知らないと損! 60歳以降の「在職老齢年金」賢い受給シミュレーション
「60歳を過ぎてもバリバリ働きたいけれど、働くと年金が減らされるって本当?」 「給料をもらいながら、年金も満額もらう方法はないの?」
人生100年時代、60歳はまだまだ現役です。しかし、働く意欲のあるシニアの前に立ちはだかるのが、「在職老齢年金制度」という壁です。
この制度を正しく理解していないと、「一生懸命働いたのに、手取りが思ったより増えていない(むしろ働き損?)」という事態になりかねません。しかし逆に言えば、仕組みさえ知っていれば、「給与」と「年金」のダブルインカムを最大化する賢い働き方が見えてきます。
今回は、60歳以降のお金を守るための「在職老齢年金」の仕組みと、損をしないためのシミュレーション術を徹底解説します。
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1. そもそも「在職老齢年金」とは?
在職老齢年金とは、簡単に言えば厚生年金に加入して働きながら年金を受け取る場合、給料と年金の合計額が一定の基準を超えると、年金の一部または全額が支給停止(カット)される」という仕組みです。
ここで重要なキーワードが「50万円の壁」です(2024年度・2025年度現在)。
運命の分かれ道「50万円」
かつては60代前半の方には厳しい基準(28万円など)がありましたが、2022年の改正により緩和され、現在は60代前半・後半ともに「月収と年金の合計が50万円」までは、年金は1円もカットされません。
しかし、この「50万円」を超えた瞬間から、調整(カット)が始まります。
【計算の基礎となる2つの数字】
総報酬月額相当額: 毎月の給与 + (直近1年間のボーナス ÷ 12)
基本月額: 加給年金を除いた、本来受け取るはずの厚生年金の月額
この2つを足して50万円を超えるかどうかが、すべての判断基準になります。
2. 働き損にならない? 3つのケース別シミュレーション
では、具体的にどのくらい稼ぐと、どのくらい引かれるのでしょうか。よくある3つのパターンでシミュレーションしてみましょう。 ※計算式:(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 50万円)÷ 2 = 支給停止額(月額)
ケースA:【セーフ】悠々自適のダブルインカム
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給与(ボーナス込): 月30万円
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年金: 月10万円
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合計: 40万円
判定: 40万円 < 50万円 結果: 支給停止なし(全額受給) 合計40万円がそのまま手に入ります。これが最もストレスのない理想的な形と言えます。
ケースB:【一部カット】バリバリ働く現役続行派
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給与(ボーナス込): 月40万円
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年金: 月14万円
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合計: 54万円
判定: 54万円 > 50万円(4万円オーバー) 計算: (54万円 - 50万円)÷ 2 = 2万円 結果: 月2万円だけ年金がカットされます。 しかし、年金は12万円受け取れるため、総収入は「給与40万+年金12万=52万円」となります。 「2万円損した」とも言えますが、働いた分だけ総収入は確実に増えています。「働き損」ではありません。
ケースC:【要注意】高年収シニアの罠
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給与(ボーナス込): 月60万円
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年金: 月10万円
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合計: 70万円
判定: 70万円 > 50万円(20万円オーバー) 計算: (70万円 - 50万円)÷ 2 = 10万円 結果: 年金10万円が「全額」支給停止となります。 この場合、いくら年金を納めてきても、受け取れるのは0円。給与の60万円のみが収入となります。 さらに注意すべきは、「支給停止になった年金は、後から戻ってこない」ということです。繰り下げ受給のように「待てば増える」わけではなく、単に「消滅」します。
3. 年金カットを回避する「賢い働き方」3選
「せっかく払った年金、1円も無駄にしたくない!」 そう考える方のために、合法的に年金カットを回避、あるいは影響を最小限にするテクニックを紹介します。
戦略①:厚生年金に入らない働き方をする(パート・アルバイト)
在職老齢年金の対象になるのは、「厚生年金に加入している人」だけです。 勤務日数や時間を調整し、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入条件(週20時間以上など)を満たさない範囲で働けば、いくら稼いでも年金は全額受け取れます。
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メリット: 年金が満額もらえる。保険料が引かれない。
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デメリット: 国民健康保険などに自分で入る必要がある。将来の年金が増えない。
戦略②:「個人事業主(フリーランス)」になる【最強の裏技】
会社と雇用契約を結ぶのではなく、「業務委託契約」を結んで個人事業主として働く方法です。 個人事業主は厚生年金に加入できないため、在職老齢年金の制度自体が適用されません。
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例: 会社の顧問や技術指導として、月50万円の報酬で契約。
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結果: 給与(報酬)50万円 + 年金15万円 = 合計65万円(満額受給!)
専門スキルを持つシニアにとって、これは最強の選択肢です。ただし、確定申告の手間や、経費の管理など、事業主としての責任は発生します。
戦略③:給与設定を「寸止め」にする
会社と交渉ができる立場(役員や再雇用時の契約更新など)であれば、給与額を調整するのも手です。 「給与+年金」がギリギリ50万円に収まるように給与を下げてもらい、その分、業務量を減らしたり、経費精算できる手当にしてもらったりする交渉です。 無理に働いて年金を減らすより、ワークライフバランスを重視して総取りする戦略です。
4. よくある誤解!「繰り下げ」ればいいんじゃないの?
「年金がカットされるなら、受給開始を70歳まで遅らせて(繰り下げ受給)、増額させればいいのでは?」
これは半分正解で、半分間違いです。 非常に重要な落とし穴があります。
「在職老齢年金制度でカットされるはずだった金額は、繰り下げても増額対象にならない」
例えば、65歳から働いていて、計算上「毎月5万円カット」の状況だったとします。この状態で年金を受け取らずに70歳まで繰り下げたとしましょう。 70歳になった時、増額(最大42%アップ)の計算ベースになるのは、「カット後の金額」ではなく「本来の金額」ですが、待機期間中にカットされるはずだった部分は増額の計算に含まれない(または調整される)という複雑なルールがあります。
つまり、「今は働いて稼ぐから年金はいらない」と繰り下げを選んでも、「潜在的にカットされていた部分」については、増えることもなく、ただ消えてしまうのです。 高収入で働く場合は、繰り下げのメリットが薄れる可能性があることを覚えておきましょう。
結論:数字を知れば、働き方はもっと自由になる
「年金が減るから働かない」というのは、多くの場合、経済的にはマイナスです。 シミュレーション(ケースB)で見た通り、一部カットされたとしても、働いた分の給与が上乗せされれば、総収入は増えます。
大切なのは、「知らないうちに全額カットされていた」という悲劇を防ぐことです。
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まずは「ねんきん定期便」で自分の「基本月額」を確認する。
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今の(またはこれからの)「総報酬月額」を計算する。
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足して「50万円」を超えるかチェックする。
超えるようであれば、働き方を微調整するか、思い切って個人事業主への転身を検討する余地があります。 60代は、お金のためだけに働く時期ではありません。制度を賢く利用して、損をしない範囲で、社会とのつながりや生きがいを追求してください。
