相続で「揉める家族」と「揉めない家族」の決定的な違い
「うちは大した財産なんてないから、相続争いなんて関係ないよ」
長年、相続の現場に立ち会ってきた専門家として断言します。その油断こそが、家族の絆を引き裂く最大の原因です。
実は、裁判所で調停にまで発展する相続トラブルのうち、遺産総額が5,000万円以下の「普通の家庭」が全体の約75%を占めています。富裕層ではなく、ごく一般的な家庭こそが、最も揉めやすいのです。
では、円満に相続を終える家族と、骨肉の争いに発展してしまう家族。その決定的な違いはどこにあるのでしょうか?
この記事では、プロの視点から見た「揉める家族」と「揉めない家族」の思考と行動の違い、そして今日からできる具体的な対策を徹底解説します。
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1. データで見る真実:なぜ「普通の家庭」ほど揉めるのか?
まず、最大の誤解を解いておきましょう。「お金持ちほど揉める」はドラマの中だけの話です。
争族(そうぞく)の温床は「分けられない財産」
富裕層は、現金や株などの金融資産が多く、顧問税理士がついているため、事前に対策が打たれています。
一方、一般的な家庭の財産の大半を占めるのは「実家(不動産)」です。
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兄: 「実家を継いで住み続けたい」
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弟: 「家はいらないから、俺の取り分は現金でくれ」
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妹: 「介護したのは私なんだから、少し多くもらいたいはず」
唯一の財産である「実家」は、ケーキのようにナイフで綺麗に切り分けることができません。これが、普通の家庭で泥沼の争いが起きる最大のメカニズムです。
2. 特徴比較:「揉める家族」vs「揉めない家族」
両者の違いは、財産の額ではなく、「準備」と「コミュニケーション」の質にあります。
| 特徴 | 揉める家族(Bad) | 揉めない家族(Good) |
| 財産の内容 | 全貌が不明。親が隠している。 | リスト化され、全員が把握している。 |
| 会話の頻度 | 「縁起でもない」とタブー視。 | お盆や正月に明るく話題にする。 |
| 介護の負担 | 特定の子供に押し付けている。 | 役割分担や金銭的補償を話し合っている。 |
| 遺言書 | ない(口約束のみ)。 | 公正証書遺言がある。 |
| 思考回路 | 「法定相続分(権利)」を主張。 | 「親の想い」と「公平性」を重視。 |
【揉める家族の典型例】
最大のリスク要因は「親の口約束(ダブルスタンダード)」です。
長男には「お前には家をやるから頼むな」と言い、次男には「お前たちには平等に残すから」と良い顔をしてしまう。親が亡くなった瞬間、この矛盾が露呈し、兄弟間の不信感は頂点に達します。
3. 決定的な違い①:「平等」と「公平」の履き違え
揉めない家族は、「平等(Equality)」と「公平(Equity)」の違いを理解しています。
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平等: 子供3人なら、機械的に3等分すること。
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公平: それぞれの貢献度や事情を考慮して分けること。
例えば、長女が10年間、仕事を辞めて親の介護をしていたとします。この場合、全く顔を見せなかった長男と同じ金額(平等)で分けることは、長女にとって「不公平」に映ります。
揉めない家族の親は、この「心情的な公平さ」を調整しています。
「長女は介護で苦労をかけたから、多めに渡す。その代わり、長男と次男はこれで納得してくれ」という合意形成が生前になされているのです。
4. 決定的な違い②:最強のツール「付言事項」の有無
これがプロとして最も伝えたいポイントです。
法的な効力を持つ「遺言書」は重要ですが、それだけでは不十分な場合があります。揉めない家族の遺言書には、必ずと言っていいほど「付言事項(ふげんじこう)」が添えられています。
付言事項とは?
遺言書の最後に記す、家族への手紙(メッセージ)のことです。法的な拘束力はありませんが、相続人の心を動かす絶大な力を持っています。
【揉める遺言書の例】
「長男に不動産を相続させる。次男には現金200万円を相続させる。」
(次男の心の声): 「なんで兄貴ばっかり! 親父は俺のことが嫌いだったのか?」
【揉めない遺言書(付言事項あり)】
「長男に不動産を、次男には現金を相続させる。
(付言事項)
次男へ。金額に差が出てすまないと思っている。ただ、この家は先祖代々守ってきたもので、長男にはそれを維持する苦労も背負ってもらうことになる。お前が家を建てるときに援助した300万円は、生前贈与のつもりだった。兄弟仲良く、助け合って生きていってほしい。父より」
(次男の心の声): 「…そうか、親父はちゃんと考えてくれていたんだな。仕方ない、兄貴に任せるか」
このように、「なぜそう分けたのか」という理由(想い)が記されているかどうかが、争いを防ぐ最後の防波堤になります。
5. 今からできる「争族」回避の3ステップ
「うちは大丈夫」と思っている方こそ、今日から以下の3つを始めてください。
ステップ①:財産の「棚卸し」をする
プラスの財産(不動産、預金、株)だけでなく、マイナスの財産(借金、ローン)も含めてリスト化しましょう。
特に「使っていない不動産」や「名義預金(子供名義だが親が管理している通帳)」はトラブルの元です。
ステップ2:家族会議を開く(親が元気なうちに)
親が認知症になってからでは、法的な対策(遺言書の作成や不動産の売却)は一切できなくなります。
「介護はどうするか」「実家はどうするか」。お盆や正月に、親を含めて腹を割って話す機会を設けてください。
ステップ3:遺言書を作成する(公正証書で)
自筆の遺言書は、形式不備で無効になったり、発見者が隠蔽したりするリスクがあります。
プロ(公証人)が作成し、原本を公証役場で保管してくれる「公正証書遺言」を作成するのが、最も確実で安全な方法です。
まとめ:相続は「最後のラブレター」
相続対策とは、単なる「お金の計算」ではありません。
残された家族が、その後も笑顔で食卓を囲めるようにするための、親から子への「最後のラブレター」であり、「思いやり」です。
「揉める家族」は、問題(感情や財産)を先送りにします。
「揉めない家族」は、元気なうちに問題に向き合い、言葉にして伝えています。
相続で家族の絆を壊さないために。
まずはエンディングノートを一冊買い、自分の財産と想いを書き出すことから始めてみませんか?
