退職金1,000万円を「減らさない」運用術:元本割れを防ぐポートフォリオ
長年勤め上げたご褒美であり、これからの人生の頼みの綱である「退職金」。 通帳に記帳された「1,000万円」という数字を見て、嬉しさと同時に「これを失ったらどうしよう」という強烈なプレッシャーを感じる方は少なくありません。
現役時代の資産形成とは異なり、退職金の運用で最も大切なのは「増やすこと」ではなく、「大きく減らさないこと(守り)」です。しかし、銀行の窓口やネット上の情報には、退職者を狙った「高コストな罠」も潜んでいます。
この記事では、大切な退職金1,000万円をインフレから守りつつ、元本割れのリスクを極限まで抑えるための「守りの運用術」と具体的なポートフォリオ(資産配分)を解説します。
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1. 最初に知っておくべき「3つの落とし穴」
運用を始める前に、退職金を受け取った直後の方が陥りやすい「失敗パターン」を知っておきましょう。これらを避けるだけで、資産を守れる確率はグッと上がります。
① 銀行の「退職金専用定期預金」の罠
退職金が振り込まれると、銀行から「金利年○%! 退職金特別プラン」という案内が届きませんか? 一見魅力的に見えますが、高い金利が適用されるのは最初の3ヶ月だけというケースが大半です。
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罠の仕組み: 定期預金とセットで「投資信託」の購入を勧められます。この投資信託の手数料(購入時手数料3%など)が高く、定期預金の利息など一瞬で吹き飛んでしまいます。
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対策: 銀行の窓口には近づかないのが鉄則です。
② 一括投資のリスク
「これから株が上がりそうだ」と、1,000万円を一度に投資信託や株式に投入するのはギャンブルです。 翌月に大暴落が来たら、精神的ダメージで夜も眠れなくなってしまいます。
③ 「何もしない」リスク(インフレ)
「投資は怖いから全部普通預金」というのも、実はリスクです。 物価が上昇(インフレ)すると、お金の実質的な価値は目減りします。今の1,000万円で買えるものが、10年後には買えなくなるかもしれません。「預金だけ」は「確実に価値が減る」選択になり得るのです。
2. 目標は「年利2〜3%」のインフレ負けしない運用
退職金運用で目指すべきゴールは、資産を2倍にすることではありません。 「物価上昇分くらいは補い、資産寿命を延ばす」ことです。
具体的には、リスクを抑えながら年利2〜3%程度のリターンを目指すのが現実的で健全な目標です。これなら、大きな元本割れリスクを冒さずに達成可能です。
3. 鉄壁の守り!「カウチポテト・ポートフォリオ」戦略
元本割れを極力防ぐための最強の戦略としておすすめなのが、「カウチポテト・ポートフォリオ」の考え方を応用した配分です。 (カウチポテトとは、ソファでくつろぎながらでも安心して見ていられる、という意味です)
1,000万円を以下の比率で分けます。
| 資産クラス | 金額 | 役割 | 具体的な商品 |
| ① 無リスク資産 | 500万円 | 絶対に減らさない「守りの要」 | 個人向け国債(変動10年)、定期預金 |
| ② リスク資産 | 500万円 | インフレに対抗する「攻めの部隊」 | 全世界株式インデックスファンドなど |
① 無リスク資産(50%):個人向け国債「変動10年」
現金のまま置いておくよりも、「個人向け国債(変動10年)」が圧倒的におすすめです。
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元本保証: 国が破綻しない限り元本が戻ってきます。
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金利上昇に強い: 世の中の金利が上がれば、この国債の金利も上がります(インフレ対策になる)。
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最低金利保証: どんなに不景気でも、年率0.05%は保証されます。
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流動性: 発行から1年経てば、いつでもペナルティなし(直近2回分の利子を返すだけ)で解約し、現金化できます。
② リスク資産(50%):全世界株式(オール・カントリー)
残りの半分で、緩やかな成長を目指します。おすすめは、1本で世界中の企業に分散投資できる「全世界株式(オール・カントリー)」型の低コスト投資信託です。
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特定の国や企業に賭けるのではなく、「世界経済全体の成長」に乗っかります。
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もし株式市場が暴落して半値になっても、資産全体(1,000万円)で見ればダメージは「マイナス250万円(全体の25%減)」で済みます。残りの500万円(国債・現金)が無傷だからです。
さらにリスクを下げたい場合 株式100%の投資信託ではなく、「バランス型ファンド(株式・債券・REITなどが混ざったもの)」を選ぶのも手ですが、中身が複雑になりがちです。 シンプルに「現金+国債」と「株式ファンド」を自分で半分ずつ持つ方が、管理も解約もしやすくなります。
4. 買う時の鉄則:時間を分散する(ドル・コスト平均法)
ポートフォリオが決まっても、明日すぐに1,000万円全額を使って買ってはいけません。 特にリスク資産(株式ファンド)の部分である500万円は、「時間をかけてゆっくり」市場に移していくことが、心の安定に繋がります。
3年〜5年かけて資金を移動する
例えば、毎月10万円ずつ、NISA(つみたて投資枠・成長投資枠)を使って全世界株式を買っていきます。
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毎月10万円 × 12ヶ月 × 4年強 = 約500万円
こうすることで、「買った直後に暴落した」という高値掴みのリスクを避けることができます。暴落時には「安くたくさん買えた」と思えるため、精神的な余裕が生まれます。
5. 出口戦略:どうやって取り崩すか?
運用しながら取り崩す際も、ルールを決めておかないと「資産が減っていく恐怖」に襲われます。
「定額取り崩し」をおすすめする理由
投資の世界では「4%ルール(定率取り崩し)」が有名ですが、日本のシニア世代には「定額取り崩し」の方が精神衛生上良い場合が多いです。
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定率(例:毎年4%)の場合:
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暴落時に受け取れる金額がガクンと減り、生活設計が狂います。
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定額(例:毎月5万円)の場合:
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相場に関わらず決まった額が手に入るため、年金の不足分を補う感覚で安心して使えます。
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ネット証券の「定期売却サービス」を使えば、毎月決まった日に自動で投資信託を解約し、現金を口座に振り込んでくれます。これを「自分年金」として活用しましょう。
6. まとめ:退職金運用の極意は「夜、安心して眠れること」
退職金1,000万円を「減らさない」運用の要点は以下の通りです。
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銀行窓口の「退職金プラン」には手を出さない。
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半分は「個人向け国債(変動10年)」でガッチリ守る。
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残り半分は「全世界株式」でインフレ対策をする。
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一度に買わず、数年かけてNISAで積み立てる。
退職後の人生は長いです。ハイリスクな投資で一喜一憂するよりも、堅実な運用で「お金の寿命」を延ばし、趣味や旅行、お孫さんとの時間を心穏やかに楽しむことこそが、本当の意味での「投資の成功」ではないでしょうか。
