親の認知症で口座が凍結!?家族が困らないための「財産管理委任契約」入門
突然の事態!親の認知症で銀行口座が凍結するリスク
ご自身の親御さんがもし認知症などで判断能力が低下してしまったら、その後の生活費や医療費、介護費の支払いはどうなるでしょうか。
多くの方が驚かれるかもしれませんが、親御さんの銀行口座は凍結されてしまう可能性が高いのです。そんな方のためにこの記事では財産管理委任契約について解説していきます。
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なぜ口座が凍結されるのか?
銀行は、口座名義人本人による取引であることを確認する義務があります。認知症などで本人の意思確認が困難になった場合、以下のようなリスクを防ぐために、銀行は預金の引き出しや解約などの取引を停止します。
- 不正な引き出しを防ぐため:家族であっても、本人の意思に基づかない無断の引き出しを防止する。
- トラブルを回避するため:後々「お金を盗られた」といった訴えや、相続時の家族間での金銭トラブルを防ぐ。
- 取引の安全確保のため:判断能力がない方との取引は、法的な効力が問題になる可能性がある。
一度口座が凍結されると、たとえ家族であっても、生活費や介護費のために親のお金を引き出すことが原則としてできなくなってしまいます。
【事例】口座凍結が招く深刻な問題
具体的な事例を通して、口座凍結の深刻さを考えてみましょう。
| 事例 | 状況 | 結果(深刻な問題) |
| Aさん(長男) | 遠方に住む母(要介護3)が認知症を発症。母の年金口座から介護費用や医療費を引き出して送金しようとした。 | 窓口で母の認知症の状況を伝えたところ、口座が即日凍結された。当面の介護施設の費用や病院への支払いができず、支払いを肩代わりすることになった。 |
| Bさん(長女) | 父が軽度の認知症。自宅を売却して、老人ホームへの入居資金に充てる計画だった。 | 不動産の売却には本人の明確な意思確認が必要だが、父の判断能力が不十分とみなされ、自宅の売却契約が進められなくなった。結果、老人ホームへの入居が大幅に遅れた。 |
口座凍結は、単にお金を引き出せないだけでなく、大切な親の生活や住まいに関する重要な決断までをもストップさせてしまうのです。
家族が困る!口座凍結後の対策は?
口座が凍結された後、親の財産からお金を引き出すためには、原則として「成年後見制度」を利用する必要があります。
成年後見制度のメリット・デメリット
| メリット | デメリット | |
| 成年後見制度 | 裁判所が選任した後見人が財産管理を行うため、本人の保護は手厚い。 | 手続きが煩雑で時間がかかる。親族が後見人になれるとは限らない(専門職が選任されることが多い)。後見人への報酬が発生する。原則として本人が亡くなるまで続く。 |
成年後見制度は強力な制度ですが、手続きの負担や費用の問題、財産管理の自由度が低くなるなどのデメリットもあり、柔軟な対応が難しい面があります。
認知症になる前に!有効な予防策「財産管理委任契約」
では、親御さんが元気なうちに、将来の認知症による口座凍結や財産管理の問題に備えるにはどうすれば良いでしょうか。その対策の一つが「財産管理委任契約」です。
財産管理委任契約とは?
財産管理委任契約とは、本人が元気なうちに、自分の財産管理やその他の事務手続きを、信頼できる家族などの代理人(受任者)に任せる契約です。
これは、民法上の「委任契約」に基づいており、「任意後見契約」が本人の判断能力が低下した後に効力を発揮するのに対し、財産管理委任契約はすぐに効力を発生させることも可能です。
財産管理委任契約のメリット
- 【認知症になる前から使える】
親御さんの判断能力が十分なうちから、体調不良や入退院時など、必要に応じて財産管理を任せることができます。 - 【管理する財産や権限を自由に設定できる】
どの財産を、どのような範囲で管理してもらうか(例:預貯金の出し入れ、公共料金の支払い、不動産の管理など)を自由に決めることができます。 - 【任意後見契約と組み合わせられる】
この契約で現在の財産管理を委任しつつ、将来の認知症に備えて「任意後見契約」を別途結ぶことで、判断能力の低下前と低下後、切れ目なく財産管理を任せることが可能になります(これを「移行型」と呼びます)。
※【注意点】 財産管理委任契約は、その権限の範囲内で銀行取引ができる可能性が高まりますが、金融機関によっては別途「代理人届」の提出や、銀行独自のサービス利用を求められることがあります。契約内容を金融機関に事前に確認しておくことが重要です。
家族を困らせないために、今からできること
親御さんの財産は、親御さん自身の老後の生活費、そして将来の介護や医療に必要不可欠な資金です。
「まだ元気だから大丈夫」と油断せず、親御さんの判断能力が十分にある「今」のうちに、信頼できる家族との間で「財産管理委任契約」や「任意後見契約」の検討を進めることが、家族の安心につながる最善の備えとなります。
財産管理委任契約の作成には、契約内容や範囲を明確にする必要があり、専門的な知識が求められます。
必ず専門家に相談を!契約の重要性と作成の注意点
財産管理委任契約は非常に強力な備えとなりますが、契約の有効性や実効性を高めるためには、いくつかの注意点があります。
公正証書での作成が原則
家族間で私的に契約書を作成することも可能ですが、後で「本当に本人の意思か」といった疑義が生じるのを防ぐため、公正証書として作成することが強く推奨されます。公正証書にすることで、公的な証明力が得られ、金融機関なども契約内容を受け入れやすくなります。
銀行への確認と代理人届の提出
財産管理委任契約があっても、銀行がその契約書だけですべての取引を認めてくれるとは限りません。取引のある金融機関に対し、事前に「認知症対策として財産管理を任せたい」旨を伝え、必要な手続き(例:代理人届の提出や銀行独自のサービスの利用)を確認しておくことが不可欠です。
専門家のサポートが必要
この契約は、将来にわたる財産管理を委ねる非常に重要な契約です。契約内容に不備があったり、曖昧な表現があったりすると、いざという時に使えなくなる恐れがあります。
したがって、契約の目的や管理する財産の範囲を明確にし、法的に有効な文書を作成するためには、司法書士や弁護士といった専門家に相談することが最も安全で確実です。専門家は、親御さんの状況や家族の意向に合わせた最適な契約内容を提案してくれます。
まとめ
親御さんの財産は、親御さん自身の老後の生活を守るための大切な資金です。「まだ元気だから大丈夫」と油断せず、親御さんの判断能力が十分にある「今」のうちに、専門家を交えて対策を講じましょう。
