認知症で親の口座が凍結!? 資産を守る「家族信託」の仕組みをわかりやすく解説

親の介護や認知症のニュースを見聞きして、ふと不安になることはありませんか? 「もし親が認知症になって、銀行口座の暗証番号がわからなくなったらどうしよう」 「介護費用を捻出するために実家を売りたいけど、親の意思確認ができなくなったら売れないのでは?」

実は今、この「親の資産凍結」という問題が、多くのご家族を悩ませています。 銀行は、名義人が認知症になり「意思能力がない」と判断すると、資産を守るために口座を凍結します。こうなると、家族であってもお金を引き出すことは極めて困難になります。

そこで今、救世主として注目を集めているのが「家族信託(かぞくしんたく)」です。

これは、成年後見制度のような窮屈さがなく、家族の絆で資産を守る新しい仕組みです。 この記事では、難しい法律用語を使わずに、家族信託の仕組みとメリット、そして導入するための具体的な手順をわかりやすく解説します。

1. そもそも「資産凍結」とは? なぜ起きるのか

「家族なんだから、窓口で事情を話せばおろせるでしょう?」 そう思っているなら、非常に危険です。銀行にとって最も重要なのは「預金者本人の財産保護」です。

認知症になるとできなくなること

親御さんが認知症と診断され、判断能力が低下したとみなされると、以下の法的行為が一切できなくなります。

  • 預金の引き出し・解約: 定期預金の解約は特に厳格です。

  • 不動産の売却・修繕契約: 実家を売って老人ホームの入居金に充てたくても、売買契約書にサインできません。

  • アパート経営の管理: 賃貸物件を持っている場合、修繕や入居者との契約ができなくなります。

つまり、「親のお金はあるのに、介護費用に使えない」という最悪の事態(資産凍結)に陥ってしまうのです。


2. 従来の「成年後見制度」との決定的な違い

これまで、認知症になった後の対策といえば「成年後見(せいねんこうけん)制度」が一般的でした。しかし、これには家族にとって使いづらい点がありました。

成年後見制度のデメリット

  1. 毎月のランニングコストが高い: 弁護士や司法書士が後見人に選ばれると、月額2万〜6万円ほどの報酬を、親が亡くなるまで払い続けなければなりません。

  2. 資産の活用が制限される: 目的は「財産を守ること」なので、生前贈与や、積極的な資産運用、孫への入学祝いなどは原則認められません。

  3. 家族がなれるとは限らない: 家族が後見人になりたいと希望しても、家庭裁判所が専門家(第三者)を選任するケースが多いです。

これに対し、「家族信託」は、これらのデメリットを解消できる柔軟な制度なのです。


3. 図解でわかる! 「家族信託」の仕組み

家族信託を一言でいうと、「親が元気なうちに、資産の管理権限だけを信頼できる子供に移しておく契約」です。

登場人物は3人です。

  1. 委託者(いたくしゃ): 財産を持っている人(親)

  2. 受託者(じゅたくしゃ): 財産を管理・運用する人(子)

  3. 受益者(じゅえきしゃ): 財産から利益を受ける人(親)

通常は、「委託者=親」「受益者=親」とします。 つまり、「お金の管理は子供に任せるけれど、そのお金を使うのは親(自分のため)」という形にするのです。

例えるなら「財布の預け替え」

親御さんが、「自分は計算が苦手になったから、この財布はお前が管理してくれ。でも、中身のお金は私が生活するために使ってね」と言って、子供に財布を渡すイメージです。

これにより、たとえ親御さんが認知症になっても、管理権限を持っている子供(受託者)が、自分の判断で預金を引き出したり、実家を売却したりすることが合法的に可能になります。


4. 家族信託の3つの大きなメリット

なぜ今、家族信託を選ぶ人が急増しているのでしょうか。

メリット①:認知症になっても「実家」が売れる

これが最大にして最強のメリットです。 信託契約の中に「不動産の売却権限」を入れておけば、親が認知症で施設に入った後、空き家になった実家を子供のハンコだけで売却し、その代金を親の施設費用に充てることができます。

メリット②:専門家への「月額報酬」が不要

成年後見制度のように、見ず知らずの弁護士に毎月報酬を払う必要はありません。管理するのは家族(子供)なので、報酬をゼロに設定することも可能です。 初期費用はかかりますが、長期間で見ればコストを大幅に抑えられます。

メリット③:遺言書以上の機能がある(二次相続の指定)

遺言書では、「自分の遺産を妻に」とは指定できますが、「妻が死んだら次は長男に」と、その先の指定まではできません。 家族信託なら、「自分が死んだら妻へ、妻が死んだら長男へ」と、**数世代先の資産承継まで決めておく(受益者連続信託)**ことができます。


5. 費用と始め方:元気なうちしかできない!

家族信託には一つだけ、絶対的な条件があります。 それは、「親御さんに判断能力があるうち(認知症になる前)でないと契約できない」ということです。

「少し物忘れが出てきたかな?」という今が、ラストチャンスかもしれません。

導入の流れ

  1. 家族会議: 親、子、他の兄弟姉妹も含めて、「誰に任せるか」「将来どうしたいか」を話し合います。

  2. 専門家へ相談: 司法書士や行政書士など、家族信託に詳しい専門家に設計を依頼します。

  3. 公正証書の作成: 公証役場で、法的な効力を持つ「信託契約書」を作ります。

  4. 信託口口座の開設・登記: 信託用のお金を管理する専用口座を作り、不動産の名義を「委託者(親)」から「受託者(子)」へ変更(信託登記)します。

費用の目安(初期費用)

財産額にもよりますが、一般的には50万円〜100万円程度(コンサルティング費用、公正証書作成費、登記費用など)かかります。 「高い!」と感じるかもしれませんが、成年後見制度で月3万円を10年払うと360万円かかることを考えれば、十分に元が取れる投資と言えます。


まとめ:家族信託は、親子の「信頼」の証

家族信託は、単なる節税対策や資産防衛ではありません。 親御さんが、「自分の老後と財産を、信頼できるお前に託したい」という想いを形にし、子供が「責任を持って親の人生を支える」と応える、家族の愛と信頼の契約です。

もし親御さんが認知症になってしまったら、もうこの契約は結べません。 「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「元気な今だからこそできるプレゼント」として、一度ご家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。

本記事の内容は、原則、記事執筆日時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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