認知症になったら株はどうなる? 証券口座の代理人制度と資産凍結リスク
「新NISAも始まったし、老後資金のために投資を続けよう」 「退職金で買った株、配当金が良いからそのままにしてある」
人生100年時代、70代・80代になっても株式や投資信託を保有し続けることは、資産寿命を延ばすための有効な手段です。
しかし、そこに潜む「認知症」という巨大なリスクについて、具体的な対策を講じている人は驚くほど少ないのが現実です。
もし明日、口座の名義人である親御さんが認知症と診断され、判断能力がないとみなされたらどうなるでしょうか? 銀行預金が下ろせなくなる「口座凍結」は有名ですが、証券口座の凍結はそれ以上に厄介で、資産を大きく減らす致命傷になりかねません。
「暴落が来ているのに、売ることができない」 「介護費用が必要なのに、株を現金化できない」
そんな悪夢を避けるために、今すぐ知っておくべき「証券口座の代理人制度」と、認知症対策の最前線を解説します。
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1. 銀行より怖い? 証券口座の「資産凍結」リスク
認知症になり意思能力(判断能力)を喪失すると、法律上、あらゆる契約行為ができなくなります。 銀行口座からお金が下ろせなくなるのはもちろんですが、証券口座の場合はさらに深刻な問題が発生します。
それは、「資産の価値が変動し続けるのに、指一本触れられなくなる」というリスクです。
リスク①:暴落しても「売れない」
例えば、親御さんが保有している株が、リーマンショック級の大暴落に直面したとします。 家族が「今すぐ売って損切りしないと、資産が半分になってしまう!」と気づいても、家族は売却注文を出せません。
証券会社は本人確認を厳格に行います。電話口で家族がなりすまそうとしても、少しでも会話が怪しければ取引は停止されます。 結果、目の前で資産が溶けていくのを、ただ指をくわえて見ていることしかできないのです。
リスク②:介護費用に「充てられない」
「老人ホームの入居一時金として500万円必要だ。親の証券口座には1,000万円分の株があるから、これを売ればいい」 そう思っていても、本人の意思確認ができなければ現金化できません。 結局、子供が自腹で数百万円を立て替えなければならない事態に陥ります。
リスク③:住所変更すらできない
引っ越しや施設入居で住所が変わっても、本人でないと住所変更手続きができません。 重要な通知(配当金の案内など)が届かなくなり、最悪の場合、口座の利用が制限されることもあります。
2. 救世主となるか? 「代理人届出制度」とは
こうしたトラブルを防ぐために、各証券会社が用意しているのが「代理人届出制度(証券代理人制度)」です。
これは、口座の名義人(親)が元気なうちに、あらかじめ家族(子や配偶者)を「代理人」として登録しておく制度です。 登録しておけば、将来もし本人が認知症などで取引できなくなった時に、代理人が代わって取引(売却や出金)を行うことができます。
主な特徴とメリット
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家族が堂々と取引できる: 後ろめたい思いをしてなりすます必要がありません。
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コストがかからない: 登録手数料は無料の会社がほとんどです。
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手続きがシンプル: ネット証券ならオンラインや郵送で完結する場合もあります。
注意! 多くの会社での「制限」
ただし、この制度は「万能」ではありません。多くの証券会社では、代理人の権限に以下のような制限を設けています。
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「売却(換金)」と「出金」のみ: 基本的に、資産を現金化して守るための制度です。新たに株を買う(運用する)ことはできないケースが多いです。
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診断書の提出が必要な場合も: 「本人の判断能力が低下したと認められる場合」に限り、代理人取引を許可する(それまでは本人のみ)という運用ルールの会社もあります。
とはいえ、「売りたくても売れない」という最悪の事態は回避できるため、登録しておくに越したことはありません。 SBI証券、楽天証券、野村證券、大和証券など、主要な証券会社はほぼ導入しています。
3. 代理人がいないとどうなる? 「成年後見制度」の壁
もし、代理人を登録しないまま認知症が進行してしまったらどうなるでしょうか? 凍結された口座を動かすための法的な手段は、原則として「法定後見制度(成年後見制度)」しかありません。
しかし、投資をしている家庭にとって、この成年後見制度は非常に相性が悪い(使い勝手が悪い)ことで知られています。
デメリット①:保有株はすべて「即売却」される可能性が高い
後見人(弁護士や司法書士)の役割は「本人の財産を守ること(減らさないこと)」です。 そのため、リスク資産である「株式」や「投資信託」は、後見人がついた時点で速やかにすべて売却され、元本保証の銀行預金に移されるのが一般的です。
「高配当株だから持っておきたい」「株主優待を楽しみにしている」という家族の希望は通りません。強制的に利確(または損切り)させられてしまいます。
デメリット②:コストが高い
専門家が後見人になると、月額2万〜6万円程度の報酬が一生涯発生します。資産が多いほど報酬も高くなります。
デメリット③:やめられない
一度後見人をつけると、本人が亡くなるまで解任できません。「株を売って現金化したから、もう後見人は解任します」ということはできないのです。
4. 運用を続けたいなら「家族信託」という選択肢
「認知症になっても、すぐに全部売るのではなく、配当金をもらいながら運用を続けたい」 「アパート経営のように、資産を管理・運用して次世代に引き継ぎたい」
そう考える資産家や投資家の方には、「家族信託」という方法があります。
これは、親(委託者)が元気なうちに、財産の管理・運用権限を子(受託者)に移してしまう契約です。 証券会社に「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」を開設し、そこで株を管理すれば、親が認知症になっても、受託者である子供の判断で「売り買い」や「運用継続」が可能になります。
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メリット: 柔軟な運用ができる。成年後見制度のような月額報酬がかからない。
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デメリット: 初期費用(専門家への報酬など)として数十万円〜がかかる。対応している証券会社がまだ少ない。
5. まとめ:親の「証券口座」を確認しよう
親の預金通帳の場所は知っていても、「どこの証券会社に、どんな株を持っているか」を知らないお子さんは意外と多いものです。
認知症対策は、「なった後」では手遅れです。 親御さんがまだ元気で、意思の疎通ができる「今」しか、対策は打てません。
今すぐやるべきアクションプラン
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口座の把握: 親御さんに「NISAとか株とかやってる?」と聞き、証券会社を特定する。
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制度の確認: その証券会社のホームページで「代理人届出制度」や「家族登録制度」があるか調べる。
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代理人の登録: 親御さんと話し合い、信頼できる家族(あなた)を代理人として登録しておく。
「認知症になったら株なんて全部売ればいい」と思っているかもしれません。 しかし、その「売る」という行為すら、準備がなければできないのが現実です。
大切な資産を「塩漬け」にして腐らせないために。 今度実家に帰ったら、株の話を切り出してみませんか?
