「葬儀の規模」と「費用」：家族葬から一日葬まで、予算別の選択肢

「葬儀には一体いくらかかるのか？」 これは、人生の最期に関わる最も切実な、しかし誰にでも聞きづらい疑問です。

かつては「盛大に見送るのが親孝行」とされた時代もありましたが、現在は「家族だけでゆっくりお別れしたい」「費用を抑えて、残された家族の生活を守りたい」という価値観が主流になりつつあります。

葬儀の形は多様化しており、「一般葬」「家族葬」「一日葬」「直葬（火葬式）」など、選択肢が増えた分だけ、費用もピンからキリまであります。

この記事では、葬儀の種類ごとの「規模」と「費用相場」を整理し、予算に合わせて最適な形を選ぶための判断基準を、プロの視点で分かりやすく解説します。

1. まず知っておくべき「葬儀費用の内訳」

葬儀費用と言っても、葬儀社に支払うプラン料金だけではありません。大きく分けて3つの要素で構成されています。

1. 葬儀一式費用（約50%）： 祭壇、棺、人件費、会場費など（葬儀社に支払う）。

2. 飲食接待費（約30%）： 通夜振る舞い、精進落とし、返礼品など（人数で変動）。

3. 寺院費用（約20%）： 読経料、戒名料など（お布施）。

これから紹介する費用相場は、これらを含めた「総額」の目安です。

2. 【予算別】葬儀のスタイルと費用相場

予算や希望するお別れの形に合わせて、主な4つのスタイルを比較します。

① 直葬・火葬式（ちょくそう・かそうしき）

• 予算目安： 20万〜40万円

• どんな葬儀？： 通夜や告別式といった儀式を行わず、火葬のみを行う最もシンプルな形式です。病院などから安置場所へ移動し、24時間経過後（法律上の規定）に火葬場で最後のお別れをします。

• メリット： 費用が最も安い。身体的・精神的負担が少ない。

• デメリット： 「お経もあげずに焼くだけなんて」と親族から反対されることがある。お別れの時間が短い（火葬場の炉前で5〜10分程度）。

② 一日葬（いちにちそう）

• 予算目安： 40万〜80万円

• どんな葬儀？： 通夜を行わず、告別式と火葬を1日ですませる形式です。日中は仕事がある参列者や、高齢の遺族にとって負担が軽いため、近年急増しています。

• メリット： 宿泊費や通夜の飲食費がかからない。遠方の親族も日帰りが可能。

• デメリット： 「通夜（夜伽）」でお酒を酌み交わしながら故人を偲ぶ時間が持てない。菩提寺（付き合いのあるお寺）の許可が必要な場合がある。

③ 家族葬（かぞくそう）

• 予算目安： 80万〜150万円

• どんな葬儀？： 家族や親族、極めて親しい友人だけで行う小規模な葬儀です。流れは一般葬と同じ（通夜＋告別式）ですが、義理の参列者（会社関係や近所）を呼ばないのが特徴です。

• メリット： 参列者への対応に追われず、故人とゆっくり向き合える。返礼品や食事の数を予測しやすい。

• デメリット： 呼ぶ・呼ばないの線引きが難しい。後日「なんで教えてくれなかったんだ」と自宅に弔問客が押し寄せ、かえって対応が大変になるリスクがある。

④ 一般葬（いっぱんそう）

• 予算目安： 150万〜250万円以上

• どんな葬儀？： 親族だけでなく、知人、会社関係、近所の方などを広く招く従来型の葬儀です。

• メリット： 一度で多くの人にお別れをしてもらえる。香典収入が見込めるため、実質的な自己負担額は家族葬より安くなるケースもある。

• デメリット： 準備や当日の対応が大変。費用が高額になりがち。

3. 「安さ」だけで選ぶと失敗する？ 注意すべき落とし穴

チラシやネット広告で「葬儀一式 8万円〜」といった激安価格を見ることがありますが、これを鵜呑みにするのは危険です。

「追加料金」のからくり

激安プランには、葬儀に最低限必要なものが含まれていないことが多々あります。

• ドライアイス代： 安置日数が増えると追加（1日1万円程度）。

• 搬送費： 深夜料金や長距離料金が加算される。

• 安置料： 自宅に安置できない場合、専用施設の利用料がかかる。

これらを足していくと、最終的に見積もりの2倍、3倍になることも珍しくありません。必ず「総額でいくらになるか」を確認しましょう。

お布施の盲点

葬儀プランには「お寺へのお布施」は含まれていません。 お寺を呼ぶ場合、別途数万円〜数十万円（戒名のランクによる）の現金を用意する必要があります。もし「無宗教」で行うならお布施は不要ですが、菩提寺がある場合は、勝手に無宗教葬や直葬をすると、納骨を断られるトラブル（お墓に入れてもらえない）に発展することもあります。

4. 賢い選び方：後悔しないための3ステップ

では、どのように選べばよいのでしょうか。

ステップ①：誰を呼びたいかリストアップする

「費用」から入るのではなく、「誰にお別れをしてほしいか」から考えます。

• 家族だけでいい → 家族葬・一日葬

• 会社関係や友人も呼びたい → 一般葬

• 儀式はいらない、静かに送りたい → 直葬

ステップ②：複数の葬儀社から見積もりを取る

これが最も重要です。同じ「家族葬」でも、A社は80万円、B社は120万円と大きく異なることがあります。 元気なうちに「事前相談」に行き、見積もりをもらっておきましょう。「会員割引」などで数万円〜数十万円安くなることもあります。

ステップ③：お寺に相談する（菩提寺がある場合）

先祖代々のお墓がある場合は、必ずお寺に「こういう形（一日葬など）でやりたい」と相談してください。事前にお布施の金額を聞いておくのも失礼ではありません。

まとめ：葬儀は「残された人のため」のものでもある

「お金をかけたくないから直葬でいい」 故人がそう言っていたとしても、残された家族が「やっぱりちゃんとお経をあげてあげたかった」と後悔し、何年も心残りになるケースがあります。

葬儀の規模と費用は、単なる節約の話ではありません。「どのように別れを告げれば、家族が前を向いて生きていけるか」という心の整理のための選択です。

予算を守ることは大切ですが、安さだけにとらわれず、家族みんなが納得できる「ちょうどいいお別れの形」を見つけてください。