国民年金保険料の「追納」は得か損か? 50代が判断すべき3つのポイント
50代を迎えると、定年退職や老後の生活が現実的なものとして迫ってきます。「ねんきん定期便」を見て、「あれ? 過去に未納や免除の期間がある…」と気付く方もいるでしょう。
過去10年以内に、失業や収入減などで国民年金保険料を払っていない(免除・猶予されていた)期間がある場合、それを後から支払う制度を「追納(ついのう)」と言います。
「今さら払って、元は取れるの?」 「手元の現金を減らしてまで払う価値はある?」
この判断は、特にリタイアが近づく50代にとって非常に重要です。結論から言うと、資金に余裕があるなら「追納は圧倒的に得」になるケースが多いです。
この記事では、50代が追納すべきかどうかを判断するための「3つのポイント」を、損得勘定を交えて徹底解説します。
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1. そもそも「追納」とは? 仕組みとルール
まずは基本のルールを押さえましょう。 国民年金の保険料免除・納付猶予などの承認を受けた期間がある場合、10年以内であれば、後から保険料を納めることができます。
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なぜ追納するのか? 免除や猶予の期間は、将来もらえる「老齢基礎年金」の金額が減らされて計算されます(全額免除期間だと、受取額は本来の半分など)。追納することで、これを「満額」に戻すことができます。
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注意点:加算額(ペナルティのようなもの) 免除等の承認を受けた年度の翌々年度を過ぎてから追納する場合、当時の保険料に一定の金額(加算額)が上乗せされます。つまり、少し割高になります。
2. 判断ポイント①:「10年」で元が取れるという事実
「追納は損か得か」を考える際、最もシンプルな指標は**「何年生きれば元が取れるか(損益分岐点)」**です。
ざっくりとした計算
現在(令和6年度)の国民年金保険料は月額16,980円ですが、わかりやすく例として「約40万円(2年分)」を追納したとします。
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支払う額(投資): 約40万円
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増える年金額(リターン): 年間約4万円(生涯続く)
これを計算すると、約10年で支払った額を回収できます。
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65歳受給開始なら: 75歳で元が取れる。
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日本の平均寿命: 男性約81歳、女性約87歳。
統計的に見れば、「追納すれば、支払った額以上の年金を受け取れる確率の方が圧倒的に高い」と言えます。これは、元本保証のない投資商品と比べると、非常に勝率の高い「金融商品」と捉えることもできます。
3. 判断ポイント②:50代の特権!「節税効果」を加味する
ここが最も重要なポイントです。50代の方の多くは、現役時代の中で比較的年収が高い時期にいます。実は、追納には「支払った全額が『社会保険料控除』の対象になる」という強力なメリットがあります。
つまり、追納した分だけ、その年の「所得税」と「住民税」が安くなるのです。
節税効果のシミュレーション
例えば、年収600万円(所得税率20%、住民税10%=計約30%)の会社員が、溜まっていた40万円分を一気に追納したとします。
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見かけの支払額: 40万円
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戻ってくる税金(節税額): 40万円 × 30% = 12万円
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実質の負担額: 40万円 - 12万円 = 28万円
実質負担額で考え直すと…
実質28万円の負担で、毎年4万円の年金が増えることになります。 すると、損益分岐点は「10年」から「7年」に短縮されます!
結論: 年収が高い(税率が高い)50代のうちに追納を行うことで、実質的な「割引価格」で将来の年金を買うことができます。これはiDeCoやNISAにはない、公的年金ならではの即効性のあるメリットです。
4. 判断ポイント③:手元の「流動性」と「運用」の比較
3つ目のポイントは、キャッシュフロー(現金の流れ)です。
年金は「長生きリスク」には最強ですが、「死んでしまったらおしまい(掛け捨て)」という側面もあります(遺族年金等の加算要素にはなり得ますが、基本的には本人の老後資金です)。また、一度払うと解約して現金に戻すことはできません。
以下のチェックリストで判断してください。
追納を「見送るべき」ケース
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[ ] 現在、貯蓄が少なく、手元の現金が減ると不安。
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[ ] 健康状態に深刻な不安があり、平均寿命まで生きられるか自信がない。
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[ ] 借金やローンの返済が苦しい(利息の高い借金返済を優先すべき)。
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[ ] 自分で運用(新NISAなど)して、年利4〜5%以上で確実に増やす自信がある。
追納を「すべき」ケース
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[ ] 当面の生活費や教育費に余裕がある。
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[ ] 銀行に眠らせている預金(金利ほぼ0%)がある。
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[ ] 老後も今の水準で長生きするつもりだ。
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[ ] 「終身(死ぬまでもらえる)」という安心感が欲しい。
50代にとって、iDeCo(60歳まで引き出せない)やNISA(元本割れリスクあり)と比較しても、「節税(確実なリターン)」+「終身年金(長生きへの保険)」のセットである追納は、非常に堅実な選択肢と言えます。
5. 【番外編】「子供の年金」を親が追納する裏技
もし、あなた自身の年金記録が完璧で追納するものがなくても、「20代のお子さんの国民年金」が猶予(学生納付特例など)になっていませんか?
実は、親が子供の分の追納をしてあげることも可能です。 そして、その分の「社会保険料控除」は、支払った親(あなた)が受けることができます。
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メリット: 子供は将来の年金が増える。親は今の税金が安くなる。
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戦略: お子さんが就職したばかりでまだ年収が低い場合、子供自身が払うよりも、年収の高い親が払った方が、世帯全体の節税効果は大きくなります。相続税対策の一環として生前贈与代わりに使う方もいます。
6. まとめ:50代の追納は「資産運用のラストスパート」
国民年金の追納は、単なる「未納の穴埋め」ではありません。以下の3つの条件が揃う50代にとっては、高確率で勝てる投資です。
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10年(節税込みなら7年)長生きすればプラスになる。
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高収入な今のうちに払えば、大幅な節税(キャッシュバック)がある。
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インフレに強い「終身年金」を増やせる。
手続きは簡単です
「ねんきんネット」で追納可能期間を確認するか、お近くの年金事務所へ電話して「追納したいので納付書をください」と伝えるだけです。
10年という期限(時効)は刻一刻と迫っています。「あの時払っておけばよかった」と後悔しないよう、まずは自分の記録を確認することから始めましょう。
