「デジタル遺品」の取り扱い! スマホ・PCのデータ、アカウントをどう残すか?

「もし明日、あなたが突然の事故で意識を失ったら、家族はあなたのスマホを開くことができるでしょうか?」

現代人にとって、スマートフォンやパソコンは単なる通信機器ではありません。銀行口座、証券資産、思い出の写真、そして誰にも見られたくない秘密……人生のすべてが詰まった「デジタル金庫」です。

持ち主が亡くなった後に残されるこれらのデータやアカウントを「デジタル遺品」と呼びます。 今、このデジタル遺品を巡るトラブルが急増しており、「パスワードが分からなくて遺産相続ができない」「解約できないサブスクリプション(定額サービス)の会費が引き落とされ続けている」といった悲鳴があちこちで上がっています。

この記事では、見えない資産であるデジタル遺品のリスクと、元気なうちにやっておくべき「残し方・しまい方」のルールを徹底解説します。

1. 放置すると危険! デジタル遺品の「3大リスク」

紙の通帳や証書と違い、デジタル遺品は「そこに存在すること」自体に家族が気づかないケースが大半です。放置すると、以下の3つのリスクが遺族を襲います。

リスク①:資産の喪失(ネット銀行・証券・暗号資産)

これが最も深刻です。

通帳のない「ネット銀行」や、郵送物が届かない「ネット証券」、そしてスマホの中にしかない「暗号資産(仮想通貨)」。

これらは、家族がその存在を知らなければ、永遠に闇に葬られ、誰にも相続されません。数百万、数千万円単位の資産が、パスワード一つ分からないだけで消えてしまうのです。

リスク②:負債の継続(サブスク・有料会員)

動画配信サービス、アプリの課金、クラウドストレージの月額料金。

これらは、クレジットカードや口座が凍結されるまで、死後も延々と料金が引き落とされ続けます。一つ一つは少額でも、積み重なれば遺族の家計を圧迫します。

リスク③:プライバシーの流出と心理的負担

SNSのアカウントが乗っ取られて「なりすまし」に使われたり、見られたくない交友関係や趣味のデータが遺族の目に触れてしまったり。

「知らなくていいこと」を知ってしまうことは、遺族にとって深い心の傷になることがあります。


2. デジタル遺品を「3つ」に仕分けよう

整理を始める前に、デジタル遺品を3つのカテゴリーに分けて考えましょう。すべてを同じように扱う必要はありません。

カテゴリー 具体例 対応方針
① 資産(お金) ネット銀行、ネット証券、FX、暗号資産、ポイント、電子マネー 絶対に家族に伝える(最優先)
② 契約(サブスク) 動画・音楽配信、クラウド、有料メルマガ、会費 解約できるようにしておく
③ 思い出・秘密 SNS(LINE, Facebook)、写真、メール、検索履歴 残すか、自動削除するか決める

ポイント

「③ 思い出・秘密」に関しては、必ずしもすべてを家族に見せる必要はありません。「死後、誰にも見られずに消去したいデータ」があるなら、そのための準備が必要です。


3. 【生前対策】元気なうちにやるべき「残し方」

「パスワードを書いた紙を貼っておく」のはセキュリティ上危険です。賢く、安全に残すための具体的な手順を紹介します。

手順①:「スマホのロック解除コード」だけは共有する

すべての入り口はスマホです。このロックが開かないと、何も始まりません。

しかし、普段から教えるのに抵抗がある場合は、エンディングノートに書くか、「信頼できる封筒」に入れて封印し、「私に何かあった時だけ開けて」と託しておきましょう。

手順②:「デジタル資産リスト」を作る(パスワードは不要)

家族が困るのは「パスワードが分からないこと」よりも、「どこの銀行を使っているか分からないこと」です。

パスワードまで書く必要はありません。以下の情報だけで十分です。

  • 金融機関名・サービス名(例:楽天銀行、SBI証券)

  • ID・口座番号(分かれば)

  • ログインID(メールアドレスなど)

これさえ分かれば、遺族は「戸籍謄本」などの公的書類を提出することで、パスワードが分からなくても解約や相続手続きを進めることができます。

手順③:スマホの「遺言機能」を設定する

iPhoneやGoogleには、万が一の時に備えた公式機能が搭載されています。これを使わない手はありません。

  • iPhoneの方:「故人アカウント管理連絡先(レガシーコンタクト)」

    • 事前に家族(Apple IDを持つ人)を指定しておくと、所有者が亡くなった際に、その家族が「死亡証明書」をAppleに提示するだけで、写真やデータにアクセスできるようになります。

    • 設定方法:[設定] > [自分の名前] > [サインインとセキュリティ] > [故人アカウント管理連絡先]

  • Android / Googleの方:「アカウント無効化管理ツール」

    • 一定期間(例:3ヶ月)操作がない場合、自動的にアカウントを削除したり、指定した相手にデータをダウンロードするリンクを送ったりできます。

    • 「死んだら自動的にデータを消したい」という「墓場まで持っていきたいデータ」の処理に最適です。


4. 【死後対応】家族が亡くなった時の対処法

もし準備がないまま家族が亡くなってしまった場合、遺された方はどうすれば良いのでしょうか。

鉄則:スマホのパスコードを「適当に入力」しない

iPhoneなどのスマホは、セキュリティが高く、パスコード入力を連続で失敗すると「初期化(データ消去)」されたり、永久にロックされたりします(iPhoneは通常10回失敗でアウト)。

「誕生日は? 記念日は?」と当てずっぽうに入力するのは絶対にやめましょう。

手がかりの探し方

スマホが開かなくても、アナログな場所にヒントがあることが多いです。

  1. 手帳・メモ帳: パスワードのメモがないか。

  2. 郵便物: 銀行や証券会社からの「重要なお知らせ」や「年間取引報告書」が届いていないか。

  3. メール(PCやタブレット): 別の端末が開けるなら、そこに来ている「【〇〇銀行】振込受付通知」などのメールから利用サービスを特定できます。

プロに頼む(デジタル遺品整理業者)

どうしてもパスワードが解除できず、中に重要な証拠や写真がある場合は、専門の「デジタル遺品整理業者」に依頼する方法もあります。ただし、費用は数万円〜数十万円と高額になるケースが多く、必ず解除できる保証はありません。


5. 要注意! 「暗号資産(仮想通貨)」の落とし穴

デジタル遺品の中で最も危険なのが、ビットコインなどの**「暗号資産」**です。

これらは、銀行のように「公的書類を出せば教えてくれる」ものではありません。

特に「ハードウェアウォレット(USBのような端末)」や、個人のPC内で管理している場合、「秘密鍵(パスフレーズ)」が分からなければ、世界中の誰も、どんなスーパーハッカーでも取り出すことは不可能です。

暗号資産を持っている方は、必ずそのアクセス方法だけは物理的な紙などに記録し、貸金庫などの安全な場所に保管してください。でなければ、その資産は電子のゴミと化します。


まとめ:デジタル遺品整理は「愛」である

デジタル遺品の整理は、自分の財産を守るためだけではありません。

あなたが亡くなった後、悲しみの中にいる家族を**「パスワード解除の絶望的な作業」や「知らない借金の発覚」**から守るための、最後の思いやりです。

  1. スマホのスペアキー(解除コード)を託す。

  2. お金に関わるアプリのリストを作る。

  3. 見られたくないデータは、Googleの機能などで自動消滅するように仕掛けておく。

すべてを完璧にやる必要はありません。まずは、「ネット銀行の名前」をメモに残すことから始めてみませんか?

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

関連記事

前の記事へ

未婚の子がいる場合の「相続」:内縁の妻や事実婚のパートナーはどうなる?