年金生活者の「確定申告」義務とメリット:申告で節税できるケースとは?

現役時代は会社がやってくれていた「年末調整」。リタイアして年金生活に入ると、「確定申告」という言葉が急に現実味を帯びてきます。

「年金しか収入がないから関係ない」 「手続きが面倒だから、しなくていいならしたくない」

そう思っている方は、ちょっと待ってください。実は、「しなくていい人」でも、あえて申告をすることで数万円〜十数万円のお金が戻ってくる(還付される)ケースが非常に多いのです。

この記事では、年金生活者が知っておくべき確定申告の「義務」のルールと、知らないと損をする「節税メリット」について、わかりやすく解説します。

1. 私は対象? まずは「確定申告不要制度」を知ろう

年金生活者には、煩雑な手続きを減らすために「確定申告不要制度」という特例が設けられています。以下の2つの条件をどちらも満たしている場合、法律上、確定申告をする義務はありません。

【申告しなくていい人の条件】

  1. 公的年金等の収入金額が「400万円以下」であること

  2. 公的年金以外の所得(アルバイト、個人年金、不動産収入など)が「20万円以下」であること

日本の年金受給者の多くはこの条件に当てはまるため、基本的には「申告義務なし」となります。しかし、ここが最大の落とし穴です。

重要ポイント

「申告しなくていい(義務がない)」=「申告してはいけない」ではありません。

むしろ、義務がない人こそ、申告をすれば税金が戻ってくる可能性が高いのです。

2. なぜ戻ってくる? 年金にかかる税金の仕組み

公的年金は、受け取る時点で所得税があらかじめ引かれている(源泉徴収されている)ことが多いです。

しかし、この天引き額は、「最低限の控除」しか考慮されていない概算払いのようなものです。

実際には、あなたに「医療費がたくさんかかった」「家族の保険料を払った」などの事情があっても、役所や年金機構はそれを知りません。

確定申告とは、「私にはこういう出費(控除)があったので、税金を払いすぎていますよ」と申告し、払いすぎた分を取り戻す手続きなのです。

3. 申告すると得する(お金が戻る)5つのケース

具体的に、どんな人が申告すべきなのでしょうか? 特に年金生活者に多い「5つの鉄板パターン」紹介します。

① 医療費がかさんだ人(医療費控除)

最も代表的な還付理由です。

「年間10万円も病院に行っていないから無理」と諦めていませんか? 実は、年金収入が少ない方には「10万円の壁」以外のルールがあります。

  • 通常のルール: 年間支払った医療費が 10万円 を超えた場合

  • 年金生活者の特例: 総所得金額等が200万円未満の人は、「総所得金額等の5%」を超えた場合

所得が150万円の人なら⇒150万円 ×5% = 7.5万円

つまり、この場合、医療費が7万5000円を超えていれば、その分が控除対象になります。

また、「通院のための交通費(電車・バス)」や「ドラッグストアで買った風邪薬(セルフメディケーション税制との選択)」も対象になることを忘れずに。

② 社会保険料を「口座振替」などで支払った人

公的年金から天引きされている介護保険料や国民健康保険料は、最初から計算に入っています。

しかし、以下のような支払いは、申告しないと控除されません。

  • 納付書や口座振替で支払った国民健康保険料・後期高齢者医療保険料

  • 生計を一にする配偶者や子供の国民年金・健康保険料を代わりに支払った場合

特に、配偶者の保険料を夫の口座から支払っている場合、それは夫の控除として申告できます。これは大きな節税になります。

③ 生命保険・地震保険に入っている人

現役時代と同様、民間の生命保険、介護医療保険、個人年金保険、地震保険の掛金は控除の対象です。

秋頃に保険会社から届く「控除証明書」を捨てずに保管しておき、申告書に添付しましょう。

④ 家族構成が変わった(親族控除)

  • 老人扶養控除: 70歳以上の親族を扶養している場合、控除額が大きくなります。別居していても、仕送りをしている事実があれば認められるケースがあります。

  • 寡婦・ひとり親控除: 夫と死別、あるいは離婚した後、再婚していない場合は控除が受けられる可能性があります。

  • 障害者控除: ご本人や扶養家族が障害者手帳を持っている場合だけでなく、「要介護認定」を受けている高齢者の場合、市町村から「障害者控除対象者認定書」をもらえば、障害者控除の対象になることがあります(これを知らない方が非常に多いです!)。

⑤ 住宅ローンが残っている、またはリフォームをした

年金生活でも、要件を満たせば住宅ローン控除を受けられます。また、バリアフリー改修や省エネ改修を行った場合、「住宅特定改修特別税額控除」などが使える場合があります。

4. 住民税の「申告」も忘れずに!

ここで一つ、非常に重要な注意点があります。

「所得税の確定申告は不要(還付金もない)」という場合でも、お住まいの市区町村への「住民税の申告」は必要な場合があります。

なぜ住民税の申告が必要?

住民税の申告をしないと、行政はあなたの正確な所得や控除の状況を把握できません。その結果、以下のようなデメリットが発生するリスクがあります。

  1. 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料が高くなる(軽減措置が適用されない)。

  2. 介護保険料が高くなる

  3. 高額療養費制度の自己負担限度額が上がってしまう

「税金は0円だから関係ない」と思って放置していると、税金以外の「保険料」で損をする構造になっているのです。

収入が公的年金のみの場合でも、医療費控除などを住民税の申告で提出することで、翌年の保険料が安くなる可能性があります。

5. 手続きは意外と簡単になっています

「確定申告=税務署の大行列」というイメージがあるかもしれませんが、最近は変わってきています。

  1. スマホで申告(e-Tax): マイナンバーカードがあれば、自宅からスマホ一つで完了します。画面の案内に沿って、源泉徴収票の数字を入力するだけです。

  2. 作成コーナーで印刷: 国税庁のWebサイトで入力して、PDFを印刷し、郵送で提出。これなら並ぶ必要はありません。

まとめ:まずは「源泉徴収票」の確認から

年金生活者の確定申告は、義務ではありませんが、「やれば得する権利」です。

  1. 医療費の領収書を集める(5%ルールを意識!)。

  2. 社会保険料や生命保険の証明書を探す。

  3. 1月の「公的年金等の源泉徴収票」を見る。

源泉徴収票の「源泉徴収税額」の欄に数字が入っている(=税金が引かれている)なら、上記の控除を使ってその税金を取り戻せるチャンスがあります。逆に、ここが「0円」なら、所得税の還付はありません(ただし、住民税の申告で保険料が下がる可能性は残ります)。

面倒くさがらずに一度チェックすることで、春先のちょっとしたお小遣い(還付金)や、毎月の固定費削減(保険料ダウン)に繋がります。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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