田舎の土地や山林を「国に引き取ってもらう」制度:負担軽減のための解説

「実家の裏山を相続したけれど、使い道がない」 「遠方の畑を相続したが、草刈りの管理だけで毎年赤字だ」

かつては資産だった土地が、今や「負動産」と呼ばれ、所有者の大きな負担となるケースが増えています。固定資産税を払い続け、近隣からの苦情に怯え、子供たちにこの負担を残したくないと悩む…。

そんな方にとって、2023年(令和5年)4月から始まった新制度「相続土地国庫帰属制度」は、まさに救世主となる可能性があります。

一言で言えば、「お金を払って、条件を満たせば、いらない土地を国に引き取ってもらえる」制度です。

この記事では、この制度の仕組み、利用するための条件、かかる費用、そして手続きの流れについて、専門用語を噛み砕いて解説します。

1. 「相続土地国庫帰属制度」とは?

これまで、土地の所有権を放棄することは民法上認められていませんでした。どんなにいらない土地でも、一度相続してしまえば、売るか誰かにあげるかしない限り、死ぬまで(そして子孫の代まで)持ち続けなければなりませんでした。

しかし、所有者不明土地問題の解消を目指し、国がついに重い腰を上げました。

制度の概要

相続や遺贈によって土地の所有権を取得した人が、法務大臣(法務局)に承認申請を行い、審査に通り、負担金を納付することで、その土地の所有権を**国に渡す(帰属させる)**ことができる制度です。

ポイント 「タダで引き取ってくれる」わけではありません。 「審査手数料」と、10年分の管理費相当額である「負担金」を支払う必要があります。それでも、「永遠に続く管理責任と税金」から解放されるメリットは計り知れません。


2. 誰でも使えるわけではない! 「3つの高いハードル」

この制度は、どんな土地でも引き取ってくれる「ゴミ捨て場」ではありません。国としても、管理にお金がかかりすぎる土地や、トラブルの種になる土地は引き受けたくないからです。

利用するには、以下の3つのハードルを越える必要があります。

ハードル①:申請できるのは「相続」で得た人だけ

  • OK: 親から相続した土地、遺言でもらった土地。

  • NG: 自分で購入した土地、生前贈与で得た土地、会社名義の土地。

※ただし、共有名義の土地の場合、共有者の中に一人でも「相続」で得た人がいれば、他の共有者(購入した人など)と一緒に申請することは可能です。

ハードル②:建物があってはダメ(更地限定)

これが最大の難関です。 「建物がある土地」は引き取ってもらえません。 実家などの空き家がある場合、申請者の費用負担で解体し、更地にする必要があります。 (※解体費用が数百万円かかる場合、制度利用のコスパを慎重に考える必要があります)

ハードル③:トラブルや危険がないこと

以下のような土地は「却下」されます。

  • 担保権がついている: 抵当権などが設定されている土地。

  • 境界が不明確: 隣地との境界線がわからず、争いがある土地。

  • 土壌汚染がある土地

  • 急斜面で崩落の危険がある土地(崖地など)

  • 通路など他人が使用している土地

特に山林の場合、「境界がどこかわからない」ケースが非常に多いです。この場合、隣接する土地所有者と話し合って境界を確定させる作業が必要になります。


3. いくらかかる? 気になる「費用」の話

「国に返すのにお金がかかるの?」と思われるかもしれませんが、国が将来にわたって管理するための費用を「前払い」するイメージです。

費用は大きく分けて2つあります。

① 審査手数料

申請時に支払います。

  • 金額: 土地1筆あたり 14,000円

  • ※審査に落ちても返ってきません。

② 負担金(10年分の管理費相当額)

審査に合格した後、納付します。土地の種類によって金額が異なります。

土地の種類 負担金の目安
宅地 原則 20万円(※一部の市街地区域は面積に応じて高くなる)
田・畑 原則 20万円(※一部の市街地区域は面積に応じて高くなる)
森林(山林) 面積に応じて計算(約20万円〜数十万円)
雑種地・原野 原則 20万円

例: 300㎡の田舎の宅地の場合 → 20万円 3,000㎡の一般的な山林の場合 → 約25万円〜30万円程度

多くのケース(標準的な宅地や農地)では20万円で済みます。「固定資産税をあと何年払い続けるか」「草刈り代が毎年いくらかかるか」と比較すれば、決して高くない金額と言えるでしょう。


4. 手続きの流れ(申請から完了まで)

思い立ってから完了までは、半年〜1年程度かかると見ておきましょう。

ステップ1:事前相談(必須ではないが強く推奨)

まずは、管轄の法務局・地方法務局へ相談に行きます(予約制・電話や対面)。 ここで「そもそも申請できる土地か?」「書類は何が必要か?」のアドバイスを受けます。

ステップ2:承認申請

申請書を作成し、審査手数料(14,000円)を納めて提出します。

ステップ3:審査(書面・実地)

法務局の担当官が書類をチェックし、現地へ行って土地の状態を確認します。 ※ここが一番時間がかかります(半年〜1年)。

ステップ4:承認通知&負担金の納付

審査に通ると通知が届きます。届いてから30日以内に「負担金(20万円など)」を納付します。

ステップ5:国庫帰属(完了!)

納付が確認された時点で、土地の所有権が国に移転します。これであなたの手から離れました。


5. 審査に落ちた場合の「プランB」

残念ながら、「建物解体費が高すぎる」「境界がどうしても決まらない」などの理由で、この制度が使えない場合もあります。 その場合の処分方法も知っておきましょう。

① 「相続土地支援センター」などの民間サービス

最近では、国が引き取れないような土地(山林や原野)を有償で引き取る民間業者が増えています。 処分費用(数十万円〜)がかかりますが、国の制度より要件が緩いケースがあります。ただし、悪徳業者もいるため、業者の信頼性は慎重に見極める必要があります。

② 隣地所有者への贈与(寄付)

隣の土地を持っている人に、「タダでいいから貰ってくれないか(贈与)」と相談します。 隣地の人にとっては土地が広がるメリットがあるため、登記費用さえこちらが持てば、引き受けてくれる可能性があります。

③ 自治体の「寄付」受付(ハードル激高)

「市役所に寄付したい」と相談する手もありますが、自治体も使い道のない土地は欲しくないため、断られるケースが99%です。公園用地や道路用地として使える場合に限り、奇跡的に引き取ってもらえることがあります。


まとめ:子供に「負動産」を残さないために

「相続土地国庫帰属制度」は、万能ではありません。 更地にする解体費用や、境界確定の手間、そして20万円以上の負担金が必要です。

しかし、「出口の見えないトンネル」に出口ができたことの意味は大きいです。

  • 毎年届く固定資産税の通知書。

  • 台風のたびに心配になる「崖崩れ」や「倒木」のリスク。

  • 子供たちから言われる「あの土地、どうするの?」というプレッシャー。

これらを20万円+αの手出しで「断ち切る」ことができるなら、それは未来への安価な投資と言えるのではないでしょうか。

まずは、法務局へ「相談」に行くことから始めてみましょう。相談だけなら無料です。 親であるあなたが動かなければ、その苦労はそのまま子供たちへ引き継がれてしまいます。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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