高齢者の「ペット飼育」はリスクか癒しか? 判断基準と準備すべきこと
「定年退職して時間ができたから、また犬を飼いたい」 「伴侶に先立たれて寂しい。猫がいれば気が紛れるのに」
シニア世代の方から、こうした声をよく聞きます。ペットとの暮らしは、孤独感を癒やし、生活に張り合いを与えてくれる素晴らしいものです。アニマルセラピーという言葉がある通り、心身の健康維持にも大きな効果があります。
しかし、同時に社会問題となっているのが「飼い主の高齢化による飼育放棄」です。 飼い主が入院したり、亡くなったりした後、残されたペットが行き場を失う悲劇が後を絶ちません。
「飼いたいけれど、自分の年齢を考えると無責任になるのでは…」 その迷いは、命を大切に思うからこその誠実な悩みです。
この記事では、高齢者がペットを飼うことのメリットとリスクを整理し、飼うための「絶対条件」と、万が一に備えるための「ペット信託」などの準備について解説します。
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1. シニアがペットを飼う「3つの癒し効果」
まずはポジティブな面から見ていきましょう。高齢者がペットと暮らすことには、医学的・心理的にも大きなメリットがあります。
① 幸せホルモンによるメンタル安定
動物と触れ合うと、脳内で「オキシトシン」という幸せホルモンが分泌されます。これにより、ストレスが軽減され、情緒が安定します。配偶者を亡くした喪失感(ペットロスならぬヒューマンロス)のケアにも有効です。
② 生活リズムの維持と運動不足解消
特に犬の場合、毎日の散歩が必須です。「犬のために起きなければ」「散歩に行かなければ」という義務感が、規則正しい生活と運動習慣を作り、フレイル(虚弱)予防に繋がります。
③ 社会とのつながり
散歩中に「可愛いワンちゃんですね」と声をかけられたり、動物病院に行ったりすることで、社会との接点が生まれます。ペットは最強のコミュニケーション・ツールです。
2. 目を背けてはいけない「リスクと現実」
しかし、「癒やされるから」という理由だけで飼い始めるのは危険です。動物の寿命は伸びており、犬も猫も平均15歳前後、長ければ20歳まで生きます。
リスク①:老老介護(ろうろうかいご)
飼い主が歳をとれば、ペットも歳をとります。 70歳で子犬を飼い始めたら、85歳の時に、15歳の老犬を介護することになります。大型犬であれば、寝たきりになった際の介助は重労働です。自分自身の足腰が弱っている中で、十分な世話ができるでしょうか?
リスク②:飼い主の「もしも」の時
高齢者は、突然の入院や施設入居のリスクと隣り合わせです。
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入院中、誰が散歩や餌やりをするのか?
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認知症になり、世話ができなくなったら?
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飼い主が先に亡くなってしまったら?
「その時は子供が面倒を見てくれるだろう」という安易な期待は禁物です。子供には子供の生活や事情(アレルギー、ペット禁止マンションなど)があります。
3. あなたは飼える? 「判断基準チェックリスト」
「飼いたい」と「飼える」は違います。以下の質問に、自信を持って「YES」と答えられるか確認してください。
【ペット飼育・自己診断リスト】
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年齢の壁: 「自分の健康寿命 - ペットの寿命 > 現在の年齢」ですか?
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(例:健康寿命80歳 - 猫15年 = 65歳がリミットの目安)
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経済力: 生涯にかかる費用(犬猫ともに約200万〜300万円)に加え、自分とペットの「老後資金」は確保できていますか?
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体力: 10年後も、毎日散歩に行ったり、重いトイレ砂を運んだりする体力がありますか?
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【最重要】後見人: あなたに万が一のことがあった時、**「私が責任を持って引き取ります」と確約してくれている人(家族・知人)**はいますか?
もし一つでも「NO」がある場合、子犬や子猫から飼い始めるのは避けたほうが賢明です。
4. それでも飼いたい時の「準備と対策」
「条件は厳しいけれど、どうしても動物と暮らしたい」。そんな方のための、リスクを最小限にする方法と準備を紹介します。
① 「成犬・成猫」の里親になる
子犬・子猫はしつけが大変で、寿命も長いです。 あえて「7歳以上のシニアペット」や「成犬・成猫」を保護団体から譲り受けるという選択肢があります。
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落ち着いていて飼いやすい。
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自分の余命とペットの寿命を合わせやすい。
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殺処分されるかもしれない命を救える。
保護団体によっては、「飼い主が入院した場合は団体が引き取る」という永年預かり制度を設けているところもあります。
② 「ペット信託」を利用する
「家族に頼める人がいない」という場合の切り札です。 「ペット信託」とは、自分の財産の一部(飼育費用)を信頼できる人や団体に託し、自分が飼えなくなった時に、そのお金を使って新しい飼い主や施設にペットの世話をしてもらう法的な仕組みです。
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メリット: 口約束ではなく、契約としてペットの将来を守れます。
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費用: 初期費用や管理費がかかりますが、確実性は高いです。
③ 「老犬・老猫ホーム」の予約
人間同様、ペットのための老人ホームもあります。 終生飼養(死ぬまで面倒を見てくれる)契約を結んでおくことで、自分が入院や施設入居をする際、ペットを安心して預けることができます。
5. 飼わないという愛情:「代替案」の提案
リスクを考えた結果、「飼わない」という決断をすることも、立派な愛情です。 それでも寂しい場合、以下のような代替案があります。
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ロボットペット: 最新のAIペット(aiboやLOVOTなど)は、驚くほど精巧で、温かみがあり、愛着が湧きます。餌もトイレも不要で、飼い主の負担になりません。
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一時預かりボランティア: 保護団体が次の飼い主を見つけるまでの間、短期間だけ自宅で預かるボランティアです。
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猫カフェ・犬カフェ通い: 責任を負わずに、好きな時に触れ合いに行きます。
まとめ:最後まで責任を持つ覚悟を
高齢者がペットを飼うことは、決して悪いことではありません。 しかし、それは「自分の命と、動物の命、どちらが先に尽きるか分からない」というリレーのバトンを、確実に渡せる準備ができている場合に限られます。
「寂しいから」という自分の感情だけでなく、「この子を路頭に迷わせないために何ができるか」を冷静に考えてください。 万全の準備をした上でのペットとの暮らしは、あなたの人生の後半戦を、より豊かで温かいものにしてくれるはずです。
