親の借金と相続 - 知っておくべき対策と注意点【2025年最新】
親の借金があっても安心! 相続対策の基礎知識
親が亡くなり、悲しみに暮れる間もなく「親の借金の相続問題」が浮上することがあります。多くの方が「親の借金は子供が払う」と思い込んでいますが、実は法律で定められた手続きを踏めば、親の借金を相続しない方法があるのです。本記事では、親に借金がある場合の相続対策について、基本から最新の法改正まで徹底解説します。
この記事でわかること:
- ✅ 親の借金がある場合の3つの選択肢
- ✅ 相続放棄・限定承認の具体的な手続き方法
- ✅ 処分してはいけない財産とその理由
親の借金と相続の基本知識|知らないと損する重要事項
相続とは何か|プラスもマイナスも全て相続される
相続問題を考える上で最も重要なのは、日本の相続制度では親の借金(債務)も含めて相続するのが原則だということです。つまり、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、住宅ローンやカードローンなどの借金も自動的に子どもに引き継がれる可能性があります。
法定相続人と相続順位|誰が親の借金を相続するのか
法定相続人は以下の順位で決まります
順位 | 法定相続人 | 法定相続分 |
第一順位 | 配偶者と子(子がいない場合は孫など) | 配偶者1/2、子1/2(子が複数の場合は均等分割) |
第二順位 | 配偶者と被相続人の父母 | 配偶者2/3、父母1/3 |
第三順位 | 配偶者と被相続人の兄弟姉妹 |
配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 |
相続の開始時期と期限|親の借金対策は時間との戦い
相続手続きは被相続人の死亡時に開始します。相続人は原則として被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に、以下のいずれかを選択する必要があります
※「亡くなった日」ではなく、「知った日」というのがポイントです。
- 単純承認(プラスもマイナスも全て相続)
- 限定承認(プラスの財産の範囲内でのみ借金を返済)
- 相続放棄(プラスもマイナスも含め、相続権を完全に放棄)
この期限を過ぎると、原則として単純承認したとみなされ、親の借金をすべて相続することになってしまいますので気をつけましょう。
親に借金がある場合の相続の選択肢|どれが最適解?
単純承認とは|親の借金よりも財産が多い場合の選択肢
単純承認は、すべての相続財産(プラスの財産とマイナスの財産)を無条件で相続する方法です。特に手続きをしない場合や期限内に他の選択をしなかった場合は、自動的に単純承認となります。親の借金が財産よりも少ない場合はこの選択肢が適しています。
限定承認とは|親の借金を財産の範囲内でのみ返済する方法
限定承認は、プラスの財産の範囲内でのみ親の借金(債務)を返済する方法です。つまり、相続財産を超える借金は支払う必要がないため、自己資産を減らすリスクがありません。ただし、限定承認の手続きは複雑で、相続人全員が共同して家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄とは|親の借金を一切引き継がない完全対策
相続放棄は、プラスもマイナスも含めて、相続権を完全に放棄する方法です。親の借金が財産を上回る場合や、借金の総額が不明な場合に最適な選択肢です。相続放棄の手続きも家庭裁判所への申述が必要ですが、相続放棄する相続人が単独で行うことから、限定承認よりも手続きは簡単です。
それぞれのメリット・デメリット|親の借金対策の選択肢を比較
選択肢 | メリット | デメリット | おすすめの状況 |
単純承認 | 手続きが簡単、財産をすべて相続できる | 借金が財産を上回ると損失、隠れた借金のリスクあり | 親の借金が少なく、財産が多い場合 |
限定承認 | 借金支払いが財産の範囲内に限定、余剰財産は相続できる | 手続きが非常に複雑、相続人全員の合意が必要、財産管理の負担大、みなし譲渡所得への対策 | 借金と財産の金額がはっきりわからない場合、隠れた借金の可能性がある場合 |
相続放棄 |
借金を一切相続しない、手続きが比較的簡単、将来的なリスクがない |
財産も一切相続できない、撤回不可 | 親の借金が財産より明らかに多い場合、借金総額が不明な場合 |
親の借金から身を守る!相続放棄の手続き方法完全ガイド
相続放棄の期限|3ヶ月の「熟慮期間」を逃さないために
相続放棄は原則として「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行う必要があります。この期間を「熟慮期間」と呼びます。ただし、「親の財産、借金の調査に時間がかかる場合」など、特別な事情がある場合は熟慮期間の伸長が認められることもあります。
相続放棄に必要な書類|家庭裁判所提出書類チェックリスト
相続放棄の手続きには以下の書類が必要です
- □ 相続放棄申述書(家庭裁判所で入手可能)
- □ 被相続人に関する書類(住民票除票又は戸籍附票、死亡の記録のある戸籍謄本など)
- □ 相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)
- □ 申述人の身分証明書のコピー
- □ 収入印紙800円分(申述手数料)
相続放棄の手続き方法|家庭裁判所での具体的な流れ
親の借金相続放棄の手続きは以下の流れで行います
- 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書と必要書類を提出
- 申述手数料(800円)を収入印紙で納付
- 審査ののち、受理されると「相続放棄申述受理証明書」の交付申請が可能
- 債権者(親の借金の貸主)に対して、「相続放棄申述受理証明書」を提示し、相続放棄した旨を通知
相続放棄後の注意点|知らないと危険な落とし穴
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとみなされます。つまり、親の預貯金や不動産などのプラスの財産も一切相続できません。また、いったん相続放棄をすると、原則として撤回はできないため、慎重な判断が必要です。
限定承認で親の借金対策|複雑だが効果的な手続き方法
限定承認の期限|相続放棄と同じ3ヶ月の期限
限定承認も相続放棄と同様、「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行う必要があります。この期間を過ぎると原則として単純承認したとみなされ、親の借金をすべて相続することになります。
限定承認に必要な書類|家庭裁判所提出書類一覧
限定承認の手続きには以下の書類が必要です
- 限定承認申述書(家庭裁判所で入手可能)
- 被相続人に関する書類(住民票除票又は戸籍附票、出生から死亡までのすべての戸籍謄本)
- 相続人であることを証明する書類(相続人全員の戸籍謄本)
- 相続財産の目録(プラスの財産とマイナスの財産を詳細に記載)
- 収入印紙800円分(申述手数料)
限定承認後の財産管理|煩雑だが確実な債務整理方法
限定承認後は、以下の手続きが必要になります
- 相続財産の調査・目録作成:すべての財産と債務を洗い出す
- 債権者への公告:官報に掲載し、債権者に申し出を促す(2ヶ月以上の期間設定)
- 債権の弁済:財産の範囲内で債権者に返済(優先順位あり)
- 残余財産の分配:債務の返済後に残った財産を相続人で分配これらの手続きは複雑であるため、弁護士などの相続の専門家に依頼することが強く推奨されます。
親の借金がある場合|処分してはいけない財産
絶対に処分してはいけない財産|触れると単純承認とみなされる危険性
以下の財産を処分すると、単純承認したとみなされる可能性があるため、絶対に手をつけてはいけません
- ❌ 不動産:土地・建物などの不動産
- ❌ 高額な預貯金:葬儀費用などを超える預貯金
- ❌ 有価証券:株式・投資信託・国債など
- ❌ 高額な動産:美術品・宝飾品・骨董品・ブランド品など
- ❌ 事業用資産:事業を営んでいた場合の事業用資産・設備
- ❌ 知的財産権:著作権・特許権など
なお、相続放棄や限定承認の申述をする前でも、以下の財産の使用については過去の裁判所判断で認められたケースがあります。
- ✅ 葬儀費用:社会通念上、相当な範囲内の葬儀費用
- ✅ 生活必需品:被相続人と同居していた場合の日常的な消耗品
ポイントとしては、単純承認とみなされないために、相続放棄や限定承認の受理がされるまで、財産はそのままにしておくことです。また借金についても同様に受理されるまで返済しないでください。
親の借金と生命保険|相続対策の重要ポイント
預貯金は相続財産に含まれますが、生命保険の死亡保険金は原則として相続財産には含まれません。ただし、保険金受取人が「法定相続人」と指定されている場合は、相続財産ではなく、みなし相続財産として相続税の対象になることがあります。親の借金対策として、生前から生命保険の受取人を明確に指定しておくことが重要です。
親の借金の種類と相続|どんな債務が相続されるのか
相続される借金の種類|親の借金はこれだけある
相続の対象となる主な借金には以下のようなものがあります
- 住宅ローン:不動産と一緒に住宅ローンも相続
- 事業ローン:個人事業主の事業資金借入
- カードローン・消費者金融:個人的な借入
- 税金の未納分:所得税・固定資産税・住民税など
- 公共料金の未払い:電気・ガス・水道・NHKなど
- 医療費・介護費の未払い:入院費・施設利用料など
- 家賃・地代の未払い:賃貸物件の家賃滞納など
親が連帯保証人になっていた場合|隠れた借金リスク
親が他人の借金の連帯保証人になっていた場合、その保証債務も相続の対象となります。主債務者が返済できない場合、相続人が保証債務を負うことになるため、特に注意が必要です。親の生前に、連帯保証の有無を確認しておくことが望ましいでしょう。
事業用の借金と個人の借金の違い|相続対策の異なるアプローチ
事業用の借金(事業ローンなど)と個人の借金(住宅ローンなど)は基本的に区別なく相続の対象となります。ただし、法人成り(個人事業から法人化)している場合は、法人の借金と個人の借金は区別されます。親が個人事業主の場合、事業用の借金も含めた相続対策が必要です。
親の借金と相続に関するよくある質問|専門家が回答
Q:親の借金を知らなかった場合|熟慮期間経過後でも相続放棄できる?
A:原則的に熟慮期間経過後の相続放棄はできません。過去の裁判所判断には「相続人が相続財産の有無を調査することが著しく困難な事情がある」などの理由があることから、熟慮期間後の相続放棄が認められたケースがあります。裁判所の判断は個別の事案ごとで異なるため、速やかに弁護士などの相続の専門家への相談が必要です。
Q:相続放棄後に財産が見つかった場合|権利はどうなる?
A:相続放棄後に新たな財産が見つかった場合でも、一度相続放棄をすると、その後見つかった財産についても相続権はありません。相続放棄により相続人ではなかったものとしてみなされるため、財産はその他の相続人に承継されます。そのため、相続放棄後に新たに見つかった財産についても相続することはできません。
Q:共有財産の取り扱い|夫婦の財産はどうなる?
A:夫婦で共有していた財産(例:共有名義の不動産)の場合、被相続人の持分のみが相続の対象となります。残りの持分は生存配偶者のものとして残ります。したがって、親の借金の返済に充てられるのは、被相続人の持分のみです。
親の借金と相続対策まとめ
早期の準備が重要親に借金がある場合の相続では、単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢があります。親の借金が財産を上回る可能性がある場合は、相続放棄や限定承認を検討すべきでしょう。
相続放棄や限定承認を選択する際は、処分してはいけない財産を正しく理解し、法定の期限内に適切な手続きを行うことが重要です。
相続問題は複雑で、一度決断すると変更が難しいです。また、親に借金があっても、過払金請求によりお金が戻ってくるケースなどもありますから、不安な点がある場合は、弁護士や司法書士などの相続の専門家に相談することをお勧めします。早めの対策と適切な判断が、将来のトラブルを防ぐ鍵となります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的なケースについては、相続の専門家への相談をお勧めします。
この記事の監修者
濵川 誠司(濵川誠司税理士事務所)
資格:税理士
出身地:愛知県
経歴:税理士法人、コンサルティング会社での税務担当業務(相続税、贈与税、事業承継、法人・個人事業主の事業サポート)
得意分野:相続税
趣味:ドライブ