親が認知症の疑いがある場合や認知症になった場合の資産管理方法のメリット・デメリットを解説
親が認知症になると、資産の管理が困難になり、銀行口座の利用に制限が生じることもあります。その結果、親の生活費や医療費を家族が立て替えなければならなくなります。
そのようなことにならないためにも親が認知症になる前に財産管理や相続対策は重要になってきます。
今回は認知症になる前にやっておくべき対処法や認知症になってしまった場合の対処法などを、厳選して詳しく解説します。
認知症になる前の資産管理方法
①任意後見制度
任意後見制度とは、本人が十分な判断能力があるときに、予め本人が信頼できる人(任意後見人)に、将来、本人の判断能力が低下した場合に、生活や財産に関する事務を委託契約(任意後見契約)する制度です。
本人が判断能力のあるうちに、信頼できる人を任意後見人に選任することで、詐欺や悪徳商法から本人の財産を守ることができます。介護施設の入所契約や入院の契約なども、任意後見人が代理するのでスムーズです。
なお、任意後見契約は、公証人のもとで公正証書として作成する必要があります。また、契約を締結しただけでは効力は生じず、本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してはじめて効力が発生します。
任意後見制度のメリット
・自分自身の意思で任意後見人を選べること
・任意後見人に依頼したい内容をある程度自由に決められること
任意後見制度のデメリット
・認知症になってからでは利用できない
・任意後見監督人の選任が必須で、監督人の監督下で財産管理を行う必要がある
・任意後見人に取消権がないので、本人が不利な契約をしても取り消すことができない
・死後事務の依頼はできない
②家族信託
認知症になったときの備えとして、家族信託という選択肢もあります。家族信託は、本人の財産を信頼できる家族や第三者に委託し、特定の人のために契約時に定めた目的に沿って、管理・処分・運用する制度です。
家族信託のメリット
・本人が認知症になっても財産管理が可能
・成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができる
・自由度の高い財産管理ができる
家族信託のデメリット
・身上看護(介護や医療契約等)には対応していない
・親族間で不公平感・トラブルが発生する可能性がある
・相続税の節税にはならない
家族信託と任意後見制度の違いについては以下の記事を参照してください。
家族信託とは?手続きは自分でできる? 任意後見制度との違いなど詳しく解説
③代理人届
親の認知症が軽度で、まだ法律上の委任行為ができる程度の判断能力がある場合、代理届を活用して資産を管理する方法があります。銀行の代理人届とは、預金者本人が事前に銀行に申し込むことで、本人が銀行窓口やATMに行けない場合に、本人に代わって届け出された代理人が銀行手続きができるサービスです。
代理人届のメリット
・認知症による判断能力の低下後も、家族に預金管理を任せることができる
・暗証番号を忘れても、代理人カードで財産管理ができる
代理人届のデメリット
・認知症進行による口座凍結のリスクがある
・代理人ができる取引には制限がある
認知症になってしまった後の資産管理方法
成年後見制度
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない人を保護するための制度です。
判断能力が不十分となった人に代わって、家族などが代理人(後見人)となって、財産管理や身上監護を行います。
成年後見制度には、法定後見と任意後見の2種類があり、さらに法定後見人が成年後見人・保佐人・補助人に分類されます。
すでに認知症の症状が進行していて、判断能力を失ったと判断される場合には法定後見制度しか利用できません。
成年後見制度のメリット
・本人の代わりに自身の財産や資産を管理してもらえ、経済的な破綻が予防できる
・本人の代わりに自身に本当に必要な契約を適切な判断で行なってもらえる
・判断能力が不十分な本人に代わって成年後見人が不当な契約を取り消してもらえる
成年後見制度のデメリット
・後見人申立手続は複雑で手間がかかる
・成年後見人に報酬を払う必要がある
・財産保護のため資産運用ができなくなる
・特別な理由がない限り途中で解任できない
成年後見人になれる人
法定後見人や任意後見人になるために特別な資格は必要ありません。ただし、以下に当てはまる人は後見人になれないと定められています(民法847条 )
・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・本人に対して訴訟をした人、及びその配偶者と直系血族
・行方不明者
成年後見制度については以下の記事を参照してください。
成年後見人制度とは?法定後見・任意後見の違いや手続きの流れを詳しく解説
まとめ
今回は認知症になる前にやっておくべき対処法や認知症になってしまった場合の対処法などについて解説しました。
親が認知症になってしまい判断能力を失ってしまうと、親名義の財産を管理するのが難しくなります。
親の認知症が軽度であれば、家族信託や任意後見制度など他の制度も利用できますが、親が重度の認知症になった場合には、成年後見制度を活用して成年後見人に親の財産を管理してもらうしかありません。
選択肢を増やすためにも早めに認知症対策を検討しておきましょう。家族信託や任意後見制度の手続きは複雑なので、司法書士や弁護士といった専門家への相談もご検討ください。