【2025年問題】高齢社会の相続で予想されるトラブルとは
2025年、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるにあたって「2025年問題」が話題となっていることはご存じでしょうか。多くの人たちが後期高齢者となることで医療・介護費の増加だけでなく、相続における家族間のトラブル(争族)の増加も懸念されています。
そこで、本記事では「2025年問題」をテーマに、相続への影響や生前からできる対策方法を紹介します。対策もあわせてご紹介しますので、ぜひご一読ください。
2025年問題とは
「2025年問題」とは、日本社会において2025年頃に顕在化すると予測されている複数の社会問題を総称したものです。その中でも、特に以下の3つの側面が相続に深く関わってきます。
超高齢社会が到来している
2025年、日本の総人口の5人に1人が後期高齢者という、世界的にも類を見ない超高齢社会が到来しています。日本では2007年以降出生数が死亡数を下回るようになっており、総人口数の減少も続いています。
つまり、介護や医療が欠かせない人口は増え続け、高齢者層を支える現役世代は減少の一途をたどっているのです。
参考URL NHK ことし約5人に1人が後期高齢者に 医療や介護の体制拡大が課題(2025年1月2日 5時27分)
医療・介護費用が増加する
高齢者の増加は、医療費や介護費といった社会保障費の急増に直結しています。公的年金や健康保険料の負担が増加し、現役世代の経済的負担が重くなることが懸念されています。
生前の扶養や介護費用の負担で相続税の納税資金不足や、遺産分割における争いの火種となることも考えられます。
認知症など判断能力に影響を及ぼす病も増加
高齢化にともない、認知症患者の増加も深刻な社会問題となっています。厚生労働省の推計では、2025年には認知症患者が700万人を超え、高齢者の約5人に1人に達すると予測されています。認知症の進行により本人の判断能力が低下すると、資産管理が困難になるだけでなく、遺産分割協議への参加が困難になるおそれがあります。
認知症が進行すると「成年後見人」が必要となるケースは多く、家族の負担も増加すると考えられています。(詳しくは後述します)
参考URL 厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)p.1
2025年問題が及ぼす相続への影響とは
上記で解説した「2025年問題」は、相続における「手続き」には、具体的にどのような影響を及ぼすのでしょうか。この章では手続き面からわかりやすく影響について解説します。
老老相続の増加
日本は高齢者の増加の背景には、医療の発達により平均寿命が他国と比較しても長いことも挙げられます。長寿化により、亡くなる方(被相続人)も、相続財産を相続する方(相続人)も高齢である「老老相続」が増加しています。
親の相続財産を相続する子も高齢の場合、親の相続後すぐに子自身が亡くなり、連続して相続が発生する「数次相続」や「相次相続」が発生するケースも多くなるため、親族内に重い相続手続きが連続することがあるのです。この他に「老老相続」がもたらす問題点は以下です。
成年後見人の必要性の増加
認知症患者の増加にともない、相続人の判断能力の低下で遺産分割協議に参加できない場合があります。遺産分割協議は、原則として相続人全員が参加した上で合意する必要がありますが、判断能力が低下している場合は「法律行為」(※)が難しいため成年後見人が必要です。
成年後見人をつけてもらうためには、家庭裁判所への申立て手続きが必要です。また、家庭裁判所が選任するため、ご家族の希望通りの成年後見人が選ばれるとは限りません。
また、現時点では一度成年後見人が選任されると原則として本人が亡くなるまで続くため、財産が長期的に管理されます。制度の不便さから見直しについては議論されているものの、改正の見通しは立っていません。申立てなどについては以下リンクをご確認ください。
(※)法律行為とは、契約の締結や遺産分割協議の合意など、当事者の意思表示に基づいて法律効果を発生させる行為を意味します
参考URL 裁判所 成年後見制度について
相続税の納税資金の不足
先に触れた老老相続のように、短期間のうちに連続して相続が発生した場合、相続税を支払うための納税資金が不足するおそれがあります。特に実家や事業用の不動産など、流動性の低い資産を多く所有している場合、相続税の納税のために売却せざるを得ないケースも出てくるでしょう。
しかし、相続税の申告・納税期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められており、短期間での不動産売却は困難なケースも少なくありません。
相続税の物納といった方法も検討できますが、物納できる財産には順位が定められており、認められない可能性もあります。
後継者不足による事業承継の頓挫
中小企業や個人事業主の高齢化も深刻です。日本国内にある企業の99.7%が中小企業とされていますが、少子高齢化を背景に後継者不在の傾向があります。
2025年問題は経営者の高齢化と引退の時期が重なることで、この後継者不足問題に拍車をかける可能性もあります。後継者がいないまま経営者が亡くなってしまうと、会社を畳む作業などが相続人に重くのしかかるため、注意が必要です。
今から始める!おすすめの相続対策とは
2025年以降も超高齢社会は継続すると予想されているため、相続税の納税資金不足などが起きないように、日頃から相続対策を講じることが大切です。相続対策を進めておくことで、家族間の「争族」を避ける効果もあります。そこで、本章では具体的な相続対策をご紹介します。
生前贈与の活用
生前贈与とは、自身の財産を配偶者や子などへ生前のうちから渡すことを意味します。生前贈与を行うことで相続財産を減らせるため、相続税の節税効果があります。
①暦年贈与
一般的に広く利用されている「暦年贈与」は、受贈者(財産をもらう人1人につき、年間110万円までの贈与であれば贈与税がかかりません。暦年贈与は毎年少しずつ非課税で財産を移転できるため、計画的に行えば大きな節税効果が期待できます。
②相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、贈与者から受贈者への贈与について、累計で2,500万円までが贈与税の特別控除として非課税になります。贈与者および受贈者には、年齢の制約がありますが、大きな財産を贈与で移転させたい時におすすめです。
ただし、本制度は贈与者が亡くなった際、相続時精算課税制度を適用して贈与された財産は、贈与時の評価額で相続財産に加算し、相続税を計算します。将来価値が上がる可能性のある不動産や株式、収益がある物件などを贈与すると、大きな節税効果が期待できます。
この他にも、住宅取得資金贈与の特例や教育資金の一括贈与の特例、結婚・子育て資金の一括贈与の特例など、非課税枠が設けられている贈与方法もあります。これらを活用することで、多額の贈与を非課税で行うことが可能です。贈与で財産を受け取っておけば、相続税の納税資金にも利用できます。
生命保険への加入
生命保険も相続対策におすすめです。生命保険に加入しておくと、被保険者の死亡時に「死亡保険金」を受け取ることができます。死亡保険金は「受取人固有の財産」とみなされ、遺産分割協議の終了を待たなくても受け取ることが可能です。
また、死亡保険金は一定額まで非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)が設けられているため、相続税の納税資金を確保する上でも役立ちます。
遺言書による相続の円滑化
遺言書はご自身の財産を誰に分配するか、意思を明確に示せる書面です。相続人間で遺産分割トラブルが予想される場合、遺言書で財産を承継する人を指定しておけば、遺産分割の協議を行わずに分配できます。つまり、相続人の中に認知症の人がいても協議の必要がなくなるため、手続きの負担が生じないのです。
法定相続人以外の人(内縁の妻や、生前にお世話になった友人、団体など)に財産を遺したい場合や、特定の相続人に多くの財産を遺したい場合などは、遺言書がなければその意思は実現されないためご注意ください。(※相続税の2割加算に注意)
遺言書には大きく分けて、以下の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
この中でも公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」は、形式不備で無効になるリスクが低く、原本が公証役場に保管されるため紛失のおそれがありません。
(※)相続税の2割加算における注意点
相続税の計算において、代襲相続ではない孫や内縁の妻など法定相続人以外が財産を受け取った場合、その相続税額が2割加算されるというルールがあるため注意しましょう。
参考URL 国税庁 No.4157 相続税額の2割加算
事業承継を早めに始める
中小企業や個人事業主の場合、後継者不足による事業承継の頓挫は、経営者だけでなく従業員や地域経済にも大きな影響を及ぼします。
事業承継は単に経営者の交代だけでなく、株式や事業用資産の移転、債務保証の引き継ぎ、取引先や従業員との関係構築など、多岐にわたる準備が必要です。早めに後継者を育成し株式の贈与や売買など、段階的に進めることが重要です。事業継承には税制優遇措置も存在するため、専門家(税理士や弁護士、中小企業診断士など)のサポートを受けながら、計画的に進めましょう。
まとめ
本記事では「2025年問題」について、相続への影響の視点から詳しく解説しました。今後老老相続は増加すると考えられるため、生前から贈与や事業継承の用意などをしっかりと行っていくことが大切です。
また、相続トラブルの多くは相続人間で遺産を争う傾向があるため、今後「争族」が予想される場合は遺言書を作成しておくこともおすすめです。