相続業務における行政書士と司法書士の違いとは
家族が亡くなったら「相続」が発生するため、名義変更などの相続手続きが必要になります。
相続手続きは、自分ですることもできますが、手続きに手間がかかる上、不動産などの相続の場合、専門的な知識も必要になってきます。そのような場合、相続を依頼できる専門家としては、行政書士と司法書士が知られています。
司法書士と行政書士について業務内容などどこが違うのか理解されている方は少ないかと思います。司法書士は裁判所や法務局に提出する書類を作成する業務を主に担い、行政書士は役所や官公署に提出する書類を作成する業務を主に担いますが、相続手続きにおいても具体的な役割もそれぞれ違います。
今回は相続業務においての司法書士の行政書士の役割の違いを解説します。
司法書士の業務内容
司法書士は「法務局での登記手続きの専門家」です。登記とは、法律で定められた情報を法務局の登記簿に記載して、権利を広く一般に公開する制度です。土地や建物などの所有者が変更になった場合や抵当権の抹消など、登記手続きについては司法書士のみが業務を行うことができます。
相続においては、必要書類を揃え法務局に申請する一連の手続きを司法書士が代行可能です。司法書士のその他の独占業務には「商業登記」「裁判所・検察庁に提出する書類の作成」などがあります。
行政書士の業務内容
行政書士は「行政手続き・書類作成の専門家」です。各省庁や役所に提出する「許認可申請や届出」「契約書や事実証明書類の作成」など、行政書士が扱う書類は多く、数千種類以上といわれています。
相続において、行政書士が携われる主な業務は「遺産分割協議書の作成」「相続人調査・相続財産調査」「遺言書の作成の助言」などがあります。 遺言書は「被相続人」と、法務大臣が任命する「公証人」のみが作成できます。行政書士は「遺言書の文面の提案や支援」というかたちでサポートが可能です。
司法書士と行政書士の違い
司法書士と行政書士の主な業務の違いは、以下のとおりです。
・司法書士の主な業務:相続登記、法務局や裁判所などに提出する書類の作成・申請など |
業務内容 | 司法書士の対応可否 | 行政書士の対応可否 |
相続人調査 | 可 | 可 |
相続財産調査 | 可 | 可 |
相続登記 | 可 | 可 |
相続放棄の申述 | 可 | 不可 |
遺産分割協議書の作成 | 可 | 可 |
遺言書の検認 | 可 | 不可 |
不動産の名義変更(相続登記) | 不可 | 不可 |
行政書士は、不動産の名義変更(相続登記=法務局の手続き)や、自筆証書遺言の検認手続き・相続放棄の申述(=家庭裁判所の手続き)は行うことができません。これらの業務は司法書士しか行うことができません。
行政書士ができる相続手続きとは
相続人調査
遺産相続では法定相続人を確定する必要があるので、行政書士に相続人の調査を依頼すると、戸籍謄本をすべて取得してくれます。
被相続人が転籍を繰り返していると、戸籍の取得に膨大な時間がかかってしまうので、自分で対応できないときは行政書士に依頼しましょう。
相続財産の調査
行政書士には、相続財産の調査も依頼できます。相続手続きを円滑に進めるために「どのような財産がどのくらいあるのか」を把握する必要があります。相続財産とは不動産や預貯金などの「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナスの財産」も含まれます。
借金を引き継ぎたくないときは相続放棄を選択できますが、後で高額な財産が判明しても相続人の地位は復活しないので、相続財産の全容把握は重要です。
遺産分割協議書の作成
遺言書がない相続の場合、相続人全員で遺産分割協議をします。その協議内容をまとめたものを「遺産分割協議書」といい、行政書士に作成を依頼できます。
遺産分割協議書は人数分を作成して契印を押印し、複数枚になったときは割印も必要になるので、押印漏れにも注意が必要です。遺産分割協議書の内容を確実にしたいときは、行政書士に作成を依頼した方がよいでしょう。
預貯金口座の解約
金融機関は預金者が亡くなった場合、口座を凍結します。相続財産に預貯金口座がある場合の解約手続きには「戸籍謄本」や「相続者全員の印鑑証明書」が必要になるので、書類取得もセットで行政書士に依頼すると、相続手続きもスムーズに進みます。
司法書士ができる相続手続きとは
不動産の名義変更(相続登記)
相続する財産に不動産が含まれている場合、不動産の名義を亡くなられた方から相続人に変更するため、不動産の相続登記が必要になります。不動産の名義変更(相続登記)に関する書類の準備や申請は、司法書士が専門的に取り扱います。
法定相続人や相続財産の調査
司法書士も行政書士同様に法定相続人や相続財産の調査ができます。遺産の中に不動産があれば、相続登記が必要になります。そのため、司法書士には、相続登記の前提として不動産を含む相続財産の調査を依頼できます。
また、相続登記の前提として、相続人の調査もする必要があります。そのため、不動産のある相続では、司法書士に相続人調査も任せられます。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議で不動産を相続する人を決めたときには、相続登記の際に遺産分割協議書を添付する必要があります。この場合、遺産分割協議書作成も司法書士に任せられます。ただし、司法書士は遺産分割の内容の決定をサポートすることはできません。
遺言書の検認
亡くなった人が、自筆の遺言書を残していた場合、家庭裁判所で検認の手続きをしなければなりません。
司法書士は遺言書が適切に存在しているかを確認し、検認が必要な場合はその手続きもサポートします。また、生前の段階で遺言書の作成に関する相談や遺言執行者の選任手続きに関する書類作成も司法書士にできる業務の1つです。
相続放棄の手続き
相続放棄をするには、相続の開始を知った時から3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄申述書を提出して手続きする必要があります。司法書士には、この相続放棄の申述の手続きを依頼できます。
司法書士と行政書士にできないこと
相続税の申告
相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える相続財産がある場合には、相続税がかかるため、相続税の申告が必要です。
相続税の申告などは税理士の業務範囲になるため、税務に関する手続きについては、司法書士も行政書士も対応できません。相続税の申告を代理できるのは、税理士のみになります。司法書士に相続登記等を依頼した場合でも、相続税の申告は税理士に依頼しなければなりません。
相続人間の紛争解決
遺産分割をめぐって相続人間で紛争になった場合、家庭裁判所で遺産分割調停や遺産分割審判を行わなければなりません。
家庭に関する事件全般を扱う家事事件の代理人となれるのは弁護士だけです。従って、遺産分割協議の過程で紛争が起こった場合、司法書士も行政書士も相続人に代わって交渉を行うことはできません。
まとめ
相続に関しては、行政書士と司法書士でできることが違います。相続財産に不動産が含まれているなら、相続登記ができる司法書士に手続きを依頼するのがおすすめです。
また、遺産の中に不動産がない場合には、相続登記をする必要がありませんので司法書士は遺産分割協議書作成などにかかわれないため、行政書士に依頼した方がよいでしょう。
このように相続する内容によってどちらもできるできないがあるので一度相談してみるのが良いでしょう。