遺言執行者に「弁護士」を指定すべき理由と費用の目安
遺言書を作成する際、「誰に財産を譲るか」という中身ばかりに気を取られていませんか? 実は、遺言書の効果を確実に実現し、死後のトラブルを防ぐために最も重要な役割を果たすのが、「遺言執行者」の存在です。
この遺言執行者は、家族(相続人)を指定することも可能ですが、専門家である「弁護士」を指定することで、その後の安心感が劇的に変わります。
「弁護士に頼むと高そう…」 「家族でできる手続きに、わざわざ他人を入れる必要があるの?」
そう思われるかもしれません。しかし、複雑な相続手続きや、感情が絡む親族間の調整において、弁護士の介入は「争続(そうぞく)」を防ぐ最強の盾となります。
この記事では、遺言執行者に弁護士を指定すべき3つの理由と、気になる費用の目安について、プロの視点から分かりやすく解説します。
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1. そもそも「遺言執行者」とは何をする人?
遺言執行者とは、亡くなった人(遺言者)に代わって、遺言書の内容を実現するために必要な一切の手続きを行う権限を持つ人のことです(民法第1012条)。
遺言書に「長男に不動産を譲る」と書いてあっても、勝手に名義が変わるわけではありません。誰かが法務局へ行き、登記申請をしなければなりません。預金の解約や株式の名義変更も同様です。
もし遺言執行者がいない場合、これらの手続きには「相続人全員の実印と印鑑証明書」が必要になるケースが多く、たった一人でも非協力的な相続人がいると、手続きがストップしてしまいます。
遺言執行者がいれば、執行者が単独でこれらの手続きを進めることができるのです。
2. なぜ家族ではなく「弁護士」なのか? 3つの理由
「長男を執行者にすればいいのでは?」と考える方も多いですが、以下のリスクを考慮すると、第三者である弁護士に依頼するメリットが見えてきます。
理由①:圧倒的な「事務処理能力」と「法的知識」
相続手続きは想像以上に煩雑です。
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戸籍の収集: 生まれてから死ぬまでの全ての戸籍を集める。
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財産目録の作成: 預金、不動産、株、借金などをすべて洗い出し、リスト化して相続人に交付する義務がある(2019年の法改正で義務化)。
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金融機関・法務局での手続き: 平日の日中に何度も窓口へ行く必要がある。
仕事をしている家族にとって、これらの作業は過酷な負担です。法律のプロである弁護士なら、これらの手続きを迅速かつ正確に完遂できます。
理由②:感情的な対立を防ぐ「防波堤」になる
これが最大のメリットです。
家族(例えば長男)が執行者になると、他の兄弟から「兄貴が勝手に財産を隠しているんじゃないか」「有利なように進めているんじゃないか」と疑念を持たれやすく、無用なトラブルの火種になります。
弁護士という「利害関係のない第三者」が間に入ることで、「法律に則って淡々と公平に進めている」という信頼感が生まれ、感情的な対立を抑制できます。もし不満を言われても、矢面に立つのは弁護士なので、家族間の直接的な衝突を回避できます。
理由③:妨害行為への「牽制力」
遺言の内容に不満を持つ相続人が、預金を勝手に引き出したり、不動産の権利証を隠したりするなどの「妨害行為」に出るケースがあります。
弁護士が執行者であれば、法的措置(警告や損害賠償請求など)を即座に検討できるため、こうした不正行為に対する強力な抑止力になります。
3. 弁護士以外の専門家(司法書士・信託銀行)との違い
「信託銀行の遺言信託」や「司法書士」と比較されることも多いですが、弁護士だけの強みがあります。
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信託銀行: 費用が高額(最低報酬額が高い)。また、「紛争性がある案件」は取り扱えないため、揉めた瞬間に辞任されてしまうリスクがあります。
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司法書士: 登記のプロですが、「代理人として他の相続人と交渉する」権限(代理権)には制限があります。
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弁護士: 唯一、「紛争案件の代理人」になれる資格を持ちます。もし遺言の無効を主張されたり、遺留分を請求されたりしても、そのまま対応が可能です(※別途費用がかかる場合あり)。
「うちは揉めるかもしれない」という不安が少しでもあるなら、弁護士一択です。
4. 気になる「費用」の目安は?
弁護士費用は「自由化」されているため事務所によりますが、かつての「報酬規定(旧日弁連基準)」を目安にしているところが多いです。
費用の内訳
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手数料(遺言書作成時): 10万〜20万円程度
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遺言書を作る段階で、執行者の指定を含めて依頼する場合の費用です(公正証書の手数料は別途)。
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執行報酬(亡くなった後): 遺産総額の1%〜3%程度
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実際に相続が発生し、手続きを行った際に支払われる報酬です。相続財産の中から支払われます。
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執行報酬の計算例(目安)
| 遺産総額 | 報酬率の目安 | 報酬額のイメージ |
| 300万円以下 | 定額 | 30万円〜 |
| 3,000万円以下 | 2.0% 〜 3.0% | 60万〜90万円 |
| 3億円以下 | 1.0% 〜 2.0% | 150万〜300万円 |
注意点
多くの事務所で「最低報酬額(ミニマムチャージ)」を設定しています(例:最低30万円〜50万円など)。
遺産が少ない場合、比率で見ると割高になることがあるため、事前に見積もりを取ることが重要です。
5. 遺言執行者を選任する際の流れ
では、具体的にどのように弁護士を指定すればよいのでしょうか。
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弁護士を探す・相談する
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相続に強い弁護士を探します。地元の法律事務所や、「法テラス」、知人の紹介などが一般的です。
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見積もりを取る
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「遺言書の作成」と「遺言執行」のセットで見積もりをもらいます。「もし執行時に揉めた場合の追加費用」なども確認しておきましょう。
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遺言書に記載する
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遺言書の条文に「遺言執行者として、次の者を指定する」と書き、弁護士の氏名、事務所住所などを明記します。
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※公正証書遺言にする場合、公証役場での手続きにも弁護士が同行してくれます。
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まとめ:安心料としての「執行者報酬」
「死後の手続きに数十万円もかかるのか」と思われるかもしれません。
しかし、その数十万円を惜しんだ結果、残された家族が遺産分割で骨肉の争いを繰り広げ、解決までに数年という時間と、数百万円の裁判費用を費やすケースは後を絶ちません。
「遺言執行者への報酬」は、愛する家族が「争族」に巻き込まれないための「保険料」であり、円満な解決を買うための「必要経費」です。
特に、以下のようなケースでは、弁護士の指定を強くおすすめします。
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相続人同士の仲が悪い(疎遠である)。
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前妻の子と現在の家族が相続人になる。
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特定の子供に多くの財産を譲りたい(偏りがある)。
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不動産や株式など、手続きが複雑な財産が多い。
あなたの最期の想いを、確実に、そして平和に実現するために。
プロである弁護士を「遺言執行者」というパートナーに迎えることを、ぜひ検討してみてください。
