死後の事務手続きを代行! 「死後事務委任契約」のメリットと費用

「おひとりさま」という言葉が定着しましたが、最期を迎えるその瞬間まで「ひとり」で完結できるわけではありません。

人が亡くなると、誰かが遺体を引き取り、火葬し、役所に届出を出し、部屋を片付け、電気やガスを解約しなければなりません。 これらは通常、家族の役割ですが、頼れる家族がいない場合、誰がやってくれるのでしょうか?

「遺言書を書いたから大丈夫」 「成年後見人をつけているから安心」

そう思っているとしたら、それは大きな誤解です。実は、遺言書も後見人も、この「死後の片付け」にはほとんど役に立たないのです。

そこで今、注目されているのが「死後事務委任契約(しごじむいにんけいやく)」です。 この記事では、あなたの死後の尊厳を守り、誰にも迷惑をかけずに旅立つための「最後の手続き」について、メリットや費用を詳しく解説します。

1. 遺言書や後見人ではカバーできない「空白」

まず、なぜこの契約が必要なのか、既存の制度の「穴」を知っておく必要があります。

遺言書ができること

遺言書は「財産を誰に渡すか」を指定するものです。「私の葬儀はこうしてほしい」「部屋の荷物は捨ててほしい」と書いても、それに法的な強制力はありません。また、遺言書が開けられるのは四十九日法要の後になることも多く、葬儀や火葬には間に合いません。

成年後見人ができること

後見人は、生前の財産管理をする人です。法律上、本人が死亡した瞬間にその職務は終了します。

一部の死後事務(火葬など)は法改正で認められるようになりましたが、あくまで限定的です。例えば、アパートの退去手続きや遺品整理、友人に連絡することまでは、後見人の権限外となるケースが多いのです。

つまり、「亡くなった直後から納骨まで」の様々な手続きをカバーする制度が、これまで存在しなかったのです。その隙間を埋めるのが「死後事務委任契約」です。


2. 具体的に何を頼める? 「死後事務」のリスト

この契約では、あなたが元気なうちに、第三者(弁護士、司法書士、NPO法人など)と契約を結び、死後の具体的な手続きを依頼します。

頼める内容は多岐にわたります。

① 遺体・葬儀に関する手続き

  • 病院や施設への駆けつけ、遺体の引き取り。

  • 葬儀社への連絡、喪主の代行。

  • 火葬の手配、納骨(永代供養墓への埋葬など)。

② 行政・公共料金の手続き

  • 死亡届の提出。

  • 健康保険証、年金手帳の返却。

  • 公共料金(電気・ガス・水道)、携帯電話の解約と未払い金の精算。

③ 住まい・遺品の手続き

  • 賃貸アパートの解約、退去立ち会い。

  • 敷金の精算、未払い家賃の支払い。

  • 部屋に残された家財道具の処分(遺品整理業者への依頼)。

  • 飼っていたペットの引き渡し(新しい飼い主や施設へ)。

④ その他の手続き

  • 知人・友人への死亡通知。

  • SNSアカウントやパソコン内データの削除(デジタル遺品整理)。

これらをオーダーメイドで組み合わせ、「私はここまでやってほしい」と決めることができます。


3. この契約が必要な人・向いている人

家族がいる人でも利用するケースはありますが、特に以下のような方にとっては「必須」と言える制度です。

① 頼れる家族がいない「おひとりさま」

独身の方、子供がいないご夫婦(配偶者に先立たれた後が心配な方)。

② 家族・親族と疎遠な人

親族はいるが、長年連絡を取っておらず、死後の面倒まで頼むのは気が引ける(または拒否される可能性がある)方。

③ 「内縁関係(事実婚)」のカップル

法的な配偶者ではないため、病院で遺体の引き取りを拒否されたり、相手の死後手続きを行う権限がなかったりするリスクがあります。お互いに死後事務委任契約を結んでおくことで、法的な裏付けを持って相手を見送ることができます。


4. 費用はどれくらい? 「予納金」の仕組み

便利な制度ですが、タダではありません。費用は「誰に頼むか」「どこまで頼むか」によって大きく変わりますが、一般的な相場を見てみましょう。

費用の構成

費用は大きく分けて以下の3つで構成されます。

  1. 契約時の初期費用: 契約書作成料など(数万円〜10万円程度)。

  2. 実行報酬(手数料): 実際に手続きを行った際の手間賃。

  3. 実費(予納金): 葬儀代、火葬代、片付け費用などの実費。

相場(トータルコスト)

一般的な内容(通夜なしの直葬、納骨、役所手続き、賃貸解約、遺品整理)を依頼した場合の目安です。

  • 弁護士・司法書士事務所: 100万円 〜 200万円

  • NPO法人・民間企業: 50万円 〜 150万円

「予納金(よのうきん)」とは?

依頼を受ける側は、「葬儀代を立て替えたけれど、遺産から回収できなかった」というリスクを避けるため、契約時に概算費用(実費+報酬)をあらかじめ預かっておく(信託口座などに入れる)のが一般的です。

つまり、契約の段階でまとまった現金が必要になります。

必要総額≒基本報酬 + (葬儀実費 + 片付け実費) + 予備費

「高い」と感じるかもしれません。しかし、これには葬儀代やお墓代の実費も含まれています。家族がいれば家族が負担するはずだった費用を、前払いするイメージです。


5. トラブルを防ぐための注意点

死後事務委任契約は、あなたが亡くなった後に実行されるため、「やっぱり解約したい」「話が違う」と文句を言うことができません。契約先の選び方は慎重に行う必要があります。

預けたお金は守られるか?

一番のリスクは、契約した団体や事務所が、あなたが亡くなる前に倒産したり、預けたお金を使い込んだりすることです。

  • 「信託銀行」などで分別管理されているか?

  • 弁護士などの専門家が監督人としてついているか?

    これらを必ず確認し、運営体制がしっかりしている先を選びましょう。

親族との調整は済んでいるか?

「疎遠だから」と親族に内緒で契約していても、法的な親族がいれば、警察や病院はまずそちらに連絡します。

親族が「遺体は引き取る」と言い出した場合、契約した業者とトラブルになることがあります。可能であれば、事前に親族に「死後のことは業者に任せてある」と伝えておくか、エンディングノートにその旨を明記しておくことが重要です。


まとめ:最後の一歩を、自分で決める安心感

「立つ鳥跡を濁さず」と言いますが、現代社会において、跡を濁さずに旅立つには、それなりの準備と資金が必要です。

死後事務委任契約は、「誰にも迷惑をかけたくない」という想いを、法的な契約という形で実現するツールです。

これさえ整えておけば、「孤独死したらどうしよう」「葬式も出してもらえないのではないか」という漠然とした不安から解放され、今をより安心して生きることができるようになります。

まずは、自分が死んだ後に「誰が、何をしてくれる予定なのか」をシミュレーションすることから始めてみましょう。もしそこが「空白」になっているなら、この契約があなたの最後の砦になります。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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