシミュレーションを行い、自分だけの「安全な引き出し額」を知ることです。 今回は、資産寿命を延ばしながら、人生を豊かにするための「取り崩し額の決め方」を徹底解説します。

資産運用のイメージ

1. 資産を枯渇させる「定額引き出し」の罠

シミュレーションに入る前に、絶対に知っておくべき「2つの取り崩し方法」の違いについて説明します。ここを間違えると、シミュレーションの意味がなくなります。

  1. 定額引き出し: 「毎月10万円ずつ」引き出す方法

  2. 定率引き出し: 「毎年、資産残高の4%ずつ」引き出す方法

多くの人が無意識に選んでしまうのが、前者の「定額引き出し」です。年金の不足分を補うために「毎月決まった額が欲しい」と思うのは自然なことですが、これには致命的なリスクがあります。

暴落時の「資産破壊」

例えば、資産が暴落して価値が下がっている時に「毎月10万円」を引き出すとどうなるでしょうか。 株価が半値になっていれば、通常の2倍の口数(量)の投資信託を売却しなければなりません。これにより資産の減少スピードが加速し、相場が回復する前に資産が底をついてしまうのです(これを「収益率配列のリスク」と呼びます)。

資産を長生きさせたいなら、「定率引き出し」が正解です。 これを前提に、シミュレーションを行っていきましょう。

2. 実践! あなたの「安全引き出し額」算出 3ステップ

では、具体的に「毎月いくらなら使っても大丈夫か」を計算していきましょう。電卓をご用意ください。

ステップ①:「老後収支のギャップ」を把握する

まず、最低限必要な生活費の不足分を計算します。

  • A:予想される毎月の生活費(例:25万円)

  • B:手取りの公的年金額(例:18万円)

  • ギャップ(A-B): 7万円

この「月7万円(年間84万円)」は、絶対に確保しなければならない金額です。これを全額、投資の取り崩しで賄うのはリスクが高いため、まずは「現預金」で対応できるか考えます。

ステップ②:資産を「3つのバケツ」に分ける

保有資産をすべて投資に回してはいけません。以下の3つに分けます。

  1. 短期バケツ(現金): 向こう3〜5年分の生活費不足分 + 医療・介護予備費

    • 例:不足月7万 × 12ヶ月 × 5年 + 予備費300万 = 約720万円

  2. 中期バケツ(安定運用): 債券やバランス型ファンド

  3. 長期バケツ(積極運用): 全世界株式などの投資信託

この「短期バケツ(現金)」を確保した上で、残った「中期・長期バケツ」の合計額(=運用資産額)をもとに、取り崩し額を決めます。

ステップ③:「4%ルール」で毎月の受取額を決める

米国のトリニティ大学の研究で導き出された「4%ルール」という有名な出口戦略があります。 「資産の4%ずつを定率で取り崩せば、30年後も資産が残っている確率が90%以上ある」というものです。

例えば、運用資産(中期+長期バケツ)が1500万円あるとします。

  • 計算式: 1500万円 × 4% = 年間60万円

  • 月額換算: 60万円 ÷ 12 = 月5万円

これが、理論上「ほぼ永遠に枯渇しない」安全な取り崩し額です。 ステップ①で計算した不足額「7万円」に対し、投資からの取り崩しは「5万円」。残りの2万円は、短期バケツの現金を取り崩して補填します。

3. シミュレーション比較:これだけ寿命が違う

「たかが取り崩し方の違いでしょ?」と思わないでください。数字で見ると、その差は歴然です。

【条件】

  • 運用資産:2000万円

  • 運用利回り:年率3%(保守的な想定)

  • 取り崩し開始:65歳

パターンA:【定額】毎月10万円(年間120万円)引き出す

  • 結果: 85歳で資産がゼロになります。

  • 解説: 人生100年時代において、85歳での資金枯渇は恐怖でしかありません。もし運用に失敗(0%)していれば、81歳で尽きます。

パターンB:【定率】毎年4%(初年度月6.6万円)引き出す

  • 結果: 100歳時点でも約1100万円残っています。

  • 解説: 受取額は変動しますが、資産自体は減りません(計算上は微増します)。これにより、「長生きリスク」への恐怖は完全に消滅します。

パターンC:【定率】毎年5%(初年度月8.3万円)引き出す

  • 結果: 100歳時点で約600万円残ります。

  • 解説: 日本のシニア層であれば、少しリスクを取って引き出し率を上げても十分持ちこたえられます。

4. 「変動する受取額」にどう対応するか?

定率引き出しの唯一のデメリットは、「受け取れる金額が毎年変わる(株価が下がると減る)」ことです。 「今月は受取額が減ったから生活できない!」とならないためのテクニックが、「現金クッション」の活用です。

現金クッション調整法

ステップ②で確保した「短期バケツ(現金)」が調整弁の役割を果たします。

  • 株価が好調な年: 定率取り崩しの受取額が増えます。余った分は使わずに、現金バケツに補充します。

  • 株価が不調な年: 定率取り崩しの受取額が減ります。不足分を、現金バケツから取り出して補います。

こうすることで、日々の生活水準を一定に保ちながら、裏側では「資産寿命を延ばす運用」を続けることができます。

5. 自動化せよ! 感情を挟まない仕組みづくり

ここまで計算してきましたが、実際に暴落時に「今月は資産が減ったから売るのをやめようか…」などと考えて実行するのは、精神的に非常に負荷がかかります。 最良の方法は、証券会社の「自動売却サービス」を使うことです。

  • 楽天証券・SBI証券など: 「投資信託定期売却サービス」があります。

  • 設定方法: 「毎月〇日に、保有残高の〇%(例:0.3% ※年率3.6%相当)を売却して、銀行口座に入金する」と設定するだけ。

一度設定すれば、あとは自動的に「自分年金」が振り込まれます。相場をチェックする必要も、売却の注文を出す手間もありません。この「自動化」こそが、不安を消す最強のツールです。

結論:お金は「あの世」には持っていけない

シミュレーションをして、「月5万円なら使っても大丈夫だ」と分かれば、その5万円は「罪悪感なく使えるお金」に変わります。

  • 美味しいランチを食べる

  • お孫さんにお小遣いをあげる

  • タクシーを使って楽に移動する

これらは浪費ではありません。あなたの人生を豊かにするための、計画的な消費です。

多くの日本人が、亡くなる瞬間に一番お金持ちだと言われます。しかし、使いきれなかったお金は、あなたの思い出にはなりません。 「定率取り崩し」という羅針盤を手に入れ、資産の寿命と自分の寿命を上手にリンクさせる。それこそが、お金の不安から解放された、真の自由な老後と言えるのではないでしょうか。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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