相続放棄とは?基本的な手続きの流れと注意点を詳しく解説

令和4年度の司法統計年報によると、相続放棄の受理件数は282,785件であり、前年度の令和3年の260,497件と比較すると大きく増加しています。相続放棄は被相続人(亡くなられた人)の相続財産の一切を引き継がないもので、家庭裁判所に申述という手続きを行う必要があります。

相続放棄は被相続人に高額の借金があった、生前から被相続人との交流がなく、財産はいらないケースなどで行われる手続きですが、具体的にはどのような流れで進めるのでしょうか。そこで、本記事では相続放棄の基本的な流れや注意点を詳しく解説します。

参考 最高裁判所事務総局 令和5年 司法統計 年報 3 家事編 第2表 家事審判・調停事件の事件別 新受件数―全家庭裁判所 p6-7.

相続放棄のイメージ画像

相続放棄とは?手続きの流れを4つに分けて解説

相続放棄とは、被相続人の残した相続財産についてプラスの財産・マイナスの財産の一切を相続しない手続きです。家庭裁判所に申述し、認められれば放棄が完了します。この章では相続放棄について、手続きの基本的な流れを解説します。

1.相続放棄の検討

相続放棄をするべきか、まずは相続人ご自身で検討します。相続放棄は相続人が遺した住まいや預貯金なども放棄するため、受け取りたい財産があったとしても相続できません。

高額の債務があったとしても、後述する限定承認と比較・検討した上で相続放棄を決めることがおすすめです。

2.期限内に申述する

相続放棄の申述には期限があり、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する必要があります。この期間を「熟慮期間」と呼びます。熟慮期間を超えてしまうと単純承認(相続を認めること)をしたとみなされるため、相続放棄ができなくなってしまうため注意が必要です。

3.家庭裁判所から照会書が届く

家庭裁判所で申述が受理されると、申述した相続人に対し、申述内容に間違いがないかなどを確認するための「照会書」が送付されます。照会書の内容をよく確認し、必要事項を記入して返送します。

4.相続放棄申述受理通知書が届く

照会書の内容に問題がなければ、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。これにより、相続放棄が正式に認められたことになります。

相続放棄をしたことを第三者(債権者など)に証明する必要がある場合は、家庭裁判所に申請して「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらうことが可能です。

通知書だけでは相続手続きが進まないことも多いため、証明書は複数取得しておくケースもあります。通知書は無料、証明書は1通150円です。

相続放棄時の必要書類と費用

相続放棄は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下の必要書類と費用を添えて提出します。

必要書類

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
  • 放棄する相続人の戸籍謄本

なお必要書類は放棄をする相続人の順位によって、用意すべき戸籍謄本通数が異なります。詳しくは以下の裁判所リンクをご確認ください。

参考  裁判所 相続の放棄の申述

費用

申述時に必要な費用は収入印紙と郵便切手で用意します。収入印紙は各家庭裁判所共通で800円、郵便切手は各家庭裁判所で異なるため、以下リンクから申述先の家庭裁判所が示す切手をご用意ください。

参考 裁判所(各地の裁判所一覧)

相続放棄の注意点

相続放棄は短期間で重大な決断を強いられる手続きです。実際に放棄を決める前には知っておきたい注意点もあります。そこで、この章では相続放棄の注意点をわかりやすくまとめます。

相続放棄には手続きの期限がある

前述の通り、相続放棄には相続の開始を知った日から3ヶ月の期限があります。この期限を過ぎると原則として相続放棄はできなくなり、単純承認したものとみなされます。被相続人に借金がある場合、相続人はプラスの財産だけではなく借金の返済義務なども相続してしまうため注意が必要です。

しかし、3か月の期間では被相続人の借金の総額や、財産調査が終わらないケースもあります。相続放棄の判断材料が揃っていないようなケースでは、家庭裁判所に「期間の伸長」と呼ばれる手続きを行うことで、3か月を超える熟慮期間が認められることがあります。

相続放棄の決断に時間を要しそうな場合は、あらかじめ期間の伸長を申述しておきましょう。

参考 裁判所 相続の承認又は放棄の期間の伸長

単純承認に注意が必要

熟慮期間中に相続財産の一部または全部を処分したり、隠したりする行為があった場合、相続放棄ができなくなることがあります。では、単純承認とは具体的にどのような行為でしょうか。

①単純承認に該当する行為の一例

・処分する行為
被相続人の車や家を処分した、預貯金を解約した、被相続人に未払いの税金を支払ったなど

・隠す行為
被相続人の預貯金や現金をこっそり隠した、貴金属類を隠したなど

②単純承認に該当しない行為の一例

被相続人の財産を処分・隠すなどの行為は単純承認に該当するものの、以下に挙げる内容は単純承認にはみなされません。

・被相続人に葬儀費用を、被相続人の預貯金口座から支払った
・被相続人の死去に伴い支払われた生命保険金を受け取った など

葬祭費用の支払いはやむを得ないものであり、不当に高額な費用でなければ被相続人の財産からの支払いが認められています。また、生命保険金は相続人固有の財産と認められているため、相続放棄をしても受け取れます。

単純承認に迷ったら法律相談が望ましい

単純承認は「どのような行為が単純承認とみなされるのか」判断が難しいものです。上記に上げたように、葬儀費用の支払いは認められるものの、被相続人が生前に滞納していた税金、相続人が被相続人の財産から支払うことは処分行為に該当し、相続放棄がその後認められない可能性が高いでしょう。

ただし、相続人自身の財産から支払った場合は単純承認ではないと考えられています。
相続人が相続放棄を検討している場合、被相続人が生前に入居していた賃貸契約をどうするか、滞納家賃や携帯電話使用料などはどうするか、など、細かい点に注意する必要があります。

独断で判断すると単純承認になってしまう可能性があるため、法律相談を受けアドバイスをもらった上で相続放棄を検討されることがおすすめです。

他の相続人に同意を得なくても手続きできる

相続放棄は、相続人が単独で行える手続きであり、遺産分割協議のように相続人全員が参加して協議をする必要はありません。他の相続人の同意を得る必要はなく、伝えずに相続放棄を進めても問題ありません。

ただし、相続放棄をするとその相続人がはじめから存在しなかったことになるため、次順位の人が相続人となります。この新たに相続人となる人に対して、家庭裁判所から「前の順位の人が相続放棄したため、あなたが次の相続人です」と連絡されることはありません。

借金が多いことによる相続放棄は、次順位の人へ督促が始まる可能性が高いため、関係が良好な場合は伝えておくことが望ましいでしょう。

知っておきたい相続放棄のメリット・デメリット

相続放棄を行う際には、メリット・デメリットも把握した上で行うことが大切です。そこで、この章ではわかりやすくメリット・デメリットを図で解説します。

メリット・デメリット

メリット デメリット
・被相続人の借金など、マイナスの財産を放棄できる
・他の相続人との遺産分割協議に参加する必要がなくなる
・相続人単独で相続放棄できる
・住居などプラスの財産も一切相続できない 
・相続放棄後は原則撤回できない
・別の親族が相続人になるケースがある

相続放棄自体は難しい手続きではなく、遺産分割協議に参加したくない、などの理由でも放棄することが可能です。ただし、家庭裁判所で認められた後は原則として撤回できません。相続放棄は別の親族が相続人となるケースもあるため、家族間のトラブルには十分に注意する必要があります。

相続放棄・限定承認・相続分の放棄の違い

被相続人の財産を放棄する方法には、相続放棄以外にも「限定承認」や「相続分の放棄」という方法が挙げられます。では、この3つの手続きはどのような違いがあるのでしょうか。簡潔にご紹介します。

3つの手続きの違いとは

相続放棄: 相続財産(プラスもマイナスも含む)を一切相続しない
限定承認: 相続によって得たプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を弁済するプラスの財産を超える負債がある場合でも、自己の財産から弁済する必要がない。家庭裁判所への申述が必要。
相続分の放棄: 遺産分割協議において、自分の相続分を他の相続人に譲ること。相続放棄とは異なり、相続権そのものを放棄するものではないため、借金などの債務を放棄できない。

住まいなどを守るために、すべての財産を放棄する相続放棄が難しい場合は、相続で得るプラスの財産の範囲内で債務も承継する「限定承認」が考えられます。しかし、本手続きは相続人全員の同意が必要で複雑な手続きも多く、全国でもあまり利用されていません。

また、相続分の放棄はあくまでも相続人に向けて「私には財産は不要です」と宣言するものであり、債務を放棄できるような効力はありません。債務を完全に放棄したい場合は、相続放棄を行う必要があります。

まとめ

本記事では相続放棄の基本的な流れや、手続き時の注意点を詳しく解説しました。被相続人の相続財産に借金があるかどうかわからない場合や、相続放棄・限定承認・相続分の放棄のどれを選択すべきか判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談した上で慎重に判断されることがおすすめです。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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