家を売る際の「インスペクション」とは? 買主に安心を与える家の健康診断

「中古の家を売り出したけれど、なかなか買い手がつかない…」 「売却した後で、『雨漏りがあった!』なんてクレームが来たらどうしよう…」

中古住宅の売却を検討する際、こうした不安はつきものです。日本の中古住宅市場では、まだ「中古=品質が不安」というイメージが根強く残っています。

そんな不安を払拭し、スムーズな売却を後押しする最強のツールが「ホームインスペクション(住宅診断)」です。

人間が定期的に健康診断を受けるように、家にもプロによる診断を入れることで、買主に「安心」という付加価値を提供できます。 この記事では、家を売る人が知っておくべきインスペクションのメリット、費用、そして「もし欠陥が見つかったらどうするか」という対処法までを徹底解説します。

1. そもそも「インスペクション」とは何か?

ホームインスペクション(住宅診断)とは、建築士などの資格を持つ専門家(既存住宅状況調査技術者)が、第三者の公平な立場から、家の劣化状況や欠陥の有無を調査することです。

2018年の宅建業法改正により、不動産会社は売買契約の前に「インスペクション業者のあっせん可否」などを説明することが義務化されました。それほど、国も重要視している手続きなのです。

具体的に何をするの?

大掛かりな破壊調査(壁を剥がすなど)は行いません。基本的には「目視」「計測」「触診」による非破壊検査です。

  • 基礎・外壁: ひび割れ(クラック)はないか?

  • 屋根: 瓦のズレや破損はないか?

  • 室内: 床や柱の傾きはないか? 雨漏りのシミはないか?

  • 床下・屋根裏: シロアリ被害や水漏れ、断熱材の状態はどうか?

これらを2〜3時間かけてチェックし、後日「診断報告書」としてまとめてくれます。


2. 売主がインスペクションを行う「3つのメリット」

「買主がやりたいならやればいい。なぜ売る側がお金を払ってやるの?」 そう思うかもしれません。しかし、実は売主こそ、インスペクションをやるメリットが大きいのです。

メリット①:売却後のトラブル(契約不適合責任)を防げる

売主にとって最大の恐怖は、引き渡し後に欠陥が見つかり、「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」を問われることです。最悪の場合、修補請求や契約解除、損害賠償を求められます。 事前にプロの診断を受け、「ここは劣化しています」と説明して納得の上で契約すれば、その部分については責任を問われません。「後出しジャンケン」によるトラブルを未然に防ぐ保険のようなものです。

メリット②:他の物件と差別化でき、早期売却につながる

買主の心理として、「中身がどうなっているか分からない家」と「プロのお墨付きがある家」なら、間違いなく後者を選びます。 「インスペクション済み物件」として売り出すことは、競合物件に対する強力なアピールポイントになり、結果として早く、希望価格で売れる可能性が高まります。

メリット③:「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」に入れる

検査に合格すると、**「瑕疵保険」という保証制度に加入できる資格が得られます(※別途加入手続きが必要)。 この保険に入っている物件は、買主にとって「万が一の欠陥も保証される」だけでなく、「住宅ローン減税などの税制優遇が受けやすくなる」**という大きな金銭的メリットがあります。つまり、買主にとっても「お買い得な物件」になるのです。


3. 費用とタイミング

費用相場

建物の大きさや検査内容によりますが、一般的な戸建て住宅(30坪程度)の場合、以下の通りです。

  • 基本診断(目視): 5万〜7万円程度

  • 詳細診断(床下・屋根裏への進入、ドローン調査など): 10万〜12万円程度

決して安くはありませんが、売却後のトラブルで数百万円を請求されるリスクを考えれば、必要な「必要経費」と言えるでしょう。

実施するタイミング

おすすめは「売り出し前(媒介契約締結時)」です。 広告に「インスペクション済み!」と大きく掲載できるため、集客効果が最大化されます。 また、もし購入希望者が現れてから「やりましょう」となると、結果が出るまで契約がストップしてしまい、最悪の場合、診断結果を見てキャンセルされる(時間の無駄になる)リスクがあります。


4. 診断の流れとチェックポイント

当日は売主も立ち会うのが基本です。どのような流れで進むのか見てみましょう。

① 業者の選定・申し込み

不動産会社が紹介してくれることもありますが、売主自身がネットで探して依頼することも可能です。「日本ホームインスペクターズ協会」などの認定会員を選ぶと安心です。

② 現地調査(2〜3時間)

検査員が家の中と外を回ります。

  • 【外回り】 双眼鏡や打診棒を使い、基礎のひび割れや外壁の浮きをチェック。

  • 【室内】 レーザーレベル(水平器)で床の傾きを測定。建具の開閉動作確認。

  • 【床下・小屋裏】 点検口から頭を入れて覗き込んだり、オプションで床下ロボットや検査員が進入して配管の水漏れやシロアリをチェックします。

③ 報告書の受領(数日〜1週間後)

診断結果が詳細なレポートとして届きます。写真付きで「是正推奨」「問題なし」などの判定が記載されています。


5. もし「不具合(劣化)」が見つかったら?

売主が一番心配なのはこれでしょう。「欠陥が見つかったら、家が売れなくなるのでは?」 しかし、パニックになる必要はありません。対処法は2つあります。

パターンA:補修してから売る

軽微な不具合(網戸の破れ、小規模な水漏れなど)であれば、数万円で直してしまいましょう。「不具合はありましたが、修繕済みです」と言えれば、逆に管理が行き届いている印象を与えられます。

パターンB:直さずに「告知」して売る(価格調整)

費用がかかる不具合(シロアリ被害や屋根の劣化など)が見つかった場合、無理に直す必要はありません。 重要なのは、「正直に伝えること」です。 「屋根の劣化がありますが、その分、価格を○○万円下げています。購入後にリフォームしてください」 こう伝えれば、買主は納得して購入できますし、後からクレームになることもありません。

一番怖いのは、「知らないまま売ること」と「知っていて隠すこと」です。


6. マンションでも必要?

戸建てに比べると、マンションでのインスペクション実施率はまだ低めです。外壁や屋根などの「共用部分」は管理組合が管理しているため、個人の検査対象外だからです。 しかし、マンションでも以下のチェックは有効です。

  • 専有部分の給排水管の水漏れ

  • 床の傾き

  • 設備の動作不良

特に築年数が古いマンションでは、リノベーション前提の買主に対して「配管の状態」などの情報を開示できることは大きな強みになります。


まとめ:インスペクションは「家の履歴書」

中古住宅の売買は、これまで「買ってみないと分からないギャンブル」のような側面がありました。しかし、インスペクションを行うことで、それを「納得のいく公正な取引」に変えることができます。

  • 買主への「安心」の提供

  • 売主自身の「保身(リスク回避)」

この2つを同時に叶えるのがインスペクションです。 5万〜10万円の投資で、数千万円の取引を安全に進められるなら、決して高い買い物ではありません。 大切な資産を気持ちよく次の住まい手に引き継ぐために、家の「健康診断」を受けてみませんか?

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