資産運用で高齢者が陥りがちな「詐欺・トラブル」事例集と対策

退職金や遺産相続などでまとまった資金を持ち、かつ将来の介護費用やインフレへの不安を抱える高齢者は、残念ながら悪質な業者や詐欺グループにとっての「格好のターゲット」です。

「自分はしっかりしているから大丈夫」 「まさか自分が騙されるはずがない」

被害に遭った方のほとんどが、直前までそう思っています。しかし、最近の手口は非常に巧妙化しており、認知機能が正常な方でも、言葉巧みな心理操作によって虎の子の資産を奪われてしまうケースが後を絶ちません。

この記事では、資産を守るために絶対に知っておくべき「高齢者が陥りやすい詐欺・トラブルの最新事例」と、鉄壁の対策について解説します。

1. なぜ高齢者が狙われるのか? 3つの心理的死角

手口を見る前に、なぜ高齢者がターゲットにされやすいのか、その背景にある心理的な隙を知っておきましょう。

  1. 「お金を増やさなきゃ」という焦り 物価高や年金への不安から、「少しでも高い利回りで運用して、資産寿命を延ばしたい」という切実な願いを持っています。詐欺師はこの「真面目な不安」につけ込みます。

  2. 社会的な孤立と寂しさ 日中一人で家にいることが多く、話し相手を求めている場合、親切に接してくる営業担当者や、SNSで知り合った相手を無意識に信用してしまいがちです。

  3. 「自分は特別」という過信 過去に社会的地位があった方や、投資経験がある方ほど、「自分だけに特別な情報が来た」という選民意識をくすぐられると弱いです。

2. 要注意! 資産を失う「3大詐欺・トラブル」事例

ここでは、近年特に被害が多い3つのパターンを、具体的なストーリーで紹介します。

事例①:「元本保証で高配当」ポンジ・スキームの罠

【手口】 知人の紹介やセミナーで、「ある国でリゾート開発をしている」「AIを使った特別な運用システムがある」といった投資話を持ちかけられます。 「元本は保証されます」「月利3%(年利36%)の配当が毎月振り込まれます」という夢のような条件です。

【結末】 最初の数ヶ月は、本当に配当金が振り込まれます。しかし、これは運用益ではなく、「他の出資者から集めたお金を配っているだけ(タコ足配当)」です。 信用して追加でお金を振り込んだとたん、連絡が途絶え、業者もドロン。元本は一切戻ってきません。

ここがポイント! 投資の世界に「元本保証」かつ「高利回り」の商品は絶対に存在しません。 「元本保証」という言葉が出た時点で、100%詐欺と断定してください。

事例②:SNS・マッチングアプリ発「ロマンス詐欺・投資詐欺」

【手口】 FacebookやInstagram、LINEなどで、「海外の軍医」「女性実業家」「著名な経済アナリスト」などを名乗る人物からメッセージが届きます。 やり取りを通じて恋愛感情や信頼関係(ロマンス)を抱かせた後、「二人の将来のために投資をしよう」「私が教えるサイトなら確実に儲かる」と誘導します。

【結末】 指示された偽の投資サイトでは、画面上で利益が出ているように見えます。しかし、いざお金を引き出そうとすると「出金には税金がかかる」「手数料が必要」と追加送金を要求され、最終的には全額を失います。

事例③:銀行・証券会社での「適合性原則」トラブル

【手口】 これは詐欺(犯罪)ではありませんが、合法的な金融機関との間で多発しているトラブルです。 定期預金の相談に行ったはずが、「今は金利が低いので、こちらの方が有利ですよ」と、リスクの高い「仕組み債」や「外貨建て保険」、「複雑な投資信託」を勧められます。

【結末】 「銀行員さんが勧めるなら安心」と中身を理解せずに契約。その後、円高や株安が進み、資産が大きく目減りして初めて「元本割れするなんて聞いていない!」とトラブルになります。 これは金融機関側が、顧客の知識やリスク許容度に見合わない商品を売る「適合性原則違反」の可能性があります。

3. 「劇場型勧誘」にも警戒を

投資商品だけでなく、「権利」を売買する詐欺も横行しています。

  • 役柄A(パンフレット送付役): 老人ホームの入居権や、未公開株のパンフレットが届く。

  • 役柄B(勧誘役): 別の業者から電話があり、「その権利は選ばれた人しか買えない。高く買い取るので、代わりに申し込んでほしい(名義貸しをしてほしい)」と持ちかける。

その後、「名義貸しは犯罪になる。解決するために金を払え」と脅されたり、立て替えた購入代金を持ち逃げされたりします。複数の業者が登場し、演劇のように騙すため「劇場型」と呼ばれます。

4. 資産を守る「鉄壁の対策」5ヶ条

どうすれば、これらの魔の手から資産を守れるのでしょうか。以下の5つを習慣にしてください。

① 「向こうから来る話」はすべて無視する

銀行、証券会社、電話勧誘、SNSのDM……。相手から「儲かりますよ」と近づいてくる話に、あなたを儲けさせる意図はありません。本当に儲かる話なら、他人に教えず自分でやります。 資産運用は、自分から調べて、自分から金融機関にアクセスして行うものです。

② 利回りの「相場観」を持つ

世界の経済成長率は数%です。世界一安全と言われる米国債でさえ、年利4〜5%程度(時期による)です。 「年利10%以上」「月利〇%」という数字が出たら、それは投機(ギャンブル)か詐欺です。相場を知っていれば、異常な数字に気づけます。

③ 「持ち帰って家族に相談する」を鉄則に

窓口や電話で勧誘されたら、「即決しません。息子(娘)に相談してから決めます」と必ず答えてください。 詐欺師や悪質な営業マンは、親族への相談を極端に嫌がります。「今だけ」「あなただけ」と急かしてくる相手こそ、相談が必要です。

④ 家の電話は「留守電」か「防犯機能付き」に

高齢者を狙う詐欺の入り口の多くは「固定電話」です。 常に留守番電話設定にしておき、知っている相手からのみ折り返す。または、会話を自動録音する防犯電話機を導入することで、アポ電強盗などのリスクも減らせます。

⑤ ネットバンキングや口座の管理を見直す

認知機能の低下に備え、使っていない口座やクレジットカードは解約してスリム化しましょう。また、必要であれば家族信託や成年後見制度の利用を検討し、大きなお金を一人で動かせない仕組みを作ることも有効です。

まとめ:資産を守れるのは「知識」と「相談」

資産運用において、「楽して、確実に、大きく儲かる」方法は、この世に絶対に存在しません。

高齢者の資産運用は、「増やす」ことよりも「守る」ことが最優先です。 「インフレに負けない程度に、全世界株式や国債でコツコツ運用する(新NISAなど)」という王道の投資以外、特に**「人から勧められた投資話」には耳を貸さない**という強い意志を持ってください。

もし、「少し怪しいかな?」「仕組みがよく分からないけど契約してしまった」という心当たりがあれば、すぐに消費生活センター(局番なしの188)や警察相談専用電話(#9110)に相談してください。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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